弁護士ブログ

2020.10.30更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。


昨日来,将来有望な若手俳優がひき逃げ事故を起こし,逮捕されたという話題で持ち切りですが,「車を運転していたら,他人の飼い犬を轢いてしまった」という相談もたまに受けます。飼い犬,飼い主にとっては,当然ショッキングな出来事ですが,轢いてしまった方にも悲しみと困惑を与える事故であることは間違いありません。
ある方は,飼い犬の死を悼みながらも「ペットの飼い主は,リード類をつけずに散歩させていた」と,飼い主側の過失を主張されていました。
交通事故の相手が犬だった場合,法律上どのように処分されるのでしょうか。その辺りを解説します。


●ペットは法律上「物」として扱われる


ペット(動物)は,家族の一員と思っている飼い主の方々は納得できないかと思いますが,動物は,法律上「物」として扱われます。

また,わざと(故意に)動物に傷害を加えることは,刑法261条の動物傷害罪や動物愛護法(動物の愛護及び管理に関する法)で処罰される可能性がありますが,不注意(過失)により動物に傷害を加えてもこれらの罪は成立しません。

そして,不注意(過失)の場合でも,民事上の損害賠償責任を負う可能性はあります。
ペットは「物」ですから,物損としての損害は認められますが,時価を限度とします。
慰謝料はといいますと,「物」である以上,残念なことに慰謝料は認められないのが「原則」です。
ただ,「ペットは家族同然」と思われている飼い主の方々も多くいらっしゃると思います。最近では,時価を超える治療費や慰謝料が認められた裁判例もあるようです。
その場合でも飼い主がどのようにペットを管理していたのか,事故態様がどのようなものだったか等,案件によっては過失割合が問題となるケースは多いと思います。


●「危険防止等措置義務」と「報告義務」


では,道路交通法上はどのように扱われるのでしょうか。
道路交通法上,動物を轢いた場合に関する規定はなく,「原則として」減点や罰金などの罰則が科せられることもありません。
ただ,動物との交通事故は,車両等による物の損壊として「物損事故」となります。道路交通法72条1項は,物損事故を起こした者にも「危険防止等措置義務」と「報告義務」を課しています。
そして,危険防止等措置義務違反の場合には「1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する」(道交法117条の5第1号)とされ,報告義務違反の場合には「3月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処する」(道交法119条1項10号)とされています。
よって,ただ物損事故を起こしただけでは刑事責任を問われることはありませんが,危険防止等措置義務や報告義務に違反すると刑事罰を受ける可能性があり得るということになります。
危険防止等措置義務違反があれば,行政処分の対象となり,免許の点数が引かれてしまうことも考えられます(先ほど「原則として」と説明したのはこの点を考慮しています。)。他人のペットを轢き殺してしまった場合には物損事故となりますので,その場から立ち去るのではなく,危険防止措置を講じた上で,必ず警察に報告すべきです。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2020.10.16更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかどとしや)です。

 

当事務所のルーキー弁護士は,出身大学の司法試験受験生の指導をしているのですが,明日のゼミで,旧司法試験刑法の論文過去問を使用するとのことで,レジュメを作成しておりました。そのうちの1問が平成3年度第1問であり,承継的共同正犯の肯否が論点となります。

何だか懐かしくなり,本ブログを書こうと思いました。今回は,承継的共同正犯を解説します。

 

①承継的共同正犯の意義

承継的共同正犯とは,先に犯罪の実行に着手した先行者の実行行為が終了する前に,後行者が,先行者と意思連絡して共謀した上で残りの実行行為に関与する形態の共犯をいいます。承継的共同正犯は,途中参加型の共同正犯であり,途中参加した後行者にどの範囲で共同正犯が成立するかが問題となります。
例えば,先行者が強盗をする意思で暴行・脅迫を加え被害者の反抗を抑圧していたところ,その後,後行者が,自分も利益を得たいと思い,先行者と意思の連絡をした上で被害者の意思に反して財物の占有を奪った場合において,少なくとも後行者は共謀後の犯罪事実については,共同正犯の成立要件(①犯罪の共謀,②正犯性,③共謀に基づく実行行為)を満たすのであれば,占有者の意思に反して財物を奪った行為について,窃盗罪の共同正犯の罪責を負うことはとくに問題ないと思います。ここで問題となるのは,後行者が,承継的共同正犯として強盗罪の共同正犯の罪責を負うかという点にあります。

 


②承継的共同正犯の理論的根拠

Ⅰ 全面肯定説


継続犯,結合犯,結果的加重犯など先行者の犯罪が一罪である犯罪については,単純一罪の犯罪は不可分であることから,後行者が先行者と意思を連絡して先行者に加担した場合には,後行者に行為全体について責任を問い得るとする見解があります。
この見解は,戦後間もないの下級審の裁判例やかつての学説では支持されていたようですが,何を一罪として扱うかは,後行者の可罰性とは無関係な立法政策により決まることなので,後行者が先行者による一罪の一部に加担したことだけを理由に後行者に共同正犯の罪責を負わせられないとの批判が向けられており現在は支持を失っているようです。


