弁護士ブログ

2017.07.25更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。


平成29年6月16日,性犯罪を厳罰化することを含む等の刑法改正案が参議院で可決・成立し,7月13日から施行されました。
性犯罪に関する刑法の改正はしばしばされていたのですが,今回のような大幅な改正は,明治40年(1907年)に刑法が制定されて以来,実に110年ぶりなのです。
性犯罪は被害者の人格を踏みにじる「魂の殺人」ともいわれる深刻な人権侵害行為であり,とりわけ女性に対する性犯罪は「女性に対する暴力の一つ」として,女性に対する暴力撤廃宣言(1993年12月,第48回国連総会で採択された宣言)などの国際文書で,根絶に向けた各国の努力が要請されてきました。
ところが,わが国では性犯罪が軽く扱われる傾向にあり,性犯罪に対するわが国の取り組みは著しく遅れていたといえます。
こうした中,たくさんの性犯罪被害者は泣き寝入りを余儀なくされてきた歴史があります。
近年,こうした性犯罪被害者の方々が声をあげはじめ,法務大臣が見直しの検討を指示,法務省における有識者を交えた検討のすえ,法案が上程され,成立したのです。
そこで,今回はその改正法の概要を説明いたします。


■ 改正その1――男性への被害も処罰されることに
まず,強姦罪の名称が「強制性交等罪」に変更されました。
これまで強姦の被害者は女性に限定されていたのですが,「強制性交等罪」の被害者には男性も含まれることとなりました。
これに関連して,それまで男性器の膣への挿入に限定されていた強姦罪の構成要件的行為を「性交等」(膣性交,肛門性交,口淫性交)にも広げました。

とくに注目したいのは,被害を男性に対する被害にも拡大したことです。
男性から男性,女性から男性に対する性犯罪・性虐待は,実際はこれまでもあったのですが,なかなか顕在化されませんでした。男性が被害者となること,被害者の保護や支援の必要性についても社会的な理解が十分であったとは到底いえませんでした。そのため,女性の被害者よりもさらに孤立した状況に置かれていました。 
当然ながら男性に対する性犯罪・性虐待も深刻な被害をもたらすものであり,強姦の客体に含まれないのは性による差別的取扱いともいえるべき問題を含んでいました。今回の改正により,男性に対する性交も処罰することとしたことは画期的といえます。処罰対象となる性交行為も拡大し,強制的な肛門性交,口淫性交も処罰対象に入れました。
もちろん,女性に対して,口淫性交を強要したようなケースも「強制性交等罪」に該当することとなり,女性の被害として処罰される範囲も広がりました。
同様に,飲酒や薬物の影響などで抵抗できない状況にある人に性行為等をする,いわゆる準強姦と言われた犯罪は,「準強制性交等罪」となり,処罰される行為も広がり,男性も対象となりました。
なお,これ以外に従来どおり,強制わいせつ罪は残っています。


■ 改正その2――刑の引上げ・厳罰化
つぎに,強姦罪改め,強制性交等罪の法定刑が引き上げられ厳罰化が図られました。
これまでは,強姦罪の法定刑の下限は「懲役3年」とされており(これでも引き上げられた経緯があります。),初犯の場合ですと実刑とはならず執行猶予が付くことがほとんど,という現状がありました。
しかし,加害者が執行猶予によって社会復帰を果たせるのに対し,被害者はPTSDや男性恐怖症,加害者への恐怖心に長く苦しむ例が少なくありません。被害者の視点からみれば,「魂の殺人」といっても過言ではないほど深刻な心の傷を被ることや被害の重大さに見合った刑罰とは到底いえません。実際,諸外国の例から見ても著しく軽いものでした。
そこで,今回の改正では,法定刑の下限を5年に引き上げる改正が実現したのです。
強制性交の過程でけがをしたり,死んでしまったという結果が出た場合は6年以上の刑となります。


