弁護士ブログ

2017.08.15更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。


今日8月15日は日本の一番長い日「終戦記念日」です。「終戦」といいますが,実際は「敗戦」です。敗戦後,わが国は「日本国憲法」を制定(手続的には「大日本帝国憲法」を改正)しましたが,戦後70年を超えその価値は広くわが国で受け入れられています。

この「日本国憲法」については,「日本国憲法はアメリカから押し付けられたものである」という議論があります。果たしてそのような議論はあり得るのでしょうか。
この点について,平成22年(2010年)に小林秀雄賞を受賞された加藤陽子著『それでも,日本人は「戦争」を選んだ』(新潮文庫)という本のなかに,興味深いお話が載っています。それは,18世紀の思想家・ルソーが20世紀の戦争における戦後処理がどうなるかということを見通していたというお話です(文庫版p49以下)。

 

加藤先生は,長谷部恭男著『憲法とは何か』(岩波新書)を引用され,ルソーの「戦争および戦争状態論」という論文にある「戦争は国家と国家との関係において,主権や社会契約に対する攻撃,つまり,敵対する国家の憲法に対する攻撃,というかたちをとる」との言葉を紹介されています。


【文庫版p50~p52を引用始め】
ルソーは考えます。戦争というのは,ある国の常備兵が三割くらい殺傷された時点で都合よく終わってくれるものではない。また,相手国の王様が降参しましたと言って手を挙げたときに終わるものでもない。戦争の最終的な目的というは,相手国の土地を奪ったり(もちろんそれもありますが),相手国の兵隊を自らの軍隊に編入したり(もちろんそれもありますが),そういう次元のレベルのものではないのではないか。ルソーは頭のなかでこうした一般化を進めます。相手国が最も大切だと思っている社会の基本秩序(これを広い意味で憲法と呼んでいるのです),これに変容を迫るものこそが戦争だ,といったのです。
相手国の社会の基本を成り立たせる秩序=憲法にまで手を突っ込んで,それを書きかえるのが戦争だ,と。とても簡単にいってしまえば,倒すべき相手が最も大切だと思っているものに根本的な打撃を与えられれば,相手に与えるダメージは,とても大きなものになりますね。こう考えれば,ルソーの真理もストンと胸に落ちます。第二次世界大戦の,無条件降伏を要求する型の戦争を,何故か十八世紀の人間であるルソーが見抜いている。本当に不思議なことです。
第二次世界大戦の終結にあたっては,敗北したドイツや日本などの「憲法」=一番大切にしてきた基本的な社会秩序が,英米流の議会制民主主義の方向に書きかえられることになりました。ですから,歴史における数の問題,戦争の目的というところから考えますと,日本国憲法というものは,別に,アメリカが理想主義に燃えていたからつくってしまったというレベルのものではない。結局,どの国が勝利者としてやってきても,第二次世界大戦の後には,勝利した国が敗れた国の憲法を書きかえるという事態が起こっただろうと思われるのです。
【以上,引用終わり】


いかがでしょうか。当職は初めて上記文章に出遭った時唸りました。まさに目から鱗が落ちる状態でした。ルソーの戦争定義からすると,近現代では戦争に負けたら憲法を変えられてしまうことは当然のことであり,歴史的必然であるということとなります。国家にはそれぞれの「正義」があり,政治の続きの先に戦争があるわけですが,戦争に敗れてしまえば,結果として憲法を書きかえられてしまうわけです。
そのように考えますと,押し付けかどうかといった議論は不毛であるといわざるを得ません。問題はその中身のようです。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2017.07.25更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。


平成29年6月16日,性犯罪を厳罰化することを含む等の刑法改正案が参議院で可決・成立し,7月13日から施行されました。
性犯罪に関する刑法の改正はしばしばされていたのですが,今回のような大幅な改正は,明治40年(1907年)に刑法が制定されて以来,実に110年ぶりなのです。
性犯罪は被害者の人格を踏みにじる「魂の殺人」ともいわれる深刻な人権侵害行為であり,とりわけ女性に対する性犯罪は「女性に対する暴力の一つ」として,女性に対する暴力撤廃宣言(1993年12月,第48回国連総会で採択された宣言)などの国際文書で,根絶に向けた各国の努力が要請されてきました。
ところが,わが国では性犯罪が軽く扱われる傾向にあり,性犯罪に対するわが国の取り組みは著しく遅れていたといえます。
こうした中,たくさんの性犯罪被害者は泣き寝入りを余儀なくされてきた歴史があります。
近年,こうした性犯罪被害者の方々が声をあげはじめ,法務大臣が見直しの検討を指示,法務省における有識者を交えた検討のすえ,法案が上程され,成立したのです。
そこで,今回はその改正法の概要を説明いたします。


■ 改正その1――男性への被害も処罰されることに
まず,強姦罪の名称が「強制性交等罪」に変更されました。
これまで強姦の被害者は女性に限定されていたのですが,「強制性交等罪」の被害者には男性も含まれることとなりました。
これに関連して,それまで男性器の膣への挿入に限定されていた強姦罪の構成要件的行為を「性交等」(膣性交,肛門性交,口淫性交)にも広げました。

