弁護士ブログ

2015.08.31更新

(前編からのつづき)

 

 こうしてアーサー王は久しぶりに宮廷に帰還します。円卓の騎士たちも大喜びです。

 しかし,アーサー王は老婦人との約束を思い出し沈んでいます。

 約束はしたものの,美しく礼儀をわきまえた騎士をあんなに醜い老婦人と結婚させなくてはなりません。

 悩むアーサー王をみて心を痛めたアーサー王の甥であるガウェインが,アーサー王に近づきます。

 アーサー王は老婦人との約束を,ガウェインに説明しました。王に忠義なガウェインは,「私がその女性の婿となりましょう。」と言います。

 アーサー王は,美しく礼儀をわきまえたガウェインをあんなに醜い老婦人と結婚させたくありません。もちろん反対します。しかしガウェインも言い出したら聞きません。

 結局ガウェインが老婦人の良人となることになりました。

 

 仲間の騎士たちがからかう中,ガウェインと老婦人との結婚式が始まりました。花嫁は顔を背けたくなるような醜い老婦人。ガウェインは,アーサー王を裏切り者にしないための結婚,幸せというには程遠い結婚式でした。当然ながら祝いの宴も開かれませんでした。

 そして夜がきました。

 部屋には新郎新婦の二人きり。しかしガウェインは,外を見てため息ばかりついています。花嫁の顔さえ見ようとしませんでした。すると老婦人の花嫁が話しかけます。

 「わが良人よ。あなたは新婚初夜だというのに,私を見ようともせず,ため息ばかりついておられる。なぜですか?」

 するとガウェインも答えます。

 「私がため息をついている理由は3つある。1つ,あなたが老人であること。2つ,あなたが醜いこと。3つ,あなたの身分が低いことだ。」

 それを聞いて,老婦人は反論します。

 「1つ,たしかに私は年老いていますが,それだけ人よりも思慮が深く知恵に富んでいるということです。決して悪いことではありません。

  2つ,妻が醜いことは良人にとって幸運です。他の男が言い寄ることを心配しなくていいからです。

  3つ,人の価値は生まれや身分で決まるものではありません。魂の輝きによるものです。」

 

 騎士ガウェインは,返事をしないで花嫁の方へ視線を向け,愕きの目を見張りました。するとどうしたことでしょう。そこにいたのは,まばゆいばかりに輝く美しい乙女でした。

 「おまえは一体何者だ?」

 驚くガウェインに,花嫁が言いました。

 「じつは,私は邪な魔法使いに魔法をかけられて,老婦人の姿に変えられていたのです。2つの願いがかなわなければ,もとの姿に戻ることができません。若くて優れた騎士を良人にするという1つの願いが叶ったので,私は1日の半分をもとの姿ですごすことができるようになりました

 もとの姿でいられるのは,昼がいいですか?それとも夜がいいですか?わが良人よ,お選びください。」

 

 ガウェインはこう言いました。

 「その美しい姿は,二人だけの夜の時間に見せてほしい。できればその美貌を,他の男達に見られたくはないものだ。」

 それに対し,花嫁はこう答えます。

 「女というものは,昼間大勢の騎士や貴婦人たちの間に交じって,美しくていられる方が,それはそれは嬉しいんですよ。」

 それを聴いたガウェインは,しばらく考えた後こう言いました。

 「おまえの好きにするがよい。」

 すると花嫁が満面の笑みを浮かべて言いました。

 「たった今,2つ目の願いがかないました。私はもう,昼も夜も老婦人に戻ることはありません。」

 2つ目の願いが何だったのか。そう,「自分の意志を持つこと」だったわけです。

 それと同時に,その兄,つまり例の心の捻れた騎士の呪いも解けたのでした。じつは兄妹ともに,悪魔の呪いに巻き込まれていたのです。その騎士も,男らしい心の広い騎士に戻ったのでした。(おしまい。)

 

