弁護士ブログ

2016.06.13更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 昨日(平成28年6月12日),日曜劇場『99.9-刑事専門弁護士』第9話(以下「第9話」といいます。)が放映されました。ミステリー好きの方であれば,第9話のトリックはよくご存じであったと思います。当職もドラマの中盤でトリックを確信しました。

 「相続人の欠格事由」や「代襲相続」など,一般の視聴者にとっては普段馴染みのない法律用語の理解が不可欠でしたので,一瞬面くらった方もおられたかもしれません。

 そこで,今回は,第9話のラストシーンについて解説してみます。

 

●第9話のあらすじ

 深山 (松本潤さん) は佐田 (香川照之さん) から指示を受け,彩乃 (榮倉奈々さん) らとともに,莫大な資産を有する山城鉄道の会長の自宅を訪ねます。するとそこには殺害された会長の遺体があり,それを取り囲む家族らがいました。状況を聞くと,三男の嫁で(妊娠中である)皐月 (国仲涼子) が殺人を犯した事実を自白したのです。犯行の動機は,脳梗塞を患った義父を懸命に介護したところ,満足してもらえないまま罵倒される日々が重なり,耐えられなくなったとのことでした。さらに事件当時,自宅で一緒に暮らしていた家族らも全員,皐月の犯行を認める供述をし,すぐに解決するかに見えました。

 しかし,深山は持ち前の観察眼で,ある違和感を嗅ぎ取ります。家族らの証言を検証していくと,それはまるで「無理につじつまを合わせたかのように一致」していたのです。その点を突破口として,チーム斑目は,実は長男が会長を殺していたという事実を家族ぐるみで隠していたという事実を暴き出すことに成功します。

 これで一件落着かと思いきや,最後,皐月を斑目法律事務所に呼び出した深山が,佐田と彩乃の同席のもと,次のように語り出します。

 深山:「あなたは,罪を被る振りをして,僕たちが真相に辿りつくのを,赤ワインの話をわざわざ出して,巧みに誘導したんですね。すべては,山城会長の遺産を手に入れるため。皐月さんには相続権はない。相続権があるのは,3人の兄弟と,敬二さんの息子の良典さん。でも,長男の功一さんは,殺人を犯し,相続権はなくなるでしょう。そして敬二さんも,隆三さんも,良典さんも,犯人を隠匿(注:構成要件的には「隠避」です。)しているため,同じく相続権は失うことになるでしょう。でも,たった一人だけ,遺産を相続できる人がいるんです。」

 彩乃:「お腹の中の赤ちゃん…」

 佐田:「代襲相続かー!!」

 彩乃:「民法886条,胎児は,相続については,生まれているものとみなす。」

 佐田:「皐月さんあなた,家族全員の遺産の相続権をなくすために…。」

 深山:「あなたは,自分が罪を被ると言って,彼らの相続権をなくした。そして,山城会長が持っていたすべての財産を,自分の子供に行くようにした。」

 

●家族関係・事実関係の整理と法律解説

 まず,解説にあたり,家族関係を整理してみます。

 殺された山城会長には,次の7人の家族がいました。

 まずは,長男の功一とその妻の育江。

  次に,二男の敬二とその妻の昌子,それから2人の息子(会長の孫)の良典の3人。

 最後に,三男の隆三と,その妻であり今回犯行を自供した皐月の2人。 

 

 第9話の設定では会長は遺言を遺していなかったようです。また,会長は会長の子らの妻とは養子縁組をしていなかったようです。その前提で解説します。

 上記7人の中で,山城会長の相続権を有する者(「法定相続人」といいます。)は,会長の子である長男の功一,二男の敬二,三男の隆三の3人です。なお,次男の息子(会長からすると孫に当たります。)である良典は,次男の敬二が相続権を有している限り,相続権を有しません。

 

 しかし,第9話では,長男の功一が被相続人である山城会長を殺しているため,相続欠格事由に該当し,刑が確定しますといずれ相続権を失うことになると考えられます(ちなみに,功一に殺意がなく傷害致死と認定されますと,欠格事由には該当しません。本件では難しいでしょうが公判では争うでしょう。)。根拠は,民法第891条第1号です。