とくに注目したいのは,被害を男性に対する被害にも拡大したことです。
男性から男性,女性から男性に対する性犯罪・性虐待は,実際はこれまでもあったのですが,なかなか顕在化されませんでした。男性が被害者となること,被害者の保護や支援の必要性についても社会的な理解が十分であったとは到底いえませんでした。そのため,女性の被害者よりもさらに孤立した状況に置かれていました。 
当然ながら男性に対する性犯罪・性虐待も深刻な被害をもたらすものであり,強姦の客体に含まれないのは性による差別的取扱いともいえるべき問題を含んでいました。今回の改正により,男性に対する性交も処罰することとしたことは画期的といえます。処罰対象となる性交行為も拡大し,強制的な肛門性交,口淫性交も処罰対象に入れました。
もちろん,女性に対して,口淫性交を強要したようなケースも「強制性交等罪」に該当することとなり,女性の被害として処罰される範囲も広がりました。
同様に,飲酒や薬物の影響などで抵抗できない状況にある人に性行為等をする,いわゆる準強姦と言われた犯罪は,「準強制性交等罪」となり,処罰される行為も広がり,男性も対象となりました。
なお,これ以外に従来どおり,強制わいせつ罪は残っています。


■ 改正その2――刑の引上げ・厳罰化
つぎに,強姦罪改め,強制性交等罪の法定刑が引き上げられ厳罰化が図られました。
これまでは,強姦罪の法定刑の下限は「懲役3年」とされており(これでも引き上げられた経緯があります。),初犯の場合ですと実刑とはならず執行猶予が付くことがほとんど,という現状がありました。
しかし,加害者が執行猶予によって社会復帰を果たせるのに対し,被害者はPTSDや男性恐怖症,加害者への恐怖心に長く苦しむ例が少なくありません。被害者の視点からみれば,「魂の殺人」といっても過言ではないほど深刻な心の傷を被ることや被害の重大さに見合った刑罰とは到底いえません。実際,諸外国の例から見ても著しく軽いものでした。
そこで,今回の改正では,法定刑の下限を5年に引き上げる改正が実現したのです。
強制性交の過程でけがをしたり,死んでしまったという結果が出た場合は6年以上の刑となります。


■ 改正その3――「親告罪」規定の撤廃
第3は,「親告罪」規定の削除です。
これまで強姦罪等で起訴するためには被害者が「告訴」という手続をとることが必要でした(こうした犯罪を「親告罪」といいます)。
強姦罪等を親告罪とした趣旨は,性犯罪の被害者の意思とプライバシーを尊重するという点にありました。
しかし,「告訴」がない事例では犯罪の捜査が進みにくくなります(捜査機関もあまり熱心に取り組んでくれないこともままあります。)。
他方,一般人の被害者にとって「告訴状」等を準備して提出すること自体ハードルが高いことは,言うまでもありません(ちなみに,かつては,強姦罪等にも「告訴期間」があり,6か月間に告訴しないと,もう犯罪として立件してもらえないという法制度となっていました。平成12年改正によってようやくこれが撤廃されたのです。)。
そこで,強姦罪や強制わいせつ罪も,他の犯罪と同様に,「被害届」だけで捜査が進むことが求められてきたのです。
また,「告訴」が要件であることから,加害者側が「今告訴を取り消せば示談金を支払うが,告訴を取り消さなければ徹底して裁判で争う」などと強引に被害者にアプローチをして動揺させた結果,被害者が精神的に参ってしまい告訴を取り消してしまうような事例もあったようです。
このように,強姦罪等が「親告罪」であったことが,本来の趣旨とは裏腹に,性犯罪の不処罰につながる役割を果たす結果となってきた面があるのです。
そして,よく考えてみると,たとえ親告罪でなくなったとしても,被害者が協力しない場合に無理やり立件・起訴することはそもそも不可能なはずです。こうしたことを考えると,どうしても親告罪としなければならない理由はないと考えられます。 
こうした背景もあって親告罪とすることはしないこととなりました。親告罪の規定は強姦罪のほか,強制わいせつ罪などでも撤廃され,施行前に起きた事件にも原則適用していくこととなりました。


■ 改正その4――支配的な地位を利用した性行為は暴行・脅迫がなくても処罰する。
第4は,親などの「監護者」が,支配的な立場を利用して18歳未満の子どもと性交したり,わいせつ行為を行った場合,暴行や脅迫がなくても強姦罪等が成立する,とした点です。
強姦罪等の成立には,被害者の抵抗を著しく困難にする程度の暴行・脅迫が要件とされていますが,子どもに対する性的虐待のケースでは,その多くが,子どもに対する支配的な影響力を利用して,子どもが抵抗できないままに行われていることが多いのが実情です。
13歳未満に対する性交は必ず強姦とされますが,これまでは,13歳以上で親族等に暴行等をともなわずに性虐待された場合は強姦罪等に問われないこととなっていました。
しかし,それでは,多くの性虐待事例が強姦罪等に問われず,不処罰を許すことになってしまいます。
そこで,性虐待被害者の方々の意見を受けて,暴行・脅迫要件が撤廃されました。


■ 3年後の見直し――さらなる議論の深化を


今回の刑法改正では被害者の声も受けて3年後に規定の見直しがされることとなりました。暴行・脅迫要件を見直し,被害者の意に反する性行為を広く処罰していくことが国会できちんと議論されることが期待されています。 それと同時に,立法任せにせず,望まぬ性行為の被害をなくすために,社会的にも,とりわけ職場や学校でも議論が深められるとよいと思います。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2017.06.30更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

ある衆議院議員が元秘書に対し,暴言を吐き・暴力を加えたとして,元秘書がその様子を秘密録音した媒体が,ある出版社に持ち込まれ公表されたため,当該議員の悪行が世間を賑わせるという現象が起きています。このような上司から受ける暴言や無視,陰口といった職場の上下関係を利用した嫌がらせ行為は「パワーハラスメント(通称:パワハラ)」と呼ばれ,社会問題となって久しいところです。