 いかがでしたでしょうか。物語から700年経った現在でも,女性はもちろん,男性も「自分の意志を持つこと」は難しいのかもしれません。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2015.08.31更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 女性管理職の割合に数値目標の設定などを義務付ける「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」が,8月28日午前,参議院本会議で自民,民主,公明各党などの賛成多数で可決され,成立しました。

 男女雇用機会均等法が制定されて,本年は30年を迎えます。女性が働く環境整備は,遅々として進んでいない現状もありますが,今後の推移をしっかり監視していきたいと思います。

 

 さて,すべての女性が最も望むものは何でしょうか。その答えは,『騎士ガウェインの結婚』(ブルフィンチ作・野上弥生子訳『中世騎士物語』(岩波文庫)に収録されています。文庫本で5頁程度の物語ですが,極めて示唆に富んでいます。)という物語の中にあります。

 今回は,前編・後編の2回にわたって,『騎士ガウェインの結婚』をご紹介しましょう。

 

 

 ある時アーサー王が法廷を開いていたとき,一人の乙女が彼の庇護を懇願しました。

 「邪な騎士に愛人を捕虜にされ,私の所有地を強奪されてしまいました。どうかお助けください。」

 アーサー王は,彼女の受けている不法を正すため,その残忍な騎士の城に到着し,勝負を挑みます。

 しかし,その城は魔法の土地に建っており,アーサー王が足を踏みこむや否や,忽ち勇気が挫けて,力が抜けてしまい,彼は施すすべもなく,騎士の捕虜になってしまいました。

 

 邪悪な騎士は,アーサー王に対し,つぎの条件を言い渡しました。

 ① 年の暮れにはまた必ずその城に戻ってくること,

 ② 『婦人が最も望むものは何か』という問に対する答えを持って来ること,

 ③ その約束を破れば,アーサー王の国土を渡すこと,

 以上の条件を受け入れたアーサー王は解放されました。

 

 アーサー王は東へ西へと馬を駆って,逢う人ごとにすべての婦人が最も望むものは何かと尋ね回りました。それぞれの女性には,「富」,「栄華と身分」,「快楽」,「追従」,「一人の雄々しく優美な騎士」などと回答してもらったのですが,どれ一つとして確かに信頼できる返事を見出すことはできませんでした。

 

 こうしてその年もやがて過ぎようとしていたある日,アーサー王が思いに沈みながら森の中を乗って行くと,とある樹の根元に思わず眼をそむけるほど見かけのみっともない老婦人がいました。その老婦人が礼にかなった挨拶をしても,アーサー王は応えませんでした。

 すると,その老婦人が「貴方はどういうお方です?私は,あなたが探しているものを与えることができます。」言いました。

 喜んだアーサー王は,老婦人に答えを聞こうとしました。しかし,老婦人が続けます。

 「ただし,条件があります。答えを教えるかわりに,美しく礼儀をわきまえた騎士を私の良人にしてほしいのです。」

 切羽詰まっているアーサー王は,老婦人と約束をしてしまいます。

 

 アーサー王は,邪悪な騎士の城に出向きます。邪悪な騎士が出てきます。「さあ,約束の日だ。答えを言ってみろ。」

 アーサー王は,今日まで尋ねて得た答えを片っ端から言っていきます。

 「富」,「栄華と身分」,「快楽」,「追従」,「一人の雄々しく優美な騎士」……。

 「違う,違う…」邪悪な騎士は上機嫌です。

 アーサー王の答えが尽きたころ,邪悪な騎士が言いました。「君は償いを払わん。君と君の国土は私が没収する。」

 その刹那,アーサー王は,老婦人に教わった答えを言いました。

 「あらゆる婦人の切望は,『すべての女が自分の意思を持つこと』である。」

 邪悪な騎士は悔しがりました。「君にそんなことをしゃべったのは私の妹だ。報讐(むくい)が彼女の上にあれ!いつか必ずこの返報はしてやる!」

 

(後編へつづく)

投稿者: 弁護士濵門俊也

2015.07.02更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

現在当職が担当している離婚訴訟において,遠隔地に当事者ご本人が住んでおられる事件が複数あります。また,離婚調停においても,しばしば,当事者が遠隔地に居住されている案件に遭遇します。