【参照条文】

民法第891条 次に掲げる者は,相続人となることができない。
 第1号 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ,又は至らせようとしたために,刑に処せられた者 

 

 よって,皐月が何らアクションを起こさなければ,二男の敬二と三男の隆三がそれぞれ2分の1ずつ会長の遺産を相続することとなるはずでした。

 しかし,今回,皐月が山城家の皆に自分が犯人として長男の身代わりになることを提案し,二男の敬二と三男の隆三はそれに応じて皐月を犯人として申告しているため,こちらも欠格事由に該当する可能性があり,相続権を失うこともあり得ると考えられます(少なくとも第9話の制作者はそう考えているようです。)。根拠は民法第891条第2号です。

【参照条文】

民法第891条 次に掲げる者は,相続人となることができない。
 第2号 被相続人の殺害されたことを知って,これを告発せず,又は告訴しなかった者。ただし,その者に是非の弁別がないとき,又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは,この限りでない。

 

 二男及び三男は,長男の功一が犯人であることを知ったうえで,別の者(皐月)を犯人として申告しているため,同様に欠格事由に当たる可能性はあります。

 ここで,二男の敬二が相続権を失うことにより,敬二の息子である良典が敬二の代わりに相続をする可能性が生じます。このように,欠格事由に該当することなど事由によって相続権を失った者に子がいる場合,その子が親に代わって相続をすることができます。これを「代襲相続」といいます。根拠は,民法第887条第2項です。

【参照条文】

民法第887条第2項 被相続人の子が,相続の開始以前に死亡したとき,又は第891条の規定に該当し,若しくは廃除によって,その相続権を失ったときは,その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし,被相続人の直系卑属でない者は,この限りでない。

 

 もっとも,第9話において,二男の息子の良典は,二男や三男と同様に長男の功一が犯人であることを知ったうえで別の者(皐月)を犯人として申告しているため,二男や三男が欠格事由に該当するとされるのであれば,同様に代襲相続権を失う可能性があります。その場合には,結局遺産を相続することができません。

 以上より,上記7人はすべて会長の遺産の相続権を有しない可能性があることとなります。

 

●ここからが第9話のミソ

 そうすると,皐月の不敵な笑いは何だったのかという疑問にぶち当たります。そこで,彩乃の発言にあった「民法第886条」を思い出してみましょう。

【参照条文】

民法第886条第1項 胎児は,相続については,既に生まれたものとみなす。

 

 胎児は法律的には「人」ではなく基本的に民法上の権利を有しません。ただし,生命としては存在しているわけですから,母体から出てくるのが早いか遅いかの違いだけで相続権を有するか有しないかの差を生じさせることは不合理であるといえます。そこで,相続については例外的に上記規定が置かれています。

 民法第886条第1項の規定に基づき,皐月が懐胎している胎児は,出生の際,相続時に遡って権利義務を有することになります。

 上述したとおり,山城家の人間らはいずれも相続欠格事由があるものとすれば,当該胎児が無事に出生した場合は,唯一相続権を有する人となり,山城会長の有していた莫大な資産をすべて相続することができるわけです。

 つまり,皐月は,本来何もアクションを起こさなければ次男と三男で半分ずつ相続されていた山城会長の遺産を,自分を長男の身代わりとして告訴させ(,しかも,チーム斑目を誘導してその真実を暴かせ)ることによって,すべて今後生まれてくるであろう自分の息子に相続させる構図を作ることに成功したのです。

 その結果が,皐月の不敵な笑みだったというわけです。

 

●最後に残る疑問

 長男が会長を殺害した事実は動かしがたいと思われますから,民法第891条第2号は問題ないと思います(もちろん,公判では殺意の有無を争い傷害致死を主張するものと思われます。)。しかし,二男並びに三男及び三男の息子についてはどうでしょうか。

 皐月が留置施設から出ているということは第9話のラストシーン時点においては,犯人隠避には問われていないことを意味します(後日は分かりませんが)。皐月は犯人隠避の首謀者ですから,皐月の罪を問わないのであれば他の山城家の者らに対する罪も問われることはないでしょう。

 その場合,相続欠格事由に該当するのかどうかは微妙なところがあります。皐月が無事出産した際,血みどろの遺産相続争いが発生することは間違いないでしょう。

投稿者: 弁護士濵門俊也

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