弁護士ブログ

2016.12.21更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

平成28年12月19日,次のようなニュースに接しました。


最高裁:預貯金は遺産分割の対象 判例変更し高裁差し戻し――毎日新聞
「亡くなった人の預貯金を親族がどう分けるか争った相続の審判を巡り,最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は19日の決定で,「預貯金は法定相続の割合で機械的に分配されず,話し合いなどで取り分を決められる『遺産分割』の対象となる」との判断を示した。」

これまで,最高裁は,後述する昭和29年や平成16年の判決において,預貯金など分けることのできる債権(可分債権)は「(法定)相続分に応じて分割される」と判断してきました。そのため,預貯金は,遺産の分け方を話し合う遺産分割の対象とはならず,法定相続分に基づいて自動的に分けられるとされてきたのです。もっとも,この理解を前提としながら,遺産分割手続の当事者の同意を得て預貯金債権を遺産分割の対象とする運用が実務上広く行われてきました。


そこで,今回は「遺産分割におけるこれまでの預貯金の取扱いと今回の判例変更の意義」について,解説をしたいと思います。


●これまでの最高裁判所の考え方
最高裁判所は,古くから,亡くなられた方(被相続人)が有していた預貯金債権については,死亡と同時に自動的に相続人に分割承継されるという考え方を採用していました。


最判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁
「相続人数人ある場合において,その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは,その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するを相当とするから,所論は採用できない。」


最判平成16年4月20日判時1859号61頁
「相続財産中に可分債権があるときは,その債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり,共有関係に立つものではないと解される(最判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁)。したがって,共同相続人の1人が,相続財産中の可分債権につき,法律上の権限なく自己の債権となった分以外の債権を行使した場合には,当該権利行使は,当該債権を取得した他の共同相続人の財産に対する侵害となるから,その侵害を受けた共同相続人は,その侵害をした共同相続人に対して不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができるものというべきである。」

 

●これまでの最高裁判所の考え方の根拠
最高裁判所が上記のような考え方を採用していた根拠は,民法898条,民法264条,民法427条です。

(共同相続の効力)
民法第898条
相続人が数人あるときは,相続財産は,その共有に属する。

(準共有)
民法第264条
この節の規定は,数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし,法令に特別の定めがあるときは,この限りでない。

(分割債権及び分割債務)
民法第427条
数人の債権者又は債務者がある場合において,別段の意思表示がないときは,各債権者又は各債務者は,それぞれ等しい割合で権利を有し,又は義務を負う。

複数の相続人がいる場合,遺産は,複数の相続人の「共有」に属することになります(民法898条)。 民法898条の「共有」は,基本的には民法249条以下に規定する「共有」と性質を異にするものでないと解されています(最判昭和30年5月31日民集9巻6号793頁参照)。

よって,遺産に含まれる預貯金についても,民法264条が適用されることになり,預貯金について相続人が複数いる場合は,民法264条によって,その複数の相続人が預貯金債権を取得することとなります。

複数の相続人が預貯金債権を取得するということは,すなわち,それぞれの相続人が金融機関に対して「払い戻せ」と請求できるということです。
これは,法律的には,「複数人の債権者がいる」ということになります。

そして,民法427条は「複数人の債権者がいる」場合に適用される規定です。

その結果,民法427条の効力によって,預貯金が相続人に等分に割り振られるということになります。すなわち,遺産分割を経るまでもなく,当然に分割承継されるということになりますから,可分債権は「遺産分割の対象となる遺産」を構成しないということとなるわけです。

 

●これまでの実務の運用
最高裁判所が上記のような考え方を採用していたため,現在の実務でも,この考え方が前提となっていました。もっとも,これまでの実務は,最高裁判所の考え方をそのまま適用しているきた訳ではありません。実務では,相続人間において,預金債権を遺産分割対象に含める旨の合意が成立すれば,合意に従い,預金債権を分割対象に含めて審理をする取扱いをしてきたのです。




●今回の大法廷決定
今回の大法廷決定は,これまでの最高裁判所の考え方をあらためました。
公開されている判決文によれば,「共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である」旨判示しています。