離婚調停や離婚訴訟において,離婚について合意に至った場合,当事者ご本人が家庭裁判所に出頭することが必要なのでしょうか。今回は,家庭裁判所における調停離婚及び離婚訴訟における和解並びに当事者ご本人出頭との関係を整理してみます。

 

 

1 離婚調停は,本人が出頭しなければならない

 

実は,離婚調停については,家事審判法の時代から当事者ご本人が出頭しなければなりませんでした。家事事件手続法ができた後も同様です。

その根拠法令は以下の条文です。

 

【家事審判規則第5条】

Ⅰ 事件の関係人は,自身出頭しなければならない。但し,やむを得ない事由があるときは,代理人を出頭させ,又は補佐人とともに出頭することができる。

Ⅱ 弁護士でない者が前項の代理人又は補佐人となるには,家庭裁判所の許可を受けなければならない。

Ⅲ 家庭裁判所は,何時でも,前項の許可を取り消すことができる。

 

【家事事件手続法 第3編 家事調停に関する手続】

第268条(調停の成立及び効力)

調停において当事者間に合意が成立し,これを調書に記載したときは,調停が成立したものとし,その記載は,確定判決(別表第2に掲げる事項にあっては,確定した第39条の規定による審判)と同一の効力を有する。

   (中略)

第270条(調停条項案の書面による受諾)

Ⅰ 当事者が遠隔の地に居住していることその他の事由により出頭することが困難であると認められる場合において,その当事者があらかじめ調停委員会(裁判官のみで家事調停の手続を行う場合にあっては,その裁判官。次条及び第272条第1項において同じ。)から提示された調停条項案を受諾する旨の書面を提出し,他の当事者が家事調停の手続の期日に出頭して当該調停条項案を受諾したときは,当事者間に合意が成立したものとみなす。

Ⅱ 前項の規定は,離婚又は離縁についての調停事件については,適用しない

 

上記のとおり,離婚調停は,成立以前の調停条件協議時は手続代理人弁護士だけの出頭だけでも構わないのですが,成立時には本人が出頭しなければならないのです。

 

 

2 離婚訴訟における当事者ご本人の出頭の必要性

 

離婚訴訟における和解に関する条文は以下のとおりです。

 

【人事訴訟法 第3節 和解並びに請求の放棄及び認諾】

【第37条】

Ⅰ 離婚の訴えに係る訴訟における和解(これにより離婚がされるものに限る。以下この条において同じ。)並びに請求の放棄及び認諾については,第19条第2項の規定にかかわらず,民事訴訟法第266条(第2項中請求の認諾に関する部分を除く。)及び第267条の規定を適用する。ただし,請求の認諾については,第32条第1項の附帯処分についての裁判又は同条第3項の親権者の指定についての裁判をすることを要しない場合に限る。

Ⅱ 離婚の訴えに係る訴訟においては,民事訴訟法第264条及び第265条の規定による和解をすることができない。

Ⅲ 離婚の訴えに係る訴訟における民事訴訟法第170条第3項の期日においては,同条第4項の当事者は,和解及び請求の認諾をすることができない。

 

問題は,訴訟上の和解で離婚する場合に,調停離婚と同様に,当事者の出頭が必須かどうかという点です。

上記人事訴訟法第37条及び準用する条文をみていただいてもお分かりのとおり,必ず本人出頭が必要かどうかは明確ではありません。

人事訴訟法の解説書の一つである日本加除出版の『改訂人事訴訟法概説』34頁には,新人事訴訟法立法過程で離婚の「和解において当事者本人の出頭義務を明記すべきかどうかについても検討されたが,離婚を話し合いにより解決するための手続である以上,本人による意思確認が必要であることは実体法上の要請であるとして,手続法においてこの点を明記することはせず,」と解説されています。

 

また,上記『改訂人事訴訟法概説』329頁には「病気等により出頭が困難な場合も予想されるから,不出頭につき相当な理由がある場合には,当事者本人不出頭のままで訴訟上の和解を成立させることもゆるされるのではないか。この問題については,当事者の意思確認の方法の問題も含めて,なお検討してみる必要があろう。」と解説されています(当職も同意見です。)。