Ⅱ 全面否定説


共同正犯の一部行為全部責任の根拠を,複数の者が共同して犯罪を実行することで物理的,心理的に影響を及ぼし合うことによって犯罪の結果発生の蓋然性を高めたところに求める見解(因果的共犯論)から,後行者は,自己の関与前の先行者の行為によりもたらされた事象について物理的,心理的に影響を及ぼし得ないため,後行者は,関与以前の事象について罪責を負わないとする見解があります。原則論としては,全面否定説が説得力があるのではないでしょうか。

 

Ⅲ 限定肯定説


承継的共同正犯を一定の範囲で認める限定肯定説があります。これは原則否定説に立ちながらも,例外的に肯定する説であり,説明方法としてはいくつかあります。


見解の1つとして,共同正犯の処罰根拠につき相互利用補充関係説に立った上で,後行者が先行者の行為と結果を自己の犯罪の手段として積極的に利用した場合は,自己の関与前の行為と結果についても承継的共同正犯として共同正犯の罪責を負うとの見解があります(積極利用意思説と名付けます。)。後に述べる最決平 24.11.6刑集66巻11号1281頁(以下「平成24年最高裁決定」といいます。)が登場する以前は下級審の裁判例(大阪高判昭 62.7.10 等)でよくみられていた見解です。

別の見解の1つとして,共同正犯の処罰根拠についてき因果的共犯論(構成要件該当事実の共同惹起)に立った上で,後行者が,自己の関与以前の先行者の行為に因果性をもつことはあり得ないが,関与の時点で,先行者の行為の効果が継続して存在し,後行者がその効果を利用して先行者と共同して違法結果を実現した場合に,当該結果惹起について因果性を及ぼしたものとして承継的共同正犯として共同正犯の罪責を負うとの見解があります(結果共同惹起説と名付けます。)。平成24年最高裁決定の千葉勝美裁判官の補足意見はこの見解と整合します。この見解は,積極利用意思説のように後行者の積極的な利用意思は承継の要件とはなっていないのがポイントです。

 


③限定肯定説を採用したと解される最高裁


平成24年最高裁決定の事案は,先行者Aらが被害者に暴行を加えて傷害を負わせたところ,その後,後行者である被告人は,先行者の行為とそれによる結果を認識し,さらに,先行者と共謀の上,被害者に暴行を加えて先行者が生じさせた傷害の結果をより重くしたという事実関係のもとにおいて,後行者が,自ら被害者に負わせた傷害結果のほかに,傷害罪の承継的共同正犯として先行者が生じさせた傷害の結果についても罪責を負うのかが問題となったというものです。
平成24年最高裁決定は,被告人は,共謀加担前にAらが既に生じさせていた傷害結果については,被告人の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはないから,傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく,共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によってCらの傷害の発生に寄与したことについてのみ,傷害罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当と判断しました。

 

ちなみに,平成24年最高裁決定には,千葉勝美裁判官の補足意見があります。


「承継的共同正犯において後行者が共同正犯としての責任を負うかについては,強盗,恐喝,詐欺等の罪責を負わせる場合には,共謀加担前の先行者の行為の効果を利用することによって犯罪の結果〔注:強取,喝取,詐取という犯罪の結果〕について因果関係を持ち,犯罪が成立する場合があり得るので,承継的共同正犯の成立を認め得るであろうが,少なくとも傷害罪については,このような因果関係は認め難いので(先行者による暴行・傷害が,単に,後行者の暴行の動機や契機になることがあるに過ぎない。),承継的共同正犯の成立を認め得る場合は,容易には想定し難い。」


平成24年最高裁決定は,傷害罪の事案で承継的共同正犯を否定したものですが,この決定の法廷意見だけからだけですと,最高裁が,承継的共同正犯について全面否定説を採用しているのか,限定肯定説を採用しているのかが不明でした。もっとも,平成24年最高裁決定における千葉勝美裁判官の補足意見をみると限定肯定説を採用しているのではないかということは推察できました。

その後,最決平29.12.11刑集第71巻10号535頁(以下「平成29年最高裁決定」といいます。)は,先行者が欺罔行為をした後に後行者が財物の受領行為にだけ関わったが未遂に終わったという詐欺未遂罪の承継的共同正犯の成否が問題となった事案で「被告人は,本件詐欺につき,共犯者による本件欺罔行為がされた後,だまされたふり作戦が開始されたことを認識せずに,共犯者らと共謀の上,本件詐欺を完遂する上で本件欺罔行為と一体のものとして予定されていた本件受領行為に関与している。そうすると,だまされたふり作戦の開始いかんにかかわらず,被告人は,その加功前の本件欺罔行為の点も含めた本件詐欺につき,詐欺未遂罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当」と判示して共同正犯の成立を肯定したのです。この平成29年最高裁決定により,最高裁が,承継的共同正犯につき限定肯定説を採用していることが明らかとなりました。

投稿者: 弁護士濵門俊也