労働問題の相談を受けておりますと,実際にパワハラ・セクハラを受けている時の様子をボイスレコーダーで録音した媒体を持参される方も多くなってきました。

相談者は,その録音を「証拠」として用いたいと考えて録音したのですが,逆に上司から「違法録音だ」と言われないか心配される方もおられます。このような秘密録音する行為は「違法」なのでしょうか。また,秘密録音した音声は民事訴訟などで「証拠」として使えるのでしょうか。今回は秘密録音された証拠の証拠能力を解説します。

 

●パワハラ・セクハラの証拠集めは「犯罪」ではない

 

まず訴えたいのは,パワハラやセクハラの証拠として,加害者の声をボイスレコーダー等で秘密録音すること自体は,なんら犯罪行為に該当しないという点です。
また,秘密録音したことで,慰謝料等を支払わなければならない,ということもありません。
「プライバシーの侵害になるのではないか?」との懸念をされる方もおられるかもしれませんが,まず,録音場所は,自身の所属する職場です。また,録音した会話のうち,証拠として使うのは被害者のことを話している部分です。少なくとも,会話のその部分は,加害者のプライバシー権を侵害するとはいえません。

録音した音声データを,パワハラやセクハラを理由とする損害賠償請求訴訟において,証拠として用いることは問題ありません。ただし,もし採取された証拠が「著しく反社会的手段を用いて…人格権侵害を伴う方法によって採集されたもの」(東京高判昭和52年7月15日参照)であるとみなされれば,その証拠能力が否定され,事実認定に用いられない場合もあり得ます。

 

●セクハラ・パワハラの「秘密録音」は証拠となるか?

 

それでは証拠能力が否定される「著しく反社会的手段を用いて…人格権侵害を伴う方法」とは,いったいどのような方法でしょうか。

たとえば,録音ですと「秘密にしておくから」「録音はしていないから」と相手をだまして,秘密録音をしたような場合が当てはまりそうです。また,被害者ご自身以外の第三者と加害者とが会話している様子を秘密録音するような場合も当てはまる場合があると思います。
ただ,一概に証拠能力が否定されるということはいえず,ケースバイケースで問題となることは否めないのも事実です。

いずれにしても被害者ご自身がパワハラやセクハラの被害を受けている時,その証拠を集めるために,職場における会話を秘密録音する程度であれば,それを「著しく反社会的手段を用いて…人格権侵害を伴う方法」で採取したとはいえないと思います。

なかなか根絶できないパワハラ・セクハラですが,秘密録音等の方法によって,しっかりと証拠を集められれば,少なくとも「言った言わない」の話はなくなります。前述の元秘書のケースにおいて,「被害者が加害者を煽っている」「できすぎた証拠である」などと秘密録音を揶揄するような意見が一部にあるようですが,「いじめはいじめる方が100%悪い」わけですから,自信をもって堂々と振舞ってください。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2017.04.28更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。


他人の家の無線LANを勝手に使う「ただ乗り」を電波法違反の罪に問えるかどうかが争われた刑事裁判の判決において,東京地方裁判所は,平成29年4月27日,被告人が入手した無線LANの暗号化鍵(パスワード)について,電波法が無断使用を禁じる「無線通信の秘密」には該当せず,「ただ乗り」を無罪と判断しました。
無線LANの普及が急速に進む中,本件はただ乗りが検挙された初めてのケースであり,裁判所の判断に注目が集まっていました。
裁判所は,無線通信の秘密については「一般に知られていない通信の内容や存在」と定義し,そのうえで「暗号化鍵は通信の内容を知るための手段・方法にすぎない」としました。そして,「暗号化鍵が通信の内容を構成するとはいえず,他人の暗号化鍵を使っただけでは,罪にはならない」と結論付けました。

さらに,被告人は,ただ乗り無線LANを経由してフィッシングメールを送付しIDやパスワードを窃取して悪用していた行為に対し,ただ乗りに対する電波法違反に加え,不正アクセス禁止法違反,電子計算機使用詐欺罪に問われていました。判決においては,不正アクセス禁止法違反及び電子計算機使用詐欺罪については有罪とされた一方,電波法違反については無罪とされ,懲役8年(求刑懲役12年)が言い渡されたわけです。不正アクセス禁止法違反などについては異論はないと思われますが,電波法違反の無罪を意外と捉える人が多かったようで,ネット上でも疑問を呈する意見が多く見られます。

たしかに,暗号を解読して勝手に他人の家のネットワークに入り込んだにもかかわらず,そのこと自体は,「何らお咎めなし」というわけですから,何となく違和感があることは否めません。たとえば,もし合鍵を勝手に作って他人の家に入れば,たとえ家の中のものに何も手を付けずとも住居侵入罪に問われ得ます。これがネットワークなら許されるというのでは妙な話と思っても仕方ないでしょう。


●暗号通信を「復元」しなければ電波法違反に問うのは難しい


そもそも,無線LANの暗号鍵解読が違法かどうかについては,以前から論議がありました。

暗号鍵の解読について適用される可能性があるのは,電波法第109条の2です。

「暗号通信を傍受した者又は暗号通信を媒介する者であつて当該暗号通信を受信したものが,当該暗号通信の秘密を漏らし,又は窃用する目的で,その内容を復元したときは,一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」