 

ただ,実務上は,当事者の出頭を前提として訴訟上の和解を勧めることがほとんどです。少なくとも当職は当事者欠席のもとでの和解をいまだ経験していません。

 

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離婚時の慰謝料の相場はない?できるだけ多くの慰謝料をもらうためには?
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離婚した後に名字をどうするの?戸籍をどうするの?(下)
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投稿者: 弁護士濵門俊也

2015.06.11更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

1 児童手当の支給方法

 

突然ですが,児童手当はだれのものでしょうか。

児童手当の趣旨・目的からいえば,それは「子どものもの」といえます。ただ,子どもがお金を受け取ることはできない(行為能力が制限されているため,お金を管理する能力がないわけです。)ため,便宜上,法定代理人親権者が児童手当を受け取っているのです。

このように,児童手当は,子どもを実際に養育している親が受け取って,子どものために使うのが本来の姿です。

 

しかし,「別居して私(妻)が子どもを育てているのに,夫が児童手当を受給したまま私(妻)に渡さないのですが,どうすればよいのでしょうか。」という相談をよく受けます。

このような事態が生じるのは,実際の実務の運用がつぎのようになっているからです。

 

両親が離婚または離婚協議中のために別居していて,生計を同じくしていないときは,児童と同居している人に手当が支給されます。

単身赴任などで別居している場合は,生計を維持する程度の高い人に支給されます。
 

(厚生労働省発行の「児童手当Q&A」参照)

 

児童手当は原則として児童を養育している人が複数いる場合は(通常は父母)「生計を維持する程度が高い人」に支給されています。

「生計を維持する程度が高い人」とは一般的には父母のうち所得の高い人を指します。

 

しかし,別居中の両親が生計を同じくしていないような場合(離婚又は離婚協議中について別居している場合)については,同居している人が児童を養育していると考えられることから,児童と同居している人に支給されます。

 

 

 

2 児童と同居している人が支給を受けるための手続

 

児童と同居している人が支給を受けるための手続は,以下のとおりです。

 

 ①まず,「児童手当・特例給付受給事由消滅届」を提出します。

これは,父母が別居(住民票上)又は世帯分離している場合には,提出不要です。父親のほうが受け取っている場合,父親がまずこれを書かないといけませんのでご注意ください。

 

② その後母親名義で「児童手当・特例給付認定請求書」を提出します。

母親一人でも「児童手当・特例給付受給事由消滅届」も合わせて提出できるかどうかは,お住まいの市区町村で確認してみてください。

 

なお,離婚調停中の場合でも変更の申立ては,「児童手当等の受給資格に係る申立書」と決められた書類を出すことで,所定の条件を満たせば変更できるようですので,お住まいの市区町村役場等で問い合わせてみてください。

 

 

 

3 児童手当相当額の引渡しの可否

 

このように,児童手当を確実に受給するためには,受給者を変更してもらうという方法があります。しかし,そのためには,もともと受給していた配偶者が変更手続について協力しなければなりません。離婚前提で別居しているようなご夫婦の場合,感情の問題もありますから,そう簡単にはいかないでしょう。

 

そうすると,端的に,上記妻が上記夫に対して児童手当を渡せといえないのか,という疑問が生じます。

 

この点につき,たしかに,児童手当の支給を受けた親は,それを児童手当の趣旨・目的にしたがって使用する義務を負うことは間違いないでしょう。

しかし,上記義務は法律上のものではなく,あくまでも事実上のものにすぎませんから,子を監護している親が,当然に,児童手当相当額の引渡しを他方配偶者に求めることができるわけではありません。

したがって,子どもを監護している親は,児童手当を受給した他方の親に対して児童手当を渡すよう強制することはできない,というべきでしょう(私見)。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2015.06.08更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

当職ら(妻を含む。)は,毎週日曜日午前10時からフジテレビ系列で放送中の「ワイドナショー」を楽しみにしています。とくに,ゲストコメンテイターが長嶋一茂さんと社会学者の古市憲寿さんでしたので,大変面白かったです。

