弁護士ブログ

2016.10.27更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

「ねぇ濵門君。『17条決定』って知ってる?」
本日午後,裁判所の期日から戻ってきた先輩弁護士にそう聴かれました。「17条決定」にいう「17条」が民事調停法上のものであることは知っていましたが,先輩弁護士の取り扱っている事件は地方裁判所管轄の事案です。
そこで,今回は「17条決定」について解説します。


●「17条決定」とは?


民事調停は,原則的に,当事者の話合いによって紛争解決に向けた合意の成立を目指す,という制度です。
ただ,一風変わった制度として,裁判所が解決内容を決定する,というものもあります(民事調停法17条)。これが,「調停に代わる決定」とか「17条決定」と呼ばれる制度です。条文上は職権で行われることと規定されています。

紛争の状況によっては,ある程度まとまりそうになっているのに,お互いに意地になって調停が成立しない,あるいは,会社の稟議,地方公共団体の議会対策など,裁判所の「お墨付き」が欲しい場合もあります。
裁判所の決定であれば,「面子がたもてる」「稟議もとおりやすい」「後から責任追及されない」ということです。
このような場合,裁判所は職権で「調停にかわる決定」,通称「17条決定」をすることがあるのです。

実際の民事調停の場面では,案件内容の専門家が調停委員,専門委員として関与している場合に,調停に変わる決定が活用されることが多いようです。
例えば,建築瑕疵について,建築の専門家が瑕疵の有無,損害の内容・金額を評価,判断する,という形で積極的に関与するという状況です。


●17条決定に対しては異議申立てができる!


調停に代わる決定がなされた場合,何もしませんと,その内容は調停成立と同様に,強制執行可能な状態となります(民事調停法18条5項)。
他方,内容に納得できない場合は,告知後2週間内に異議申立をすることができます(民事調停法18条1項)。
異議申立てがなされますと,「裁判所の決定」は効力を失います(民事調停法18条4項)。
そして,異議申立てに際しては,とくに不服の理由は必要とされていません。
逆に言いいますと,まずは裁判所(調停委員や専門委員)の案をみてからそれを承服するか否かを考えるという様子見的に利用することもできるわけです。
ただし,この決定内容が,その後の訴訟などで資料(証拠)として利用されることはあり得ます。とくに,案件内容の専門家の判断であれば,訴訟などの別の手続でも重視されることが多いです。


●訴訟から調停に手続が移行される場合もある:付調停


民事訴訟において,専門的な調停委員に和解案を出してもらいたい,という場合に「付調停」が有用となる場面があります。「付調停」とは,一般の民事訴訟において,手続を訴訟から調停に変更するという制度のことです。条文上,調停に付すると規定されているので付調停と呼ばれています(民事調停法20条)。
条文上は「職権」とされていますが,実務上は,当事者からの要請により,裁判所が判断する,ということが多そうです。

たとえば,過払金返還請求事件などですが,経営が苦しく,まともな言い分のない消費者金融などについて,弁論期日を2,3回続行し,弁論を終結して判決を「淡々」とする裁判官が多いのですが,ある程度,双方の「本音」を聞き,ある程度歩み寄った17条決定をする裁判官も増えているようです。


付調停の後,「17条決定」の文例としてはつぎのようになります。


当事者の表示  原 告
        被 告
  (注)従前は申立人(原告)とかの表示例もあったようですが,付調停の場合,申立てがありませんので,そのまま「原告」と表記するようです。

 上記当事者間の平成28年(ノ)第○○号○○請求調停事件について,当裁判所は,次のとおり決定する。

6 原告及び被告は,原告と被告との間には,本件に関し,主文掲記の条項に定めるもののほかに何ら債権債務がないことを相互に確認する。
7 訴訟(○○地方裁判所平成26年(ワ)第○○号)費用は,各自の負担とする。

                    事実及び理由
1 請求の表示
 ⑴ 請求の趣旨

 ⑵ 請求の原因
   別紙記載のとおり

2 本決定をした理由
  当事者双方から聴取した事情を考慮した結果。本件は主文どおりの条項で解決するのが相当であると認め,民事調停法第17条に基づき主文どおり決定する。


●先輩弁護士への回答


冒頭の先輩弁護士への回答としては,「受訴裁判所である地裁が,本件を調停に付したうえで,自庁処理をしようとしているのではないか。処理としては『17条決定』をする予定なのであろう。」ということとなります。


参照条文
[民事訴訟法]
(裁判所等が定める和解条項)
第265条  裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官は,当事者の共同の申立てがあるときは,事件の解決のために適当な和解条項を定めることができる。
2  前項の申立ては,書面でしなければならない。この場合においては,その書面に同項の和解条項に服する旨を記載しなければならない。
3  第一項の規定による和解条項の定めは,口頭弁論等の期日における告知その他相当と認める方法による告知によってする。
4  当事者は,前項の告知前に限り,第一項の申立てを取り下げることができる。この場合においては,相手方の同意を得ることを要しない。
5  第三項の告知が当事者双方にされたときは,当事者間に和解が調ったものとみなす。

