弁護士ブログ

2016.06.27更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 「うちの旦那の不倫相手の女性は定職がありません。そんな相手方に対し,慰謝料請求をしても意味があるのでしょうか?」——よくあるご相談です。

 ご相談者は,子どもがおり,まだ幼いので旦那とは別れたくないが,こんなことになってこれほど傷つけられていても「私にはどうすることもできないのですか?」と尋ねられることもあります。

 慰謝料を請求した場合,相手方に資産や収入があれば支払ってもらえそうだですが,働いていないいわゆる「ニート」で,資産もない場合はどうなるのでしょうか。

 

●夫婦関係が破綻していなければ,慰謝料は低額になる

 まず,夫(妻)が浮気したら,妻(夫)は相手方に対し,慰謝料請求できるということは,みなさんもよくご存じかと思います。しかしそもそも,高額な慰謝料は夫(妻)との夫婦関係の破綻(別居や離婚)を前提としたものでありまして,そうでない場合には,かなり慰謝料額が低額となることはあまり知られていないと思います。

 すなわち,浮気したパートナーとの夫婦関係が破綻しない場合は,不倫相手に対する「慰謝料」も少なくなるのです。

 その理由を,交通事故になぞらえて,説明いたします。

 そもそも,浮気は,夫(妻)と相手方との共同不法行為(民法第719条)となります。たとえば,2台の車が追突して,その結果として歩行していた被害者が事故にまきこまれたケースを想定してみます。この時,2台の運転手がいずれもよそ見をしていたならば,2人は共同不法行為の加害者になります。この2人の運転手が「相手方と夫(妻)」であるとしますと,被害者である歩行者は「妻(夫)」になります。

 浮気の結果,夫(妻)とやり直すということになれば,浮気によって家庭が崩壊したわけではありません。この場合,不法行為の結果が重大でないために,慰謝料は離婚に至った場合よりもかなり低額となります。

 それは事故でまきこまれた歩行者の怪我が軽かったのと同じなのです。浮気を知ってしまったご相談者の心中を察しますと,なかなかご納得いただけない場合も多いのですが…。

 

●「ニート」である不倫相手に慰謝料を払ってもらうのは難しい

 たとえ,もらえる慰謝料が少なかったとしても,夫(妻)の不倫相手に妻(夫)は慰謝料を請求したくなることもあると思います。それでは,その相手方が「ニート」など無職だったら,どう支払ってもらえるのでしょうか。

 慰謝料を請求するとして,定職も財産もない相手方からは,任意で払ってもらうのが難しそうです。かりに債務名義があったとしても,差押えをする対象(給料債権や預貯金債権)がないので,支払を強制するのも困難です。

 すなわち,「無い袖は振れぬ」との言葉があるとおり,お金のない人に支払ってもらうのはなかなか大変なわけです。

 そうすると,現実的には「泣き寝入り」となることもあるでしょう。

 相談者の方々には,「心中お察しいたしますが,現実的には,離婚を回避し,パートナーとの関係修復を目指すという方法もありますよ。」と説明する場面もままあります。

 

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投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.06.13更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 昨日(平成28年6月12日),日曜劇場『99.9-刑事専門弁護士』第9話(以下「第9話」といいます。)が放映されました。ミステリー好きの方であれば,第9話のトリックはよくご存じであったと思います。当職もドラマの中盤でトリックを確信しました。

 「相続人の欠格事由」や「代襲相続」など,一般の視聴者にとっては普段馴染みのない法律用語の理解が不可欠でしたので,一瞬面くらった方もおられたかもしれません。

 そこで,今回は,第9話のラストシーンについて解説してみます。

 

●第9話のあらすじ

 深山 (松本潤さん) は佐田 (香川照之さん) から指示を受け,彩乃 (榮倉奈々さん) らとともに,莫大な資産を有する山城鉄道の会長の自宅を訪ねます。するとそこには殺害された会長の遺体があり,それを取り囲む家族らがいました。状況を聞くと,三男の嫁で(妊娠中である)皐月 (国仲涼子) が殺人を犯した事実を自白したのです。犯行の動機は,脳梗塞を患った義父を懸命に介護したところ,満足してもらえないまま罵倒される日々が重なり,耐えられなくなったとのことでした。さらに事件当時,自宅で一緒に暮らしていた家族らも全員,皐月の犯行を認める供述をし,すぐに解決するかに見えました。

 しかし,深山は持ち前の観察眼で,ある違和感を嗅ぎ取ります。家族らの証言を検証していくと,それはまるで「無理につじつまを合わせたかのように一致」していたのです。その点を突破口として,チーム斑目は,実は長男が会長を殺していたという事実を家族ぐるみで隠していたという事実を暴き出すことに成功します。

 これで一件落着かと思いきや,最後,皐月を斑目法律事務所に呼び出した深山が,佐田と彩乃の同席のもと,次のように語り出します。

 深山:「あなたは,罪を被る振りをして,僕たちが真相に辿りつくのを,赤ワインの話をわざわざ出して,巧みに誘導したんですね。すべては,山城会長の遺産を手に入れるため。皐月さんには相続権はない。相続権があるのは,3人の兄弟と,敬二さんの息子の良典さん。でも,長男の功一さんは,殺人を犯し,相続権はなくなるでしょう。そして敬二さんも,隆三さんも,良典さんも,犯人を隠匿(注:構成要件的には「隠避」です。)しているため,同じく相続権は失うことになるでしょう。でも,たった一人だけ,遺産を相続できる人がいるんです。」