これは,遺産分割の仕組みが共同相続人間の実質的公平を図ることを旨として相続により生じた相続財産の共有状態の解消を図るものであり,被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましいことを前提に,預貯金が現金に極めて近く,遺産分割における調整に資する財産であることなどを踏まえて,本件で問題となっている各預貯金債権の内容及び性質に照らし,上記各債権が共同相続人の合意の有無にかかわらず遺産分割の対象となるとしたものであると理解することができます。

ちなみに,今回の大法廷決定には,補足意見が3つ,意見が1つ付されています。

これまでの実務の運用においても,遺産分割調停・審判において預貯金を取り扱ってきましたし(最判昭和50年11月7日民集29巻10号1525頁参照),金融機関の一部は,従来から亡くなった方の預貯金を遺族が引き出される場合,遺産分割協議書を求めてきていました。

そうしますと,今回の大法廷決定が遺産分割実務の「すべて」に対し決定的な影響を与える訳ではないと思われますが,実務上重要な判例変更であるといえるでしょう。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.08.17更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。


 今日は暑いですね。残暑厳しいです。「このまま暑くなったら12月はどうなるやろか」などと古典的な漫才のフレーズでも言いたくなります(…まったくつまらないですね。その意味では「寒い」です。)。さて気を取り直していきましょう。先日,つぎのような内容の公正証書遺言についてご相談を受けました。

① 下記不動産を甲に遺贈する。
  ◯◯区◯◯町・・・の土地
  ◯◯区◯◯町・・・の建物

② 上記①の不動産を除く一切の財産を乙に遺贈する。

 ①の遺贈が特定遺贈であることは問題ないと思いますが,②の遺贈は包括遺贈なのか特定遺贈なのか少し悩みますよね。
そこで,今回はこれに類似した問題を扱った事例の裁判例(東京地判平成10年6月26日判時1668号49頁)がありますので,その解説とともに説明してみます。


●問題提起


 まず,遺贈には「包括遺贈」と「特別遺贈」があります。
 「包括遺贈」とは,目的物を特定せずに,遺産の全部又はその一定の割合を指定して行う遺贈のことであり,例えば「遺産の全部」とか,「遺産の2分の1」というように遺産の割合をもって行う遺贈のことです。
 他方,「特定遺贈」とは,「下記不動産」とか「下記預貯金」というように目的物を特定して行う遺贈のことをいいます。

 包括遺贈を受けた人(=包括受遺者)は,相続人と同一の権利義務を有する(民法第990条)。とされているため,その遺贈が「包括遺贈」なのか「特定遺贈」なのかによって,債務を承継するか否か,放棄する場合の方式,登記の方法(乙が唯一の相続人だった場合)などの取扱いが異なります。


 前記公正証書遺言②の記載は「◯◯を除く」という書き方で財産を特定しているようでもありますが,通常の特定遺贈のように明確に財産を特定している訳ではないので,「特定遺贈」というには少し違和感を感じます。
 また,遺産の全部若しくはその一定の割合をしている訳でもないので,「包括遺贈」と言い切ってしまっていいのか?という疑問も生じます。


●東京地判平成10年6月26日(判時1668号49頁)の説明


① 事案

  被相続人Aは,著名人物(昭和9年に獄死しています。)の妻であったところ,Aは,遺産のうち不動産の一部(A所有の土地のうち特定部分)をBに遺贈し,その余の財産すべてを(当時は)法人格なき社団であったX(大正11年に創立された政党です。)に遺贈したという事案です。Xが特定受遺者なのか包括受遺者なのかが争点となりました。


② 判旨

  東京地裁は,「『特定財産を除く相続財産(全部)』という形で範囲を示された財産の遺贈であっても,それが積極,消極財産を包括して承継させる趣旨のものであるときは,相続分に対応すべき割合が明示されていないとしても,包括遺贈に該当するものと解するのが相当である」
と判示したうえで,本件事案においては,AからXへの遺贈について,Bが取得する土地以外の相続財産全部を包括してXに遺贈する趣旨でなされたものとして,Xについて包括受遺者と認めました。