上記番組中,現在世間をにぎわせている「枕営業事件」に言及されていましたので,本ブログでもご紹介しておきたいと思います。

 

1 事案の概要

東京・銀座クラブのいわゆる「ママ」が,優良顧客であった会社社長と約7年間にわたり,肉体関係にあったとして,社長の妻(原告)がママ(被告)に対し,慰謝料等を請求した事件です。

 

2 判決の内容(上記判例タイムズから一部引用)

原告(社長の妻)の請求は棄却されました。すなわち,裁判所は,被告(クラブのママ)と会社社長との肉体関係は,慰謝料を発生させるような不法行為ではないと判断したわけです。 

ちなみに,被告(クラブのママ)は,いわゆる「本人訴訟」(我が国の民事訴訟法は,弁護士強制主義を採っていないため,弁護士を付けないで当事者本人が訴訟追行をすることができるのです。)であったようです。

 

裁判所が,上記結論を導いた論理は以下のとおりです。


「第三者が一方配偶者と肉体関係を持つことが他方配偶者に対する不法行為を構成するのは,原告も主張するとおり,当該不貞行為が他方配偶者に対する婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益に対する侵害行為に該当することによるものであり,ソープランドに勤務する女性のような売春婦が対価を得て妻のある顧客と性交渉を行った場合には,当該性交渉は当該顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず,何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから,たとえそれが長年にわたり頻回に行われ,そのことを知った妻が不快感や嫌悪感を抱いたとしても,当該妻に対する関係で,不法行為を構成するものではないと解される(原告は,当該売春行為が不法行為に該当しないのは,正当業務行為として,違法性を阻却することによる旨を主張するが,違法性阻却を問題とするまでもないというべきである。)。」。

 

【コメント】 「ソープランドに勤務する女性のような売春婦が対価を得て妻のある顧客と性交渉を行った場合には,当該性交渉は当該顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず,何ら婚姻共同生活の平和を害するものではない」との認定は異論もあるでしょうし,当職も了承できません。


「ところで,クラブのママやホステスが,自分を目当てとして定期的にクラブに通ってくれる優良顧客や,クラブが義務付けている同伴出勤に付き合ってくれる顧客を確保するために,様々な営業活動を行っており,その中には 顧客の明示的又は黙示的な要求に応じるなどして,当該顧客と性交渉をする『枕営業』と呼ばれる営業活動を行う者も少なからずいることは公知の事実である。」。

 

【コメント】 「公知の事実」は,「証明することを要しない」(民訴法第179条)とされていますが,要件事実である限り主張責任を認めるべきとされています(最判昭和28年9月11日裁判集民第9巻901頁)。はたして,「枕営業」は,裁判所の言うように「公知の事実」なのでしょうか。

ちなみに,当職の妻などは,本件裁判官が「枕営業」の片棒をかついでおり,自己正当化のための判決を起案したのではないかなどと過激なことを申しておりました(当職もそのような発想には至りませんでした。やはり女性の受けは悪いようです。)。

 

「このような『枕営業』の場合には,ソープランドに勤務するような女性の場合のように,性交渉への直接的な対価が支払われるものではないことや,ソープランドに勤務する女性が顧客の選り好みをすることができないのに対して,クラブのママやホステスが『枕営業』をする顧客を自分の意思で選択することができることは原告主張のとおりである。」。


「しかしながら,前者については,『枕営業』の相手方がクラブに通って,クラブに代金を支払う中から間接的に『枕営業』の対価が支払われているものであって,ソープランドに勤務する女性との違いは,対価が直接的なものであるか,間接的なものであるかの違いに過ぎない。また,後者については,ソープランドとは異なる形態での売春においては,たとえば,出会い系サイトを用いた売春や,いわゆるデートクラブなどのように,売春婦が性交渉に応ずる顧客を選択することができる形態のものもあるから,この点も,『枕営業』を売春と別異に扱う理由とはなり得ない。」。

 