 彩乃:「お腹の中の赤ちゃん…」

 佐田:「代襲相続かー!!」

 彩乃:「民法886条,胎児は,相続については,生まれているものとみなす。」

 佐田:「皐月さんあなた,家族全員の遺産の相続権をなくすために…。」

 深山:「あなたは,自分が罪を被ると言って,彼らの相続権をなくした。そして,山城会長が持っていたすべての財産を,自分の子供に行くようにした。」

 

●家族関係・事実関係の整理と法律解説

 まず,解説にあたり,家族関係を整理してみます。

 殺された山城会長には,次の7人の家族がいました。

 まずは,長男の功一とその妻の育江。

  次に,二男の敬二とその妻の昌子,それから2人の息子(会長の孫)の良典の3人。

 最後に,三男の隆三と,その妻であり今回犯行を自供した皐月の2人。 

 

 第9話の設定では会長は遺言を遺していなかったようです。また,会長は会長の子らの妻とは養子縁組をしていなかったようです。その前提で解説します。

 上記7人の中で,山城会長の相続権を有する者(「法定相続人」といいます。)は,会長の子である長男の功一,二男の敬二,三男の隆三の3人です。なお,次男の息子(会長からすると孫に当たります。)である良典は,次男の敬二が相続権を有している限り,相続権を有しません。

 

 しかし,第9話では,長男の功一が被相続人である山城会長を殺しているため,相続欠格事由に該当し,刑が確定しますといずれ相続権を失うことになると考えられます(ちなみに,功一に殺意がなく傷害致死と認定されますと,欠格事由には該当しません。本件では難しいでしょうが公判では争うでしょう。)。根拠は,民法第891条第1号です。

【参照条文】

民法第891条 次に掲げる者は,相続人となることができない。
 第1号 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ,又は至らせようとしたために,刑に処せられた者 

 

 よって,皐月が何らアクションを起こさなければ,二男の敬二と三男の隆三がそれぞれ2分の1ずつ会長の遺産を相続することとなるはずでした。

 しかし,今回,皐月が山城家の皆に自分が犯人として長男の身代わりになることを提案し,二男の敬二と三男の隆三はそれに応じて皐月を犯人として申告しているため,こちらも欠格事由に該当する可能性があり,相続権を失うこともあり得ると考えられます(少なくとも第9話の制作者はそう考えているようです。)。根拠は民法第891条第2号です。

【参照条文】

民法第891条 次に掲げる者は,相続人となることができない。
 第2号 被相続人の殺害されたことを知って,これを告発せず,又は告訴しなかった者。ただし,その者に是非の弁別がないとき,又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは,この限りでない。

 

 二男及び三男は,長男の功一が犯人であることを知ったうえで,別の者(皐月)を犯人として申告しているため,同様に欠格事由に当たる可能性はあります。

 ここで,二男の敬二が相続権を失うことにより,敬二の息子である良典が敬二の代わりに相続をする可能性が生じます。このように,欠格事由に該当することなど事由によって相続権を失った者に子がいる場合,その子が親に代わって相続をすることができます。これを「代襲相続」といいます。根拠は,民法第887条第2項です。

【参照条文】

民法第887条第2項 被相続人の子が,相続の開始以前に死亡したとき,又は第891条の規定に該当し,若しくは廃除によって,その相続権を失ったときは,その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし,被相続人の直系卑属でない者は,この限りでない。

 

 もっとも,第9話において,二男の息子の良典は,二男や三男と同様に長男の功一が犯人であることを知ったうえで別の者(皐月)を犯人として申告しているため,二男や三男が欠格事由に該当するとされるのであれば,同様に代襲相続権を失う可能性があります。その場合には,結局遺産を相続することができません。

 以上より,上記7人はすべて会長の遺産の相続権を有しない可能性があることとなります。

 

●ここからが第9話のミソ

 そうすると,皐月の不敵な笑いは何だったのかという疑問にぶち当たります。そこで,彩乃の発言にあった「民法第886条」を思い出してみましょう。

【参照条文】

民法第886条第1項 胎児は,相続については,既に生まれたものとみなす。

 

 胎児は法律的には「人」ではなく基本的に民法上の権利を有しません。ただし,生命としては存在しているわけですから,母体から出てくるのが早いか遅いかの違いだけで相続権を有するか有しないかの差を生じさせることは不合理であるといえます。そこで,相続については例外的に上記規定が置かれています。

 民法第886条第1項の規定に基づき,皐月が懐胎している胎児は,出生の際,相続時に遡って権利義務を有することになります。

 上述したとおり,山城家の人間らはいずれも相続欠格事由があるものとすれば,当該胎児が無事に出生した場合は,唯一相続権を有する人となり,山城会長の有していた莫大な資産をすべて相続することができるわけです。