③ 本判決の意義

  包括遺贈は,通常は,①全財産(積極・消極財産)を包括して遺贈する「全部包括遺贈」か,②全財産(積極・消極財産)の割合的な一部を包括して遺贈する「割合的包括遺贈」かのいずれかであるのですが,そのほかに③本件事案のように特定財産を除いた財産につき積極財産・消極財産を包括して遺贈するという「特定遺贈と包括遺贈の併存型」があることを判示した点に本判決の重要な意義があるといえます。
  判例時報第1668号49頁の解説では,「相続財産の一部を特定遺贈又は分割方法の指定により特定人に取得させることとしたうえ,それらの財産を除く相続財産につき,積極財産のみならず消極財産を包括して遺贈の対象とすることも可能であり,このような遺言は『財産の一部』についての遺贈であるが,当該財産の範囲で,受遺者は被相続人の権利,義務を包括的に承継することになるから,『特定財産を除く相続財産全部』という形で範囲を示された財産の遺贈であっても,それが積極・消極財産を包括して承継させる趣旨のものであるときは,相続分に対応すべき割合が明示されていないとしても,包括遺贈に該当すると解するのが相当である。」と説明しています。


●登記原因


 最後に,登記手続上の説明を補足しておきましょう。登記手続上は,遺言書に「相続させる。」と書いてあれば「相続」として登記し,「遺贈する。」と書いてあれば「遺贈」として登記するのが原則です。ただし,「相続人全員に対して全財産を遺贈する。」と書かれていた場合は,遺言書に「遺贈する。」と記載してあったとしても「遺贈」ではなく「相続」で登記することとなっています。

 今回の相談における乙さんは被相続人の唯一の相続人だったため,これが「包括遺贈」であるとしますと,登記原因を「相続」で登記することとなります。そこで,これを法務局がどう判断するか管轄の法務局に相談してみたところ,「包括遺贈」として手続を行って構わないとの回答を得られました。

 

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投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.07.26更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 さて,先日ある方から相続のご相談を受けました。被相続人が亡くなった場合に,一定の遺族等に対して死亡退職金が支払われる場合がありますが,死亡退職金も相続財産(遺産)に含まれるのでしょうかというものでした。そこで,今回はその点について,説明してみます。

●相続における死亡退職金の取扱い
 被相続人が,企業等に勤務していた場合,退職金規程があれば,退職金が支払われることとなります。通常は退職後に支払われることが多いと思いますが,退職前に死亡してしまった場合もあり得ます。この場合であっても,死亡退職金が支払われるということもあると思います。
 係る死亡退職金は,場合によっては大きな金額となることがあり得ます。そのため,この死亡退職金が相続財産(遺産)に含まれるのかということが問題となることがあります。
 この点について,死亡退職金は,賃金の後払い的な性質(つまり,死亡までの間の労働の対価としての性質)を有しているといえます。その側面から考えれば,被相続人に対する賃金類似のものといえ,相続財産に当たると考えることも可能でしょう。
 もっとも,実務上は,上記のような賃金の後払い的な性質よりも,遺族の生活保障という性質を重視して,死亡退職金は,その受取人である遺族の固有の財産であると考えるのが一般的とされています。
 言い換えますと,死亡退職金は,相続財産(遺産)に含まれないと考えられているということです。
 ただし,退職金規程において死亡退職金が,誰に対し,どのように支払われているかを検討し,その結果,遺族の生活保障というよりも,賃金の後払い的性格が強いものと判断できれば,相続財産として扱われることがあると解されています(もっとも,そのような場合は,非常に稀な場合であるといってよいと思います。)。

●死亡退職金の受取りに関する規程が無い場合
 このように,退職金規程の仕方によっては,死亡退職金も相続財産(遺産)として扱われる場合があり得ます。
 そこで,問題となってくるのが,死亡退職金制度はあるけれども,退職金規程に受取人等の定めがまったく無いというような場合です。
 実際にはほとんどないかもしれませんが,このような場合に死亡退職金を相続財産として扱えるのかどうかということが問題となってきます。 
 この点については,受取人指定が無い以上特定人の固有財産とみることができないので,相続財産(遺産)に含まれるとする見解や,遺族補償の趣旨を重視して,相続人が各自の相続分に応じて固有財産として取得するという見解等があります。
 上記のとおり見解は分かれていますが,現在のところ最高裁判所の判例はありません。すなわち,実務上も明確な基準はないといってよいのではないでしょうか。
 受取人指定が無い以上,誰か特定人の固有財産とすることはできませんが,死亡退職金も,勤務先にそれを請求するという意味では金銭債権ですので,固有財産となるのか相続財産として取得するのかはおくとして,可分債権と同様に相続人が各自の相続分に応じた請求権として取得することになると思われます。
 もっとも,実際には,勤務先の方で,各共同相続人からの個別の請求に応じてくれるということは少ないでしょう。したがって,やはりこの場合には,遺産分割で各自の相続分を定めざるを得ないことになるのが通常かと思われます。

