弁護士ブログ

2019.07.03更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。


ニュース報道によりますと,過激派組織「イスラム国」(IS)の戦闘員になるため,シリアへの渡航準備をしたなどとして,警視庁公安部は3日,私戦予備罪の被疑事実で,当時北海道大生であった男性(31歳)とイスラム法学者の元同志社大学教授(58歳)ら5人を書類送検したそうです。公安部は起訴を求める厳重処分の意見を付けたそうです。刑法の施行以降,同被疑事実の適用は初めてです。
他に書類送検されたのは,元北大生と同様に戦闘に参加しようとした千葉県在住の20代男性や,支援したジャーナリスト(50歳),30代の男性です。
公安部などによりますと,一部は「ISに加わり,戦闘員として働こうとしていた」と被疑事実を認めているようです。元教授とジャーナリストらはIS側と連絡を取って支援を依頼したり,航空券を購入したりしていたといいます。
送検被疑事実は平成26年(2014年)8月ころ,ISの戦闘活動に参加する目的でシリアへの渡航を企てたというものです。
「私戦予備罪」「刑法施行初の適用」とは,注目せざるを得ません。今回は,私戦予備・陰謀罪について解説します。


●保護法益(本質)


私戦予備・陰謀罪は国交に関する罪の一つです。その保護法益(本質)については,①正常な外交関係を危うくし,ひいては国家の対外的安全を害する罪と解されてきました。これに対し,戦後の多数説は,②国際法上の義務に基づいて外国の法益を保護する罪と解しています。しかし,日本の刑法が外国の法益を保護するのは不自然であるとして,③日本の外交上の利益であるとする見解が近時有力となっているようです。


●条文


刑法第93条 外国に対して私的に戦闘行為をする目的で,その予備又は陰謀をした者は,3月以上5年以下の禁錮に処する。ただし,自首した者は,その刑を免除する。


●構成要件


本罪は目的犯です。
「外国」とは,外国の一地方や特定の外国人の集団ではなく,国家としての外国です。よって,外国において外国人を殺傷したり,略奪行為を行う場合は含まれません。
「私的な戦闘行為」とは,わが国の意思によらない組織的な武力行為(武力による攻撃・防御)をいいます。ご承知のとおり,日本国憲法第9条1項は,国権の発動としての戦争と武力による威嚇又は武力の行使を禁じています。
「予備」とは,兵器の調達や兵士の訓練等,外国との戦闘の準備行為一般を指します。
「陰謀」とは,私戦の実行を目指して複数の者が犯罪意思をもって謀議することです。
本罪は,予備・陰謀を処罰するのみであり,私的な戦闘行為自体は処罰されていません。それは,殺人罪(刑法199条)や放火罪(刑法108条以下)等によって処罰されることとなります。
本罪では,私戦を未然に防ぐという政策的理由から,自首による刑の免除が認められています(刑法93条ただし書)。通常の自首(刑法42条1項,刑の任意的減軽)の特別規定です。


●コメント


私戦予備・陰謀罪の法定刑は「3月以上5年以下」ですから,公訴時効は5年です(刑事訴訟法250条2項5号)。公訴時効にかかる前に何とか書類送検したということがいえます。今回,公安部は起訴を求める厳重処分の意見を付けたそうですが,上記にみたとおり,「外国に対して」の構成要件を満たすかどうかが問題となりそうです。果たして初の起訴となるか注目です。


【参考文献】
前田雅英著『刑法各論講義』(東京大学出版会)
大塚裕史・十河太朗・塩谷毅・豊田兼彦著『基本刑法Ⅱ』(日本評論社)

 

投稿者: 弁護士濵門俊也