■ 改正その3――「親告罪」規定の撤廃
第3は,「親告罪」規定の削除です。
これまで強姦罪等で起訴するためには被害者が「告訴」という手続をとることが必要でした(こうした犯罪を「親告罪」といいます)。
強姦罪等を親告罪とした趣旨は,性犯罪の被害者の意思とプライバシーを尊重するという点にありました。
しかし,「告訴」がない事例では犯罪の捜査が進みにくくなります(捜査機関もあまり熱心に取り組んでくれないこともままあります。)。
他方,一般人の被害者にとって「告訴状」等を準備して提出すること自体ハードルが高いことは,言うまでもありません(ちなみに,かつては,強姦罪等にも「告訴期間」があり,6か月間に告訴しないと,もう犯罪として立件してもらえないという法制度となっていました。平成12年改正によってようやくこれが撤廃されたのです。)。
そこで,強姦罪や強制わいせつ罪も,他の犯罪と同様に,「被害届」だけで捜査が進むことが求められてきたのです。
また,「告訴」が要件であることから,加害者側が「今告訴を取り消せば示談金を支払うが,告訴を取り消さなければ徹底して裁判で争う」などと強引に被害者にアプローチをして動揺させた結果,被害者が精神的に参ってしまい告訴を取り消してしまうような事例もあったようです。
このように,強姦罪等が「親告罪」であったことが,本来の趣旨とは裏腹に,性犯罪の不処罰につながる役割を果たす結果となってきた面があるのです。
そして,よく考えてみると,たとえ親告罪でなくなったとしても,被害者が協力しない場合に無理やり立件・起訴することはそもそも不可能なはずです。こうしたことを考えると,どうしても親告罪としなければならない理由はないと考えられます。 
こうした背景もあって親告罪とすることはしないこととなりました。親告罪の規定は強姦罪のほか,強制わいせつ罪などでも撤廃され,施行前に起きた事件にも原則適用していくこととなりました。


■ 改正その4――支配的な地位を利用した性行為は暴行・脅迫がなくても処罰する。
第4は,親などの「監護者」が,支配的な立場を利用して18歳未満の子どもと性交したり,わいせつ行為を行った場合,暴行や脅迫がなくても強姦罪等が成立する,とした点です。
強姦罪等の成立には,被害者の抵抗を著しく困難にする程度の暴行・脅迫が要件とされていますが,子どもに対する性的虐待のケースでは,その多くが,子どもに対する支配的な影響力を利用して,子どもが抵抗できないままに行われていることが多いのが実情です。
13歳未満に対する性交は必ず強姦とされますが,これまでは,13歳以上で親族等に暴行等をともなわずに性虐待された場合は強姦罪等に問われないこととなっていました。
しかし,それでは,多くの性虐待事例が強姦罪等に問われず,不処罰を許すことになってしまいます。
そこで,性虐待被害者の方々の意見を受けて,暴行・脅迫要件が撤廃されました。


■ 3年後の見直し――さらなる議論の深化を


今回の刑法改正では被害者の声も受けて3年後に規定の見直しがされることとなりました。暴行・脅迫要件を見直し,被害者の意に反する性行為を広く処罰していくことが国会できちんと議論されることが期待されています。 それと同時に,立法任せにせず,望まぬ性行為の被害をなくすために,社会的にも,とりわけ職場や学校でも議論が深められるとよいと思います。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2017.04.28更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。


他人の家の無線LANを勝手に使う「ただ乗り」を電波法違反の罪に問えるかどうかが争われた刑事裁判の判決において,東京地方裁判所は,平成29年4月27日,被告人が入手した無線LANの暗号化鍵(パスワード)について,電波法が無断使用を禁じる「無線通信の秘密」には該当せず,「ただ乗り」を無罪と判断しました。
無線LANの普及が急速に進む中,本件はただ乗りが検挙された初めてのケースであり,裁判所の判断に注目が集まっていました。
裁判所は,無線通信の秘密については「一般に知られていない通信の内容や存在」と定義し,そのうえで「暗号化鍵は通信の内容を知るための手段・方法にすぎない」としました。そして,「暗号化鍵が通信の内容を構成するとはいえず,他人の暗号化鍵を使っただけでは,罪にはならない」と結論付けました。

さらに,被告人は,ただ乗り無線LANを経由してフィッシングメールを送付しIDやパスワードを窃取して悪用していた行為に対し,ただ乗りに対する電波法違反に加え,不正アクセス禁止法違反,電子計算機使用詐欺罪に問われていました。判決においては,不正アクセス禁止法違反及び電子計算機使用詐欺罪については有罪とされた一方,電波法違反については無罪とされ,懲役8年(求刑懲役12年)が言い渡されたわけです。不正アクセス禁止法違反などについては異論はないと思われますが,電波法違反の無罪を意外と捉える人が多かったようで,ネット上でも疑問を呈する意見が多く見られます。