●被相続人退職後受給前の退職金の取扱い
 なお,被相続人が退職し,すでに退職金請求権が発生した後,それを受給する前に死亡した場合には,どうなるのかという問題もあります。これは,死亡によって発生した退職金ではないので,死亡退職金ではありませんが,念のためご説明いたします。
 この場合には,すでに,被相続人の生前に,被相続人において退職金請求権という債権が帰属しています。単に受領していないというだけです。被相続人が退職金請求権という権利・財産を有しているということです。
 したがって,この場合の退職金請求権は,相続財産(遺産)に含まれます。
 ただし,金銭債権ですので,遺産分割を経るまでもなく,各共同相続人がそれぞれの相続分に応じて請求権を取得することとなります。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.06.13更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 昨日(平成28年6月12日),日曜劇場『99.9-刑事専門弁護士』第9話(以下「第9話」といいます。)が放映されました。ミステリー好きの方であれば,第9話のトリックはよくご存じであったと思います。当職もドラマの中盤でトリックを確信しました。

 「相続人の欠格事由」や「代襲相続」など,一般の視聴者にとっては普段馴染みのない法律用語の理解が不可欠でしたので,一瞬面くらった方もおられたかもしれません。

 そこで,今回は,第9話のラストシーンについて解説してみます。

 

●第9話のあらすじ

 深山 (松本潤さん) は佐田 (香川照之さん) から指示を受け,彩乃 (榮倉奈々さん) らとともに,莫大な資産を有する山城鉄道の会長の自宅を訪ねます。するとそこには殺害された会長の遺体があり,それを取り囲む家族らがいました。状況を聞くと,三男の嫁で(妊娠中である)皐月 (国仲涼子) が殺人を犯した事実を自白したのです。犯行の動機は,脳梗塞を患った義父を懸命に介護したところ,満足してもらえないまま罵倒される日々が重なり,耐えられなくなったとのことでした。さらに事件当時,自宅で一緒に暮らしていた家族らも全員,皐月の犯行を認める供述をし,すぐに解決するかに見えました。

 しかし,深山は持ち前の観察眼で,ある違和感を嗅ぎ取ります。家族らの証言を検証していくと,それはまるで「無理につじつまを合わせたかのように一致」していたのです。その点を突破口として,チーム斑目は,実は長男が会長を殺していたという事実を家族ぐるみで隠していたという事実を暴き出すことに成功します。

 これで一件落着かと思いきや,最後,皐月を斑目法律事務所に呼び出した深山が,佐田と彩乃の同席のもと,次のように語り出します。

 深山:「あなたは,罪を被る振りをして,僕たちが真相に辿りつくのを,赤ワインの話をわざわざ出して,巧みに誘導したんですね。すべては,山城会長の遺産を手に入れるため。皐月さんには相続権はない。相続権があるのは,3人の兄弟と,敬二さんの息子の良典さん。でも,長男の功一さんは,殺人を犯し,相続権はなくなるでしょう。そして敬二さんも,隆三さんも,良典さんも,犯人を隠匿(注:構成要件的には「隠避」です。)しているため,同じく相続権は失うことになるでしょう。でも,たった一人だけ,遺産を相続できる人がいるんです。」

 彩乃:「お腹の中の赤ちゃん…」

 佐田:「代襲相続かー!!」

 彩乃:「民法886条,胎児は,相続については,生まれているものとみなす。」

 佐田:「皐月さんあなた,家族全員の遺産の相続権をなくすために…。」

 深山:「あなたは,自分が罪を被ると言って,彼らの相続権をなくした。そして,山城会長が持っていたすべての財産を,自分の子供に行くようにした。」

 