【コメント】 「枕営業」と売春とが同じであるということです。突っ込みどころ満載です。 


「そうすると,クラブのママやホステスが,顧客と性交渉を反復・継続したとしても,それが『枕営業』であると認められる場合には,売春婦の場合と同様に,顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず,何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから,そのことを知った妻が精神的苦痛を受けたとしても,当該妻に対する関係で,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。」。

 

【コメント】 なかなかの衝撃をうける内容です。一般化はできないと当職は考えますが,少なからず,これからの実務に影響を及ぼしそうです。
ちなみに,本判決について控訴はされていないため,この判決が確定してしまったようです(当職としては,少なくとも東京高裁の判断を仰いでもらいたかったです。)。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2015.05.28更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

離婚した後に戸籍をどうするのかについては,とくに婚姻によって氏を変更した方(わが国では主に女性とされています。)にとっては,重要な問題になってきます。2回目の今回は,離婚後の戸籍について説明してまいります。あわせて,お子さんがおられる方も多いでしょうから,子どもの氏と戸籍についても補足しておきます。

■前回の記事はこちら▽

離婚した後に名字をどうするの?戸籍をどうするの?(上)

 

1 復籍について

 

婚姻により氏を改めなかった人は,離婚後も戸籍に変動はなく,そのままの戸籍にとどまります。これに対し,離婚によって旧姓に戻った人は,原則として婚姻前の戸籍に戻ります(これを「復籍」といいます。)。婚姻前の戸籍から父母が別戸籍へ転籍している場合には,その転籍後の戸籍に入ることになります。

 

2 新しい戸籍の編製

 

例外的に,つぎの場合は,新戸籍を作ってその戸籍に入ることとなります。

 

⑴ 婚姻前の戸籍が除籍されている場合

⑵ 婚姻前の氏に戻った人が新戸籍編製の申出をする場合

⑶ 婚姻時の氏を名乗りたいとして婚氏続称の届出を行った場合

 

※ 復籍した者が,その後に新戸籍をつくることはできますが,逆に,新戸籍をつくってしまった後に,やはり婚姻前の戸籍に戻りたいと思っても戻ることはできません。この点は注意が必要です。

 

【補足】 子どもの氏と戸籍

 

1 子どもの氏について

 

父母が離婚しても,子どもの氏は当然には変更されません。離婚によって子どもの親権者が旧姓に戻っても,子どもの氏が変わるわけではありません。そのため,たとえば,母親が親権者となり旧姓に戻った場合には,親権者である母親と子どもの氏が異なるということとなります。

 

また,少し分かりにくいのですが,親が婚氏続称の届出をした場合であっても,「婚姻中の氏」と「続称の手続をとった氏」は,法律上は,「別の氏」とされます。よって,呼び方は同じであってもその親と子の氏は異なることとなります。

たとえば,A山花子さんがB川太郎さんと結婚して,夫婦でB川という氏を名乗ることと決め,2人の間に花太郎くんという男子が生まれたとします。その後,花子さんと太郎さんは離婚をしたのですが,花子さんは婚氏続称の手続をとって「B川」という氏を名乗ることとした場合,花子さんと花太郎くんは「B川」というように呼び名は同じ氏であっても,法律上は別の氏として扱われるのです。

 

2 子どもの戸籍について

 

子どもの戸籍については,何らかの手続をとらなければ従前のままであり,自動的に親権者である親の戸籍に移動することはありません。また,子どもと親の氏とが異なる場合,子どもは親の戸籍に入ることができません。

 

そのため,婚姻により氏を改めた者が子どもの親権者になった場合には,子どもに自分と同じ氏を名乗らせない限り,自分と同じ戸籍に入れることはできないのです。この場合,子どもは従前の戸籍に入ったままとなります。

 

よって,婚姻によって氏を改めた親が親権者となり,子どもを自分の戸籍に入れたい場合には,家庭裁判所に対して「子の氏の変更許可(民法第791条)」を申し立てて,子どもの氏を自分の氏と同じにする必要があります。

 