ここでポイントとなるのは,「当該暗号通信の秘密を漏らし,又は窃用する目的で,その内容を復元」という部分です。もし暗号鍵を解読したうえ,そのアクセスポイントの持ち主など正規の使用者が行っていた暗号通信を傍受し,暗号鍵を使ってそれを復元して内容を他人に伝えたりすれば,上記条文に抵触することとなるでしょう。他人に伝えなくても,プライベートな情報を覗く目的だけであっても「窃用」といえると思われます。

しかし,単にただ乗りすることのみが目的であるとすれば,通信内容の解読は不要です。当然ながら,他人の通信を覗き見しなくてもアクセスポイントを経由してインターネットに接続するには何ら支障はありません。そもそも,暗号化方式がWEPにせよWPA/2にせよ,解読に必要なのは,ユーザーが実際に利用する情報ではなくシステム的なやり取りだけなのです。さらにWEPの場合なら何の暗号化もされていない部分の取得で解析できます。
すなわち,本件における被告人が,実際に通信を傍受して解読したと証明できなければ,無罪という判断も当然あり得るということとなります。


●法律は時代遅れ…。ただ,もはや喫緊の課題ではない。


暗号通信の秘密の漏洩・窃用を違法とした改正電波法が施行されたのは,平成16年のことです。その背景には,おそらくその数年前に話題となったコードレス電話の盗聴への対応であったと思われます(もちろん,時期的に無線LANも念頭に置かれていた可能性はあると思います)。しかし,コードレス電話の盗聴なら「通話内容を知る」という以外の目的はほぼないと思われますが,無線LANの場合は通信を傍受・復元して窃用すること以外の行為,例えば「通信内容に興味はなくただ接続する」という悪用もあり,このことは想定していなかったと思われます。
結局,本件は,法律が時代遅れであったために無罪とされたということとなります。ネット関連や新しい技術については法律が後追いになってしまうのはやむを得ないですが,無線LANについては長い間問題提起されていたのに放置されすぎていたという感は否めないところです。
もっとも,現在においてはもはや無線LANただ乗りへの対応自体が,さほど喫緊の課題という話ではなくなってしまったともいえます。といいますのは,無線のLANただ乗りは,要するに暗号化鍵を解析できるからこそ可能となるわけですが,現在販売されているほとんどの家庭用・法人用無線LAN機器は,デフォルトで解析が困難な設定となっているのです。WPA2 CCMPでパスワードが適切に設定されていれば,もはや解析はほぼ不可能といっていいという話もあります。

このまま判決が確定するのか上級審に持ち込まれるのかは現時点では不明です。
当職もユーザーの一人として,ただ乗りの被害に遭わず無線LANを安全に利用したいと思います。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2017.04.14更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 熊本は当職の故郷です。本日(平成29年4月14日)は,熊本,大分両県をはじめ九州全域まで揺らした熊本地震の発生から1年となります。まずは被災された方々にお見舞い申し上げます。平成28年4月14日の夜には前震が,16日未明には本震がそれぞれ襲いました。
 いずれも最大震度7を観測しました。地震は本震から余震を経て終息へ向かうと思われていましたが,そうした「常識」は覆されました。難攻不落の熊本城が損壊し,火の国の象徴・阿蘇にかかる阿蘇大橋は崩落してしまいました。
 痛ましい災害の爪痕は生々しく残ったままです。仮設住宅などで避難生活を送る人は今なお4万7000人余りに及ぶそうです。被災者にとって震災は現在も進行形というわけです。
熊本地震の経験からどんな教訓を学び,復旧・復興にどう取り組んでいけばよいのでしょうか。熊本・大分はもちろん,九州さらにわが国全体として検討しなければならない課題であると思います。

 

●「創造的復興」を目指して

 

 熊本県は昨年8月,「おおむね4年後のほぼ完全な復興」を打ち出しました。スローガンは「創造的復興」。単に「元に戻す」のではなく,被災前よりも発展した故郷の再生を目指すものです。
 阪神・淡路大震災を経て東日本大震災でも掲げられた理念です。創造的復興は直ちに実感できるものではないかもしれませんが,不断の努力を怠ってはなりません。
 報道等で接する映像や画像をみますと,まだまだ現状は被災者の多くが復興を実感できるには程遠いように見受けられます。目の前の生活への対応で手いっぱいという段階かもしれません。
災害によっても心まで壊されるものではありません。鎌倉時代に登場した法華経の行者・日蓮は「守護国家論」という遺文のなかで涅槃経を引用され,たとえ災難に遭ったとしても「心を壊る(やぶる)能わず(あたわず)」と述べられています。どこまでも被災者に寄り添い,励ましを贈り,「心の創造的復興」を成し遂げていかなくてはなりません。
 道のりは長く険しくとも,がまだしましょう。オールジャパンの総力を結集して「実感できる創造的復興」を断固実現しましょう。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2017.03.14更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

海老名駅の自由通路で市民団体が行った「マネキンフラッシュモブ」と呼ばれる表現活動に対し,海老名市が発令した市条例に基づく禁止命令は表現の自由を過剰に規制するもので違憲として,メンバーらが市を相手取り命令の取り消しを求めた訴訟の判決で,横浜地方裁判所(大久保正道裁判長)は平成29年3月8日,「命令は違法」として原告側の訴えを認めました。
 
■「条例の解釈適用を誤った」
 
判決によりますと,市民団体のメンバーらは昨年2月,「アベ政治を許さない」などのプラカードを掲げながらマネキンに扮して静止するパフォーマンスを自由通路上で実施したそうです。市はこうした行為を市海老名駅自由通路設置条例で禁じた集会やデモに該当すると判断し,同3月に参加者の1人だった市議会議員に対して禁止命令を出しました。
 
大久保裁判長は判決理由で,一連のパフォーマンスの時間や規模から,「多数の歩行者の安全で快適な往来に著しい支障を及ぼすとまでは認められない」と指摘しました。条例で規定された禁止行為に該当しないと認定したうえで,市の命令を「条例の解釈適用を誤った違法なもの」と判断しました。
 
市議会議員を除くメンバーが請求した今後の禁止命令の差止めに関しては,市側が訴訟で命令を出す予定がないと明らかにしたことから却下しました。
 

■条例の改廃の議論が高まるか?
 