●家族関係・事実関係の整理と法律解説

 まず,解説にあたり,家族関係を整理してみます。

 殺された山城会長には,次の7人の家族がいました。

 まずは,長男の功一とその妻の育江。

  次に,二男の敬二とその妻の昌子,それから2人の息子(会長の孫)の良典の3人。

 最後に,三男の隆三と,その妻であり今回犯行を自供した皐月の2人。 

 

 第9話の設定では会長は遺言を遺していなかったようです。また,会長は会長の子らの妻とは養子縁組をしていなかったようです。その前提で解説します。

 上記7人の中で,山城会長の相続権を有する者(「法定相続人」といいます。)は,会長の子である長男の功一,二男の敬二,三男の隆三の3人です。なお,次男の息子(会長からすると孫に当たります。)である良典は,次男の敬二が相続権を有している限り,相続権を有しません。

 

 しかし,第9話では,長男の功一が被相続人である山城会長を殺しているため,相続欠格事由に該当し,刑が確定しますといずれ相続権を失うことになると考えられます(ちなみに,功一に殺意がなく傷害致死と認定されますと,欠格事由には該当しません。本件では難しいでしょうが公判では争うでしょう。)。根拠は,民法第891条第1号です。

【参照条文】

民法第891条 次に掲げる者は,相続人となることができない。
 第1号 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ,又は至らせようとしたために,刑に処せられた者 

 

 よって,皐月が何らアクションを起こさなければ,二男の敬二と三男の隆三がそれぞれ2分の1ずつ会長の遺産を相続することとなるはずでした。

 しかし,今回,皐月が山城家の皆に自分が犯人として長男の身代わりになることを提案し,二男の敬二と三男の隆三はそれに応じて皐月を犯人として申告しているため,こちらも欠格事由に該当する可能性があり,相続権を失うこともあり得ると考えられます(少なくとも第9話の制作者はそう考えているようです。)。根拠は民法第891条第2号です。

【参照条文】

民法第891条 次に掲げる者は,相続人となることができない。
 第2号 被相続人の殺害されたことを知って,これを告発せず,又は告訴しなかった者。ただし,その者に是非の弁別がないとき,又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは,この限りでない。

 

 二男及び三男は,長男の功一が犯人であることを知ったうえで,別の者(皐月)を犯人として申告しているため,同様に欠格事由に当たる可能性はあります。

 ここで,二男の敬二が相続権を失うことにより,敬二の息子である良典が敬二の代わりに相続をする可能性が生じます。このように,欠格事由に該当することなど事由によって相続権を失った者に子がいる場合,その子が親に代わって相続をすることができます。これを「代襲相続」といいます。根拠は,民法第887条第2項です。

【参照条文】

民法第887条第2項 被相続人の子が,相続の開始以前に死亡したとき,又は第891条の規定に該当し,若しくは廃除によって,その相続権を失ったときは,その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし,被相続人の直系卑属でない者は,この限りでない。

 

 もっとも,第9話において,二男の息子の良典は,二男や三男と同様に長男の功一が犯人であることを知ったうえで別の者(皐月)を犯人として申告しているため,二男や三男が欠格事由に該当するとされるのであれば,同様に代襲相続権を失う可能性があります。その場合には,結局遺産を相続することができません。

 以上より,上記7人はすべて会長の遺産の相続権を有しない可能性があることとなります。

 

●ここからが第9話のミソ

 そうすると,皐月の不敵な笑いは何だったのかという疑問にぶち当たります。そこで,彩乃の発言にあった「民法第886条」を思い出してみましょう。

【参照条文】

民法第886条第1項 胎児は,相続については,既に生まれたものとみなす。

 

 胎児は法律的には「人」ではなく基本的に民法上の権利を有しません。ただし,生命としては存在しているわけですから,母体から出てくるのが早いか遅いかの違いだけで相続権を有するか有しないかの差を生じさせることは不合理であるといえます。そこで,相続については例外的に上記規定が置かれています。