たしかに,暗号を解読して勝手に他人の家のネットワークに入り込んだにもかかわらず,そのこと自体は,「何らお咎めなし」というわけですから,何となく違和感があることは否めません。たとえば,もし合鍵を勝手に作って他人の家に入れば,たとえ家の中のものに何も手を付けずとも住居侵入罪に問われ得ます。これがネットワークなら許されるというのでは妙な話と思っても仕方ないでしょう。


●暗号通信を「復元」しなければ電波法違反に問うのは難しい


そもそも,無線LANの暗号鍵解読が違法かどうかについては,以前から論議がありました。

暗号鍵の解読について適用される可能性があるのは,電波法第109条の2です。

「暗号通信を傍受した者又は暗号通信を媒介する者であつて当該暗号通信を受信したものが,当該暗号通信の秘密を漏らし,又は窃用する目的で,その内容を復元したときは,一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」

ここでポイントとなるのは,「当該暗号通信の秘密を漏らし,又は窃用する目的で,その内容を復元」という部分です。もし暗号鍵を解読したうえ,そのアクセスポイントの持ち主など正規の使用者が行っていた暗号通信を傍受し,暗号鍵を使ってそれを復元して内容を他人に伝えたりすれば,上記条文に抵触することとなるでしょう。他人に伝えなくても,プライベートな情報を覗く目的だけであっても「窃用」といえると思われます。

しかし,単にただ乗りすることのみが目的であるとすれば,通信内容の解読は不要です。当然ながら,他人の通信を覗き見しなくてもアクセスポイントを経由してインターネットに接続するには何ら支障はありません。そもそも,暗号化方式がWEPにせよWPA/2にせよ,解読に必要なのは,ユーザーが実際に利用する情報ではなくシステム的なやり取りだけなのです。さらにWEPの場合なら何の暗号化もされていない部分の取得で解析できます。
すなわち,本件における被告人が,実際に通信を傍受して解読したと証明できなければ,無罪という判断も当然あり得るということとなります。


●法律は時代遅れ…。ただ,もはや喫緊の課題ではない。


暗号通信の秘密の漏洩・窃用を違法とした改正電波法が施行されたのは,平成16年のことです。その背景には,おそらくその数年前に話題となったコードレス電話の盗聴への対応であったと思われます(もちろん,時期的に無線LANも念頭に置かれていた可能性はあると思います)。しかし,コードレス電話の盗聴なら「通話内容を知る」という以外の目的はほぼないと思われますが,無線LANの場合は通信を傍受・復元して窃用すること以外の行為,例えば「通信内容に興味はなくただ接続する」という悪用もあり,このことは想定していなかったと思われます。
結局,本件は,法律が時代遅れであったために無罪とされたということとなります。ネット関連や新しい技術については法律が後追いになってしまうのはやむを得ないですが,無線LANについては長い間問題提起されていたのに放置されすぎていたという感は否めないところです。
もっとも,現在においてはもはや無線LANただ乗りへの対応自体が,さほど喫緊の課題という話ではなくなってしまったともいえます。といいますのは,無線のLANただ乗りは,要するに暗号化鍵を解析できるからこそ可能となるわけですが,現在販売されているほとんどの家庭用・法人用無線LAN機器は,デフォルトで解析が困難な設定となっているのです。WPA2 CCMPでパスワードが適切に設定されていれば,もはや解析はほぼ不可能といっていいという話もあります。

このまま判決が確定するのか上級審に持ち込まれるのかは現時点では不明です。
当職もユーザーの一人として,ただ乗りの被害に遭わず無線LANを安全に利用したいと思います。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2017.03.14更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

海老名駅の自由通路で市民団体が行った「マネキンフラッシュモブ」と呼ばれる表現活動に対し,海老名市が発令した市条例に基づく禁止命令は表現の自由を過剰に規制するもので違憲として,メンバーらが市を相手取り命令の取り消しを求めた訴訟の判決で,横浜地方裁判所(大久保正道裁判長)は平成29年3月8日,「命令は違法」として原告側の訴えを認めました。
 