上記判決は条例の違憲性や適用の違憲性までは判断していませんが,海老名市の禁止命令を違法とした判断は,市条例の恣意的運用に歯止めをかけ,政治的権力の濫用に警鐘を鳴らすものとして重要な意味をもつといえます。表現行為の規制は必要最小限度の極めて限定的なものでなければならないという日本国憲法上の大原則を再確認したともいえます。
 
上記判決は,マネキンに扮したパフォーマンスを市条例が禁じた「集会,デモ,座り込み」に当たるとした市の判断が誤りであったと判断しました。当該パフォーマンスは「相当時間にわたり相当部分占拠する様態ではない」「安全で快適な往来に著しい支障をきたすおそれが強い行為とまで認められない」ため,規制され得るものとはいえず,表現の自由を尊重した判断といえます。規制され得る行為か否かの判断に「相当時間にわたり相当部分占拠する様態」といった限定的な基準を示している点も評価できます。
 
道路交通法第77条第1項第4号の解釈をめぐって,駅前のビラまきは許可不要とした東京高判昭和41年2月28日を踏襲した判断ともいえ,市条例の運用に当たっては道路交通法を上回る規制は許されないことを示した格好です。市条例によるデモの禁止条項は不要かどうかについては議論のあるところですが,濫用の具体例の一つとして当該パフォーマンスが認定された以上,改廃の議論も高まる可能性があります。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2017.02.09更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

私事ですが,昨日(平成29年2月8日)放送されたテレビ朝日の番組『マツコ&有吉の怒り新党』に弁護士としてのコメントがオンエアされました。視聴していた方々からはご連絡をいただきました。

さて,当職らの事務を担当している事務職員が「●月▲日,有給を取りたいのですがよろしいでしょうか」とお願いしてきました。当職は「もちろん大丈夫よ」と回答しました。理由もとくに聴きません。
ところが,企業の中には,労働者が年次有給休暇を取ろうとする際,理由を述べさせるような企業もあるように聞きます。
そこで,今回は「年次有給休暇」について解説していきます。


●そもそも「年次有給休暇」って何?

 

使用者は,6か月以上継続して勤務し,全労働日の8割以上出勤した労働者には,少なくとも10日間の有給休暇を与えなければなりません。年次有給休暇を取る権利は,法律上当然に生じるもので,労働者の請求や使用者の承諾によって生じるものではありません(林野庁白石営林署事件・最判昭和48年3月2日民集27巻2号191頁)。
年次有給休暇を付与しなければならない日数は,勤務年数に応じて,最高20日まで加算されます。労働基準法は,あくまでも最低の基準を定めたものですから,これを上回る日数の年次有給休暇を与えることは,もちろん構いません。
また,年次有給休暇を取得しても,その間の賃金は支払われます(有給休暇といわれる所以です。)。


●「年次有給休暇」は労働者の自由!


年次有給休暇をいつ取るか,また,それをどのように利用するかは,労働者の自由です。会社は,休暇の理由によって,休暇を与えたり与えなかったりすることはできません(前掲林野庁白石営林署事件)。
ただし,例えば,一度に多数の労働者が同じ時期に休暇を取るなどすれば,事業の正常な運営が妨げられることも考えられます。そこで,事業に支障が出るときに限り,使用者は,年次有給休暇を他の日に振り替えることができます(これを「時季変更権」といいます。)。
ただ,そうは言っても,使用者が休暇取得日を一方的に指定できるということではありません。単にボールが労働者に投げ返されただけのことで,労働者があらためて休暇取得日を指定することになります。
事業に支障が出るときというのは,客観的にみて,そのときに休まれたら企業が正常に運営できないという具体的な事情があるときで,裁判例では,会社の規模,年次有給休暇を請求した人の職場での配置,その人の担当する作業の内容・性質,作業の繁閑,代わりの者を配置することの難易,同じ時季に休む人の人数等の様々な事情を総合的に考慮して,合理的に決定すべきであるとされています(東亜紡績事件・大阪地判昭和33年4月10日判時149号23頁,判タ80号91頁)。
また,最高裁判例によれば,労働者が指定した時季に休暇が取れるように状況に応じた配慮をする義務が使用者にはあるとされています(弘前電報電話局事件・最判昭和62年7月10日民集41巻5号1229頁ほか)。
したがって,ただ忙しいからというだけで,年次有給休暇の取得を拒否することはできません。


●使用者と労働者の対応如何?