 民法第886条第1項の規定に基づき,皐月が懐胎している胎児は,出生の際,相続時に遡って権利義務を有することになります。

 上述したとおり,山城家の人間らはいずれも相続欠格事由があるものとすれば,当該胎児が無事に出生した場合は,唯一相続権を有する人となり,山城会長の有していた莫大な資産をすべて相続することができるわけです。

 つまり,皐月は,本来何もアクションを起こさなければ次男と三男で半分ずつ相続されていた山城会長の遺産を,自分を長男の身代わりとして告訴させ(,しかも,チーム斑目を誘導してその真実を暴かせ)ることによって,すべて今後生まれてくるであろう自分の息子に相続させる構図を作ることに成功したのです。

 その結果が,皐月の不敵な笑みだったというわけです。

 

●最後に残る疑問

 長男が会長を殺害した事実は動かしがたいと思われますから,民法第891条第2号は問題ないと思います(もちろん,公判では殺意の有無を争い傷害致死を主張するものと思われます。)。しかし,二男並びに三男及び三男の息子についてはどうでしょうか。

 皐月が留置施設から出ているということは第9話のラストシーン時点においては,犯人隠避には問われていないことを意味します(後日は分かりませんが)。皐月は犯人隠避の首謀者ですから,皐月の罪を問わないのであれば他の山城家の者らに対する罪も問われることはないでしょう。

 その場合,相続欠格事由に該当するのかどうかは微妙なところがあります。皐月が無事出産した際,血みどろの遺産相続争いが発生することは間違いないでしょう。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.03.14更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

先日平成28年3月11日,当職が監修した記事が,Webページにて紹介されました。

夫名義のマンションに居座る「義理の妹一家」...追い出すことはできない?【小町の法律相談】

以下,記事を引用いたします。

【以下,記事引用始め】

 「夫名義の家に住み着く義理の妹一家を追い出したい」という女性が、Yomiuri Onlineの「発言小町」に相談を寄せました。

 トピ主によると、義理の妹は駆け落ちして2児をもうけるも、夫の借金問題などで離婚(現在は再婚して新しい家族あり)。住むところがなくなり、当時独身だったトピ主の夫が購入した中古マンションに親子で住み着いたそうです。

 その後、夫はトピ主と結婚、子どももできました。トピ主いわく「(夫は)年上のため定年まであまりありません。収入はありますが、夫があまりお金に執着がなく使うほうなので、子どもの進学などがいまから心配です」。そこで将来的には、夫名義のマンションを売って換金することを考えており、義理の妹一家にはマンションを明け渡してほしいと希望しています。

 トピ主の相談に対して、レスには「婚前に買ったマンションは、ご主人だけのものです。どうしようとご主人の勝手。あなたにはあれこれ指図する権利はありません」と、トピ主が出る幕ではないという意見が並びました。

 トピ主は、義理の妹一家にマンションを明け渡してもらうことはできるのでしょうか。濵門俊也弁護士に話を聞きました。

(この質問は、発言小町に寄せられた投稿をもとに、大手小町編集部と弁護士ドットコムライフ編集部が再構成したものです。)

 

 A. 「明け渡してもらうことはできません」

 結論から申し上げますが、トピ主は現時点で、義理の妹一家にマンションを明け渡してもらうことはできません。

 トピ主の義妹一家は、トピ主の夫から無償でマンションの部屋を借りています。この状態を法律用語で説明すると、義妹は「使用借権」(無償で借りる権利)を有していることとなります。

 本件中古マンションは、トピ主の夫が独身時代に購入したということですから、トピ主の夫の「特有財産」です。特有財産とは、「婚姻前から片方が持っていた財産」と、「婚姻中であっても夫婦の協力とは無関係に取得した財産」のことです。

 特有財産は夫婦の共有財産ではなく、例えば、処分するかしないかといったことは、取得した人に決める権利があります。トピ主は、本件中古マンションに関しては「現時点においては」何の権利もなく、義妹一家に明け渡しを要求することはできません。ですからトピ主としては、夫を説得し、義妹一家を追い出してもらうほかありません。

 もっとも、先ほど「現時点においては」と断わりを入れたのは、相続のことを念頭に置いたからです。仮にトピ主の夫がトピ主よりも先に亡くなり、相続が発生した場合には、トピ主が本件中古マンションの所有権を取得できる可能性があります。