[民事調停法]
(調停に代わる決定)
第17条  裁判所は,調停委員会の調停が成立する見込みがない場合において相当であると認めるときは,当該調停委員会を組織する民事調停委員の意見を聴き,当事者双方のために衡平に考慮し,一切の事情を見て,職権で,当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で,事件の解決のために必要な決定をすることができる。この決定においては,金銭の支払,物の引渡しその他の財産上の給付を命ずることができる。

(異議の申立て)
第18条  前条の決定に対しては,当事者又は利害関係人は,異議の申立てをすることができる。その期間は,当事者が決定の告知を受けた日から二週間とする。
2〜4(略)
5  第一項の期間内に異議の申立てがないときは,前条の決定は,裁判上の和解と同一の効力を有する。

(付調停)
第20条  受訴裁判所は,適当であると認めるときは,職権で,事件を調停に付した上,管轄裁判所に処理させ又は自ら処理することができる。ただし,事件について争点及び証拠の整理が完了した後において,当事者の合意がない場合には,この限りでない。
2〜4(略)

投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.10.20更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 広告代理店最大手・D社の新入女性社員(当時24歳)が過労のため自死した問題に関連し,平成25年(2013年)に当時30歳で病死した同社本社(東京都港区)の男性社員についても,三田労働基準監督署が長時間労働が原因の過労死と認め,労災認定していたことが分かりました。
 D社は「社員が亡くなったことは事実。遺族の意向により,詳細は回答いたしかねます」とコメントしているそうです。
 先日14日(金)には,労働基準法に基づきD社本社等に立ち入り調査が行われたとの報道もありました。出退勤記録等を調査し,是正勧告や刑事告発も視野に実態解明を進める方針ということでした。
 「過労死」という言葉が生まれて久しいですが(不名誉なことに,過労死は「karōshi」として輸出されています。),最近では「ブラック企業」などという言葉もあり,なかなかなくなりません。
 今回は,従業員が過労死した場合の会社側の法的責任について見ていきます。


● 労働基準法の責任


① 労働時間規制

 労働基準法(以下「労基法」といいます。)によりますと,従業員を週40時間を超えて労働させるためには労働組合と労使協定でその旨を定め,労働局に届け出る必要があります(いわゆる「36協定」です。労基法32条,同36条)。もっとも,「36協定」を締結すれば無制限に時間外労働をさせることができるわけではなく,月45時間が限度となります。そして,決算期,納期の逼迫といった場合に時間延長できる特別条項を締結していた場合には例外的に限度時間を超過することができます。
 このような「36協定」の締結を行っていなかった場合,協定によって定めた限度時間を超過して労働させた場合は労基法32条乃至同36条違反となり,6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が課されることがあります(労基法119条)。


② 刑事責任

 労働基準監督署は,臨検や帳簿等の書類の提出を求めたり,尋問を行うことによって労基法違反の有無を調査することができ(労基法101条),違反が発見された場合には是正勧告を行います。もっとも,この是正勧告は一種の行政処分であり強制力はありません。
 しかし,これに従わなかった場合や,形だけの改善を行い是正報告する等,悪質で改善の傾向がみられない場合には,検察庁へ送致(書類送検)となり,刑事手続が執られることとなります。
 どのような場合に送検となるかの明確な基準はありませんが,東京労働局の発表によりますと,以下のような事例で送検されております。
 ① 貨物運送業において,「36協定」未届けのうえ,時間外労働が月127時間を超えていたもの
 ②「36協定」では月45時間を上限とし,特別条項として年6回,上限80時間の延長としていたところ,年6回の回数制限を超えて時間外労働をさせていたいもの
が挙げられております。①「36協定」を締結していないか,②締結されていても形骸化しており守られていないといった場合に送検される可能性があるといえるでしょう。


● 民事上の責任


 上記のように労基法上は「36協定」を締結し,特別条項を定めておけば,現行制度上では時間外労働の上限はありません。しかし,従業員が過労死した場合,会社は民事上の責任を負う場合があります。
 厚生労働省はどのような場合に過労死となるかの基準として,いわゆる「過労死ライン」を公表しております。それによりますと,
 ① うつ病発症前1~6ヶ月の期間にわたって時間外労働が45時間を超える場合は,その時間が長くなるほど業務との関連性が強まる
 ② 発症前1ヶ月の時間外労働が100時間,又は発症前2~6ヶ月の期間にわたって時間外労働が80時間を超える場合は関連性が強いと評価する
となっております。つまり時間外労働月100時間で過労死と認定されることになります。
 そして,判例上,企業は,従業員の労務管理を適切に行う安全配慮義務を負っているとされており(最判平成12年3月24日民集第54巻3号1155頁参照),民法上の損害賠償責任を負うこととなります。ちなみに,安全配慮義務は,雇用契約に付随する義務と解されています。