年次有給休暇は,労働基準法により労働者の権利として守られています。使用者には,前述のとおり,時季変更権が認められてはいますが,「できるだけ労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすること」を使用者は求められており(前掲弘前電報電話局事件),実際には,変更権を行使できるケースは限定されています。この点を踏まえた上で,使用者とよく話し合い,理解を求めましょう。


●不利益取扱いの禁止


使用者が,年次有給休暇の取得を理由に,労働者に対して不利益な取扱いをすることは,労働基準法によって禁止されています。
ここでいう「不利益な取扱い」には,精皆勤手当や賞与の減額,欠勤扱いとすることによる不利な人事考課などのほか,年休の取得を抑制するようなすべての不利益な取扱いが含まれます(沼津交通事件・最二小判平成5年6月25日民集47巻6号4585頁など参照)。
なお,この事件では,タクシー運転手につき,年休取得日を皆勤手当の算定基礎である出勤日から除外する措置が問題となったのですが,月給に占める皆勤手当の割合が最大でも1.85%にとどまることなどから,年休取得を事実上抑止する力は大きなものではないとして,望ましくはないが,無効とまではいえないと判示されています。)。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2017.01.18更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

先日とあるテレビ局の取材を受ける機会がありました。当職も毎週視聴している人気番組ですので,名前がクレジットされるといいなと思っています。取材を受けた内容に関連する事項について今回は解説してみたいと思います。

インターネットを利用している場合,ツイッターやフェイスブック,YouTubeなどでいろいろな写真や動画を投稿したり,他人の投稿内容を見たりして楽しむことが多くなっています。
しかし,このようなSNSサイトや動画サイトでは,自分やそのご家族のお顔が写った写真や動画が勝手に投稿されてしまうことがあり得ます。
インターネット上で自分の画像が勝手に利用された場合,肖像権の侵害が問題になり得ますが,そもそも肖像権とは具体的にどのような権利で,その侵害はどのような場合に認められるのでしょうか?肖像権侵害を受けた場合の対処方法も知っておく必要があります。
そこで今回は,インターネット上の画像投稿で問題になりがちな肖像権の問題について解説してみます。


●肖像権とは?

 

インターネット上で自分が写っている画像や動画を勝手に投稿された場合,肖像権侵害が問題になり得ます。
「肖像権」とは,「みだりに自己の容ぼう等を撮影され,これを公表されない権利」(最大判昭和44年12月24刑集23巻12号1625頁参照)のことです。著作権などと異なり,法文による明文化はされておらず,最高裁判例によって確立されてきた権利です。
肖像権の根拠は日本国憲法第13条後段の幸福追求権にあるとされています。
肖像権というと,有名人にのみ認められるようなイメージもあるかもしれませんが,そのようなことはなく一般人にも認められます。このことは,最高裁の判例などでも明らかにされています(最判平成17年11月10日民集第59巻9号2428頁,これはいわゆる「和歌山毒入りカレー事件」の被告人について問題となった事件でした。)。
なお,有名人には,それとは別に財産的権利である「パブリシティ権」という権利も認められます。
一般人にも認められる肖像権には財産的な性質はなく,単純に「勝手に自分の写真を撮影されたり公表されたりしない」という人格的利益です。


●プライバシー権侵害と肖像権

 

肖像権は,プライバシー権侵害ととても似た性質をもっています。
プライバシー権とは,みだりに私生活に関する事実を公開されない権利であり,たとえば,生い立ちや家族構成,今の生活様式や場所,勤務先や交際相手などの情報がプライバシー権によって保護されます。
また,自分の容ぼうもプライバシー権の保護の対象となり得ます。そこで,自分の写真を勝手に公開された場合,肖像権だけではなくプライバシー権侵害も問題になり,この場合にはプライバシー権と肖像権は同じ内容となります。
ただ,プライバシー権の場合,情報が他人に知られる状況にならないと侵害にならないので,たとえば勝手に他人の写真に自分の姿が写り込んだだけのケースなどでは,プライバシー権侵害にならない可能性があります。
これに対し,肖像権が問題となるのは,写真を撮影されたり公開されたりした場合なので,勝手に撮影されて偶然自分の姿が写り込んでしまった場合などでも肖像権侵害になります。
また,肖像権は,自分の容ぼうを撮影された場合のみに問題となりますので,文書などによって個人的な情報や私生活を公表された場合などには肖像権による保護は及ばず,プライバシー権の適用を問題にする必要があります。
以上のとおり,プライバシー権と肖像権はとても似た権利であり,適用場面が重なることも多いのですが,細かく見ていくと適用場面が異なることもありますので,別個独立の権利として認める必要があります。

 


●肖像権侵害になる場合の基準

 


インターネット上で自分の写真が勝手に利用された場合など,肖像権侵害が成立するにはどのような基準で判断されるのかが問題となります。
肖像権侵害があるかどうかについては,基本的に,その撮影や公開が被写体の受忍限度を超えるかどうかによって判断されますが,受忍限度を超えるかどうかの判断に際しては,以下のような事情が考慮されます。
• 撮影対象の人物をはっきり特定できるかどうか
• 被写体がメインになっているかどうか
• 拡散可能性が高い場所に公開されたかどうか
• 撮影対象の人物をはっきり特定できるかどうか
写っている人がはっきり特定できる場合には,肖像権侵害が認められる可能性が高くなり得ます。反対に,ぼんやりしていて顔などがよく分からない場合には,肖像権侵害にはなりません。
• 被写体がメインになっているかどうか
写真の中で,人物がメインになっている場合には肖像権侵害が認められやすくなります。これに対し,風景などがメインになっている場合には肖像権侵害にはなりにくいです。
• 拡散可能性が高い場所に公開されたかどうか
たとえばネット上のSNSなどでは,拡散可能性が高いので肖像権侵害が認められやすいです。これに対し,公開せずに自分一人や限られた少人数で共有するにすぎない場合には,肖像権侵害が認められにくいです。
また,肖像権侵害が起こるのは,被写体の承諾がないからであり,権利者である被写体が撮影や公開について許可をしている場合には,肖像権侵害になりません。
かかる撮影と公開については別個の承諾が必要になるので,撮影の承諾をしていても,公開の承諾がない限り,勝手に公開したら肖像権侵害になることにも注意が必要です。