 つまり,皐月は,本来何もアクションを起こさなければ次男と三男で半分ずつ相続されていた山城会長の遺産を,自分を長男の身代わりとして告訴させ(,しかも,チーム斑目を誘導してその真実を暴かせ)ることによって,すべて今後生まれてくるであろう自分の息子に相続させる構図を作ることに成功したのです。

 その結果が,皐月の不敵な笑みだったというわけです。

 

●最後に残る疑問

 長男が会長を殺害した事実は動かしがたいと思われますから,民法第891条第2号は問題ないと思います(もちろん,公判では殺意の有無を争い傷害致死を主張するものと思われます。)。しかし,二男並びに三男及び三男の息子についてはどうでしょうか。

 皐月が留置施設から出ているということは第9話のラストシーン時点においては,犯人隠避には問われていないことを意味します(後日は分かりませんが)。皐月は犯人隠避の首謀者ですから,皐月の罪を問わないのであれば他の山城家の者らに対する罪も問われることはないでしょう。

 その場合,相続欠格事由に該当するのかどうかは微妙なところがあります。皐月が無事出産した際,血みどろの遺産相続争いが発生することは間違いないでしょう。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.06.02更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 千葉地方裁判所は本日(平成28年6月2日),覚せい剤取締法違反の罪に問われた女性の被告人(37)に対し,1日から始まった「刑の一部執行猶予制度」を適用しました。裁判所は,懲役2年の実刑とし,そのうち6か月については保護観察付き執行猶予2年とする判決(求刑3年)を言い渡しました。同制度の適用は全国初とみられます。

 上記判決主文によりますと,上記被告人は,1年半服役した時点で出所することとなり,その後2年間保護観察下で過ごすこととなります。この間に再び罪を犯さなければ刑務所収容されることはありません。

 ただ,上記被告人は,昨年3月にも,同罪で懲役2年6月・執行猶予4年の有罪判決を受けておりますので,今回の有罪判決により,前刑の執行猶予は取り消されます。上記被告人は本件で受けた上記1年半に加え2年半(合計4年)の間服役することとなります。

 上記被告人は少なくとも「前科2犯」ということとなりますが,実は「前科」という言葉は法律用語ではありません。また,「前科」は消えることがあります。そこで,今回は「前科」について解説いたします。

 

●「犯罪人名簿」と「刑の消滅」

 前述のとおり「前科」という言葉は法律用語ではなく,いろいろな意味で使われています。一般的には,とくに懲役刑を受けて刑務所に収容された者といった意味で使われることが多いようです。法律的には有罪判決を受けたという事実が,選挙資格や医師・弁護士などの職業制限,あるいは叙勲の対象者から除外するという意味で重要になってきます。

 そのため,(交通違反を除く)罰金刑以上の刑罰が確定した者について,その戸籍を管理する市区町村に「犯罪人名簿」が置かれており,検察庁からの通知にもとづいて,有罪判決や科刑の記録が「前科」として登録されています(これが一般の人の目に触れることはありません。)。

 ただ,刑罰を受けたという事実は,公私さまざまな場面で不利益な事実として影響します。不必要に社会復帰の妨げになることは避けるべきですし,本人の更生のチャンスをつぶさないことが,結果的に社会にとってプラスとなります。

 そこで,刑法には「刑の消滅」という規定があります(刑法34条の2)。具体的には,懲役や禁錮の刑で刑務所に行ったときはその後10年,罰金刑であれば5年の聞に再び罰金刑や懲役刑を科されなければ,法律上,刑を受けたことがないものとして取り扱われることとなっています。この場合,「犯罪人名簿」から削除されて,前科がリセットされるわけです(ただ,処罰によって失った資格は元に戻りません。)。

 また,いわゆる実刑ではなく,執行猶予付きの判決を受けた人は,執行猶予の期間が無事に過ぎれば,その時点で法律上は刑の言渡しを受けた者として取り扱われないことになっています(刑法27条)。これも,一度犯した過ちを許し,更生を促すための制度です。

 

●消えた前科は履歴書に書く必要はない

 履歴書には「賞罰」について書く欄が設けられていることがあります。この「罰」は,「確定した有罪判決」という意味ですが,上述したとおり,懲役刑や禁錮刑はその執行を終えたときから10年(罰金刑の場合は5年)が経過すると刑が言い渡された事実が消えますので,有罪判決を受けたという事実を自ら積極的に書く必要はありません。

 ちなみに,かつて「懲戒解雇」を受けたとしても,それは「確定した有罪判決」ではありませんから,これも書く必要はありません。

 

●ただし,前科は消えるが犯歴は残る

 以上のように,「犯罪人名簿」に一度掲載されても,時間の経過とともに抹消されるわけですが,この制度とは別に「犯歴票」というものがあります。これは明治時代から作成されているもので,検察庁が管理しています。明治15年以来の前科者一人ひとりについての有罪及び科刑の状況が逐一記録されています。これはもっぱら刑事裁判や検察事務の適正な運営のための資料として利用されるものであり,これが一般的な前科照会に使われることはありません。

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投稿者: 弁護士濵門俊也

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