 そして相続後には、貸主として義妹一家に「解約」の申し入れをし、本件中古マンションの使用貸借契約を終了させることができます。しかし義妹一家が同意しない場合には、裁判に発展することもあり得ます。裁判では、使用期間の長短、ほかに住む場所があるかどうか、諸々の事情に基づいて判断されるでしょう。

 ちなみに、義妹が亡くなった場合には本件中古マンションの使用借権が消滅します(民法第599条)。なお、義妹の子どもや現在の夫は、使用借権を相続できません。

【以上,記事引用終わり】

 

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投稿者: 弁護士濵門俊也

2015.11.25更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士・濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 平成27年11月20日(金),遺言者が自筆証書である遺言書の文面全体に故意に斜線を引く行為が民法1024条前段所定の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当するかどうかが争われた事案において, 最高裁判所第二小法廷は,積極に解し,遺言を撤回したとみなすべきであるとの判断を下しました。

 第1審も第2審もともの消極に解していたため,係る争点に決着をつける判断となりました。実務上も非常に有益なものですから,以下,判決文を引用いたします。

 

【以下,引用始め】

 平成26年(受)第1458号遺言無効確認請求事件

 平成27年11月20日第二小法廷判決

   主   文

1 原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。

2 亡Aの作成に係る第1審判決別紙添付の昭和61年6月22日付け自筆証書による遺言が無効であることを確認する。

3 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

 

  理   由

 上告代理人今井光の上告受理申立て理由について

1 本件は,上告人と被上告人の父である亡Aが作成した昭和61年6月22日付け自筆証書(以下「本件遺言書」という。)による遺言(以下「本件遺言」という。)について,上告人が,Aが故意に本件遺言書を破棄したことにより本件遺言を撤回したものとみなされると主張して,被上告人に対し,本件遺言が無効であることの確認を求める事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

⑴ Aは,昭和61年6月22日,罫線が印刷された1枚の用紙に同人の遺産の大半を被上告人に相続させる内容の本件遺言の全文,日付及び氏名を自書し,氏名の末尾に同人の印を押して,本件遺言書を作成した。

⑵ Aは,平成14年5月に死亡した。その後,本件遺言書が発見されたが,その時点で,本件遺言書には,その文面全体の左上から右下にかけて赤色のボールペンで1本の斜線(以下「本件斜線」という。)が引かれていた。本件斜線は,Aが故意に引いたものである。

3 原審は,上記事実関係の下において,本件斜線が引かれた後も本件遺言書の元の文字が判読できる状態である以上,本件遺言書に故意に本件斜線を引く行為は,民法1024条前段により遺言を撤回したものとみなされる「故意に遺言書を破棄したとき」には該当しないとして,上告人の請求を棄却すべきものとした。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 民法は,自筆証書である遺言書に改変等を加える行為について,それが遺言書中の加除その他の変更に当たる場合には,968条2項所定の厳格な方式を遵守したときに限って変更としての効力を認める一方で,それが遺言書の破棄に当たる場合には,遺言者がそれを故意に行ったときにその破棄した部分について遺言を撤回したものとみなすこととしている(1024条前段)。そして,前者は,遺言の効力を維持することを前提に遺言書の一部を変更する場合を想定した規定であるから,遺言書の一部を抹消した後にもなお元の文字が判読できる状態であれば,民法968条2項所定の方式を具備していない限り,抹消としての効力を否定するという判断もあり得よう。ところが,本件のように赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引く行為は,その行為の有する一般的な意味に照らして,その遺言書の全体を不要のものとし,そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当であるから,その行為の効力について,一部の抹消の場合と同様に判断することはできない。

 以上によれば,本件遺言書に故意に本件斜線を引く行為は,民法1024条前段所定の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当するというべきであり,これによりAは本件遺言を撤回したものとみなされることになる。したがって,本件遺言は,効力を有しない。

5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,上告人の請求は理由があるというべきであるから,第1審判決を取り消した上,その請求を認容することとする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 (裁判長裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 山本庸幸)

【以上,引用終わり】

投稿者: 弁護士濵門俊也

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