●SNSで肖像権侵害が行われるケース


それでは,SNSで肖像権侵害が行われる具体的なケースをご紹介します。
【ケース①】自分と子どもの写真が勝手にSNSに投稿された
たとえば,子どもと一緒にお出かけをしていたとき,外出先で写真を撮影していた人が勝手に自分たち親子の写真を撮って,SNSに公開することなどがあります。この場合,自分と子どもの両方の肖像権侵害となります。
【ケース②】友人が自分の顔写真をフェイスブックに投稿した
フェイスブックでも問題は起こります。友人が自分の顔写真を許可なくフェイスブックに投稿したケースでも,肖像権侵害となります。
肖像権は,勝手に撮影されない権利であるだけではなく,勝手に公表されない権利も含むので,友人に対して撮影の許可をしていても,公表の許可をしていない限りはSNSへの写真投稿が違法になるからです。
【ケース③】知り合いが秘密の画像を勝手に公開した
誰でも,人には見られたくない秘密の画像があるものです。昔の高校時代の写真や水着の写真,写りが悪い写真など,いろいろな事情があるでしょう。
このような画像を,ふとしたきっかけで他人が取得して勝手に公開してしまうことがあります。元恋人などが,嫌がらせで性的な写真を公開するケースもありますし,今の恋人が悪気なしに性的な写真を公開することもあるかもしれません。
このようなケースでは肖像権侵害と認められるので,相手に対して法的な手続きをとることができます。


●肖像権侵害を受けた場合の対処方法


肖像権侵害を受けたら,具体的にどのような対処が可能になるのでしょうか?

まずは,画像や動画の利用差止め請求ができます。肖像権侵害によって画像などが公開されている場合,放っておきますとどんどん拡散してしまうので,一刻も早く公開を止めさせる必要があります。そこで,肖像権にもとづく差止め請求をすることによって,画像や動画の削除を求めることが可能です。

つぎに,損害賠償請求も可能です。肖像権侵害によってこちらは精神的な苦痛を被ることになりますから,その賠償として慰謝料請求をすることができるのです。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.12.21更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

平成28年12月19日,次のようなニュースに接しました。


最高裁:預貯金は遺産分割の対象 判例変更し高裁差し戻し――毎日新聞
「亡くなった人の預貯金を親族がどう分けるか争った相続の審判を巡り,最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は19日の決定で,「預貯金は法定相続の割合で機械的に分配されず,話し合いなどで取り分を決められる『遺産分割』の対象となる」との判断を示した。」

これまで,最高裁は,後述する昭和29年や平成16年の判決において,預貯金など分けることのできる債権(可分債権)は「(法定)相続分に応じて分割される」と判断してきました。そのため,預貯金は,遺産の分け方を話し合う遺産分割の対象とはならず,法定相続分に基づいて自動的に分けられるとされてきたのです。もっとも,この理解を前提としながら,遺産分割手続の当事者の同意を得て預貯金債権を遺産分割の対象とする運用が実務上広く行われてきました。


そこで,今回は「遺産分割におけるこれまでの預貯金の取扱いと今回の判例変更の意義」について,解説をしたいと思います。


●これまでの最高裁判所の考え方
最高裁判所は,古くから,亡くなられた方(被相続人)が有していた預貯金債権については,死亡と同時に自動的に相続人に分割承継されるという考え方を採用していました。


最判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁
「相続人数人ある場合において,その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは,その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するを相当とするから,所論は採用できない。」


最判平成16年4月20日判時1859号61頁
「相続財産中に可分債権があるときは,その債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり,共有関係に立つものではないと解される(最判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁)。したがって,共同相続人の1人が,相続財産中の可分債権につき,法律上の権限なく自己の債権となった分以外の債権を行使した場合には,当該権利行使は,当該債権を取得した他の共同相続人の財産に対する侵害となるから,その侵害を受けた共同相続人は,その侵害をした共同相続人に対して不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができるものというべきである。」

 

●これまでの最高裁判所の考え方の根拠
最高裁判所が上記のような考え方を採用していた根拠は,民法898条,民法264条,民法427条です。

(共同相続の効力)
民法第898条
相続人が数人あるときは,相続財産は,その共有に属する。

(準共有)
民法第264条
この節の規定は,数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし,法令に特別の定めがあるときは,この限りでない。

(分割債権及び分割債務)
民法第427条
数人の債権者又は債務者がある場合において,別段の意思表示がないときは,各債権者又は各債務者は,それぞれ等しい割合で権利を有し,又は義務を負う。

複数の相続人がいる場合,遺産は,複数の相続人の「共有」に属することになります(民法898条)。 民法898条の「共有」は,基本的には民法249条以下に規定する「共有」と性質を異にするものでないと解されています(最判昭和30年5月31日民集9巻6号793頁参照)。

よって,遺産に含まれる預貯金についても,民法264条が適用されることになり,預貯金について相続人が複数いる場合は,民法264条によって,その複数の相続人が預貯金債権を取得することとなります。