● コメント


 D社は,「36協定」により月の時間外労働時間の上限を70時間と定めておりました。しかし,実際には上限を超えた長時間労働が常態化していたのではないかとみられています。また,従業員には,時間外労働時間を過少申告するように指導しており,「36協定」が守られていないだけではなく,違反の隠蔽を指導していたともいわれており,より悪質な労基法違反と判断される可能性が高いといえます。
 そして,一つ強調しておきたいのは,上記労務管理に関する安全配慮義務違反による損害賠償責任を認めた平成12年最高裁判決の事例は,同じくD社における過労死による損害賠償請求の事案であったという点です。
当然のことですが,D社側は,当時再発防止に努めるとしていました。そうであったにも関わらず,今回の事件が起きてしまいました。これは,改善どころか,むしろ,より巧妙な隠蔽を行っていた悪質な事案ではないかと判断され,送検される可能性は高いと思います。当職の個人的な意見としては,「一罰百戒」の姿勢で臨んでもおかしくないと考えています。
 さらに,民事でも安全配慮義務違反として損害賠償責任を負う可能性が高いです。
 このように従業員が過労により自死してしまった場合,労働基準監督署からの行政処分だけでなく,刑事責任や民事責任も同時に生じる可能性があります(労基法は,単に労使間の関係を規律した法律ではなく,刑事罰も規定している結構恐ろしい法律です。)。
 事業主の皆さんにおかれましては,「36協定」を締結して労働局に届け出ているか,時間外労働の上限を定めているか,定めていたとして過労死ラインを超えていないか等を,今一度見直してみてはいかがでしょうか。

 

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投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.10.14更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。


 今日10月14日は「鉄道の日」ですが,昨日13日に当職がとくに注目したニュース報道が2件ありました。
 まず一つ目は,スウェーデン・アカデミーが,ノーベル文学賞を米国の歌手ボブ・ディランさん(75)に授与すると発表したというニュースです。歌手(ボブ・ディランさんはシンガーソングライターです。)が同賞を受賞するのは初めてのことです。
 スウェーデン・アカデミーは,ボブ・ディランさんを「偉大なアメリカ歌謡の伝統の中で新たな詩的表現を創造した」と評価しました。どうでもいい話ですが,ボブ・ディランと聞きますと,ガロの『学生街の喫茶店』の歌詞を思い出します。


 つぎに二つ目は,タイの国王であるプミポン国王(88)が崩御なされたというニュースです。わが国では「プミポン国王」の名称で知られていますが,これは通称であり,ラーマ9世(チャクリー王朝第9代のタイ国王)が正式です。在位期間は,1946年6月9日から2016年10月13日までという70年にも及びました。世界で最も長く君臨していた国家元首であり,何世代にもわたってタイの社会を支えた存在だったといえるでしょう。
 ちなみに,通称であるプーミポンアドゥンラヤデートは,「大地の力・並ぶ事なき権威」の意味だそうで,本来はタイ語においては(称号なども含めて)後ろのアドゥンラヤデートと不可分一体であり,プーミポンだけで呼ばれることはほとんどないそうです。


 ニュース報道等をみますと,タイの国全体が喪に服している状態です。
 嘆き悲しむ国民たちは,国王の肖像画を掲げ,タイの首都バンコクの街角で祈りをささげていました。国王が治療を受けていたシリラート病院の外に集まった群衆の多くは,王に幸運が訪れることを願ってピンク色の服を着ていました。プミポン国王がタイで敬愛されていることの証左といえます。
 タイ王国は立憲主義の国ですが,政府に問題が起こったときには国王が仲裁役として大きな役割を担ってきた歴史があることは皆さんご存じのとおりです。70年間に及ぶ在任中,クーデターや政治的な対立が起きたとき,国王は常に政治的な権力を行使してきました。2014年5月にもクーデターが発生しましたが,現在は国王の承認を得たのち,軍政の支配下にある状況です。
 懸念されるのは,プミポン国王の崩御により,タイが今後政治的に不安定な時期に入るのではないかという点です。マハ・ワチロンコン王太子(わが国のマスメディアは「皇太子」と表記・呼称するのですが,皇帝や天皇の継承者ではないのですから,誤用であると思います。)が王位を継承するのはよいとして,圧倒的に力量やカリスマ性が先王に劣ることは紛れもない事実だからです。新国王が先王ほど国民や政治に対して強い影響力を持たないおそれがあるとすると,王位を実質的な意味で簒奪しようとする輩が現れる可能性は否定できません。
 タイ国民は「まことの時」に遭遇しています。悲しみを乗り越えて,国難を乗り切っていただきたいと切に願っています。

 

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投稿者: 弁護士濵門俊也

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