なお,親が婚姻前の戸籍に復籍した場合で,親がその戸籍の筆頭者ではない場合には,子どもがその氏を変更しても,その戸籍に入るわけではありません。

この場合は,子どもの親を筆頭者とする新しい戸籍がつくられることになります。それは,戸籍は夫婦及び夫婦と氏を同じにする子どもごとにつくられる(戸籍法第6条)こととなっているところ,親が復籍した戸籍の筆頭者がその親の両親(子どもにとっては祖父・祖母)であるとしますと,親,子ども,孫の三世代の戸籍となってしまい,戸籍法に反する事態になってしまうからです。

 

3 子どもの入籍手続

 

家庭裁判所による子どもの氏の変更許可のみでは氏の変更の効力は生じません。

子どもが親の戸籍に入籍する旨の届出をすることが必要です。これにより,子どもの氏の変更の効力が生じることになります。

 

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投稿者: 弁護士濵門俊也

2015.05.28更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

離婚した後に名字(法律上は「氏」といいます。)をどうするのか,戸籍をどうするのかについては,特に婚姻によって氏を変更した方(我が国では主に女性となっています。)にとっては,重要な問題になってきます。今後2回に分けまして,論じていきたいと思います。

 

1 離婚後の氏について

 

⑴ 婚姻のときに氏を改めなかった人の場合

 

夫婦は婚姻の際,夫又は妻の氏のどちらかの氏を称することとなります(民法第750条)。婚姻により氏を改めなかった人(結婚後もそのままの名字を名乗っていた人)は,離婚をしてもそのままの氏を名乗ることになります。

 

⑵ 婚姻により氏を改めた人の場合

 

他方,婚姻により氏を改めた人は,離婚をすると婚姻前の氏(旧姓)に当然に戻ることとなります(これを「復氏」といいます。)。

 

ただし,婚姻時の氏を離婚後もそのまま名乗っていきたい場合は,離婚の日から3か月以内に,戸籍法上の「離婚のときに称していた氏を称する旨の届」を出せば,結婚していたときの氏を名乗ることができます(これを「婚氏続称制度」といいます。)。 

 

このように,婚姻によって氏を改めた人は,離婚をする際に旧姓に戻ることも,そのままの氏を名乗ることもできるのです。この届出は,離婚の届出と同時にすることも可能です。そこで,離婚を決意するに際しては,「氏をどうするか」という問題も決めておくとよいでしょう。なお,届出先は夫婦の本籍地又は届出人の所在地の役所となります。

 

2 婚姻により氏を改めた人の「氏の変更許可の申立て」

 

「婚氏続称の届」は,上記のとおり,離婚の日から3か月以内とされています。この期間は,たとえ地震などの自然災害があったとしても延長されないと考えられています。その趣旨は,「離婚後の氏は,すみやかに確定させるべき」という政策的観点によるものです。

 

ただし,3か月を過ぎたからといって,必ずしも「そのままの氏が名乗れなくなる」ものではありません。かりに,離婚して3か月以上経ってから,婚姻していたときの氏を名乗りたいと思った場合は,「氏の変更許可の申立て」(戸籍法第107条第1項)を家庭裁判所に対して行うことになります。

 

この「氏の変更」が認められるためには,「やむを得ない事由」がなければならないとされています。「やむを得ない事由」とは,「単に気に入らない」というだけでは認められず,現在の氏により社会生活上で不利益・不便が生じているなどの事情が必要です。

 

一般的には、「離婚によって旧姓に戻った方が氏の変更をする場合」や,「婚氏続称をした人が旧姓にやっぱり戻りたい」という場合の「氏の変更」は,ほかの場合よりも認められやすい,というのが裁判例の傾向です。

 

やはり,家庭裁判所への申立てに必要な時間的・労力的な負担があることや,氏の変更が裁判所に許可されない可能性もあることを考えると,離婚時までに「氏の選択」を行い,婚姻時の氏をそのまま名乗りたいという場合には,期間内に届出を出しておくべきでしょう。

 

■続きはこちら▽

離婚した後に名字をどうするの?戸籍をどうするの?(下)

 

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投稿者: 弁護士濵門俊也

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