複数の相続人が預貯金債権を取得するということは,すなわち,それぞれの相続人が金融機関に対して「払い戻せ」と請求できるということです。
これは,法律的には,「複数人の債権者がいる」ということになります。

そして,民法427条は「複数人の債権者がいる」場合に適用される規定です。

その結果,民法427条の効力によって,預貯金が相続人に等分に割り振られるということになります。すなわち,遺産分割を経るまでもなく,当然に分割承継されるということになりますから,可分債権は「遺産分割の対象となる遺産」を構成しないということとなるわけです。

 

●これまでの実務の運用
最高裁判所が上記のような考え方を採用していたため,現在の実務でも,この考え方が前提となっていました。もっとも,これまでの実務は,最高裁判所の考え方をそのまま適用しているきた訳ではありません。実務では,相続人間において,預金債権を遺産分割対象に含める旨の合意が成立すれば,合意に従い,預金債権を分割対象に含めて審理をする取扱いをしてきたのです。




●今回の大法廷決定
今回の大法廷決定は,これまでの最高裁判所の考え方をあらためました。
公開されている判決文によれば,「共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である」旨判示しています。

これは,遺産分割の仕組みが共同相続人間の実質的公平を図ることを旨として相続により生じた相続財産の共有状態の解消を図るものであり,被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましいことを前提に,預貯金が現金に極めて近く,遺産分割における調整に資する財産であることなどを踏まえて,本件で問題となっている各預貯金債権の内容及び性質に照らし,上記各債権が共同相続人の合意の有無にかかわらず遺産分割の対象となるとしたものであると理解することができます。

ちなみに,今回の大法廷決定には,補足意見が3つ,意見が1つ付されています。

これまでの実務の運用においても,遺産分割調停・審判において預貯金を取り扱ってきましたし(最判昭和50年11月7日民集29巻10号1525頁参照),金融機関の一部は,従来から亡くなった方の預貯金を遺族が引き出される場合,遺産分割協議書を求めてきていました。

そうしますと,今回の大法廷決定が遺産分割実務の「すべて」に対し決定的な影響を与える訳ではないと思われますが,実務上重要な判例変更であるといえるでしょう。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.12.13更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。


ニュース報道によりますと,東京都千代田区の区立中学校において,東京電力福島原発事故のため福島県から自主避難している生徒が,同学年の3人に「おごってよ」などと言われ,お菓子など計約1万円分をおごっていたことが分かったそうです。本人と母親が学校に申告し,判明したといいます。
新聞社の取材に応じた生徒の話によりますと,昨年夏ごろから一部の生徒に「避難者」と呼ばれるようになり,「福島から来たからお金ないんだろ」「貧乏だからおごれないの?」「避難者とばらすよ」などと言われ,今年になってコンビニエンスストアでドーナツやジュースなどをおごらされるようになったといいます。出たゴミは「あげるよ」などとかばんに詰め込まれたそうです。教科書やノートがなくなり,教室の隅でページの一部がない状態で見つかったこともあったといいます。
生徒は「小学校のときから『菌』『福島さん』といじめられてきたので知られたくなかった。お金で口止めできるのならそれでいいと思った」と話しています。
先日も横浜市や新潟市で同様のいじめがあったことが報道されていましたが,報道に接し,胸が苦しくなります。悲しくなります。「いじめはいじめる方が100%悪い」との思想がまだまだ浸透していないことを痛感いたします。


去る12月10日は「世界人権デー」でした。昭和23年(1948年)12月10日,第3回国連総会で「世界人権宣言」が採択されたのが淵源です。翌年,わが国は12月4日から10日を「人権週間」と定め,毎年,各地で啓発活動に取り組んでいます。
その取り組みの一環として,つぎの言葉のポスターがSNS上で話題となりました。
「わたしの『ふつう』と,あなたの『ふつう』はちがう。それを,わたしたちの『ふつう』にしよう」。
これは,本年の「人権週間」を前に,愛知県が作成し,県内の鉄道駅などに掲示したものです。人権問題について,高齢者,女性,性的少数者,障害者などテーマごとに漫画で描かれており,「分かりやすい」「考えさせられた」と評判を呼んでいます。

法務省は本年,人権啓発のための17の強調項目を発表しました。女性,子ども,高齢者の人権を守り,少数者への偏見・差別などをなくそうと訴える内容です。裏を返せば,項目の多様さは,課題が山積していると見ることもできます。

人間は往々にして,“多数派”とは異なる「ちがう」人や,自分が思う「ふつう」から外れた「ちがう」人を,奇異に見たり,見下したりしがちなところがあります。しかし,それが「まちがい」です。「ちがい」を受け入れ,「まちがい」にしない不断の努力が人権を護ることとなるのです。

古代インドに出現し,仏教を創始したとされるゴータマ・ブッダの言葉に「人の心に見がたき一本の矢が刺さっているのを見た」とうものがあります。この矢とは「差異へのこだわり・執着」であるといえます。このような自分の内なる“差別意識”を克服することが重要となるはずです。

「世界人権宣言」の原題は,直訳すれば「人権の普遍的宣言」です。この普遍性とは,“すべての国や地域”“すべての人”を指すことはいうまでもありません。そこに「時間」という普遍性・永遠性を加えましょう。
毎年やってくる「12・10」を機に,あらためて,自分にできる行動が何であるかを考えます。「善きことはカタツムリの速度で動く」とは,インド独立建国の父であるマハトマ・ガンディの言葉です。ゆっくりと着実に,希望をもって前に進みましょう。

投稿者: 弁護士濵門俊也

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