■「条例の解釈適用を誤った」
 
判決によりますと,市民団体のメンバーらは昨年2月,「アベ政治を許さない」などのプラカードを掲げながらマネキンに扮して静止するパフォーマンスを自由通路上で実施したそうです。市はこうした行為を市海老名駅自由通路設置条例で禁じた集会やデモに該当すると判断し,同3月に参加者の1人だった市議会議員に対して禁止命令を出しました。
 
大久保裁判長は判決理由で,一連のパフォーマンスの時間や規模から,「多数の歩行者の安全で快適な往来に著しい支障を及ぼすとまでは認められない」と指摘しました。条例で規定された禁止行為に該当しないと認定したうえで,市の命令を「条例の解釈適用を誤った違法なもの」と判断しました。
 
市議会議員を除くメンバーが請求した今後の禁止命令の差止めに関しては,市側が訴訟で命令を出す予定がないと明らかにしたことから却下しました。
 

■条例の改廃の議論が高まるか?
 
上記判決は条例の違憲性や適用の違憲性までは判断していませんが,海老名市の禁止命令を違法とした判断は,市条例の恣意的運用に歯止めをかけ,政治的権力の濫用に警鐘を鳴らすものとして重要な意味をもつといえます。表現行為の規制は必要最小限度の極めて限定的なものでなければならないという日本国憲法上の大原則を再確認したともいえます。
 
上記判決は,マネキンに扮したパフォーマンスを市条例が禁じた「集会,デモ,座り込み」に当たるとした市の判断が誤りであったと判断しました。当該パフォーマンスは「相当時間にわたり相当部分占拠する様態ではない」「安全で快適な往来に著しい支障をきたすおそれが強い行為とまで認められない」ため,規制され得るものとはいえず,表現の自由を尊重した判断といえます。規制され得る行為か否かの判断に「相当時間にわたり相当部分占拠する様態」といった限定的な基準を示している点も評価できます。
 
道路交通法第77条第1項第4号の解釈をめぐって,駅前のビラまきは許可不要とした東京高判昭和41年2月28日を踏襲した判断ともいえ,市条例の運用に当たっては道路交通法を上回る規制は許されないことを示した格好です。市条例によるデモの禁止条項は不要かどうかについては議論のあるところですが,濫用の具体例の一つとして当該パフォーマンスが認定された以上,改廃の議論も高まる可能性があります。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.11.10更新

東京の明治神宮外苑で開かれたイベント「東京デザインウィーク」で11月6日、展示物が燃える火災があり、5歳の男児が死亡、父親ら2人がケガをした。報道によると、展示物は、木製のジャングルジムで、おがくずが絡みつくように装飾されており、電球でおがくずを照らしていたという。

このジャングルジムは、日本工業大学の建築学科の学生らが所属する「新建築デザイン建築会」が出展した。警視庁の調べに対して、制作に関わった大学生は「(ジャングルジムの)内部を照らすために白熱電球を点灯させていた」と話したという。

出火原因は今のところ明らかになっていないが、警視庁は11月7日、白熱電球の熱でおがくずが燃えた可能性があるとみて、業務上過失致死傷容疑で現場検証をおこなった。大学側とイベント主催側は謝罪をおこなったが、法的な責任の所在はどこにあるのだろうか。濵門俊也弁護士に聞いた。

●刑事責任だけでなく民事責任も問題になりえる

「まずは、被害に遭われました方々、とくにわずか5歳の尊き生命を奪われたご遺族の方々に対し、心よりお悔み申し上げます。

報道によりますと、今回の事件は、業務上過失致死傷の被疑事実で現場検証されているようです。刑事責任の側面だけではなく、損害賠償請求という民事責任の側面も問題となりえます。

民事責任も刑事責任も、(1)法的責任を負う主体が負うべき注意義務の内容がどのようなものであるかを明らかにすることが前提となります。

そのうえで、注意義務違反があるというためには、(2)危険な結果の予見可能性があり、かつ危険な結果につき結果回避の可能性があったことが必要となります。

さらに、(3)義務違反と結果との間に相当因果関係があったことが必要となります。

以上を前提に、法的責任を負う主体について、検討してみます。なお、今回の事件の具体的事情がかならずしも明らかでありませんので、あくまでも可能性の話ということを断らせていただきます」

●学生たちの責任は?

「報道から得られる情報が、やや錯綜していますが、今回の作品には白熱球が使用されていたようです。

まず、そもそも学生たちには、可燃性の高いおがくずが電球の発する熱によって出火しないよう注意すべき義務があったといえます。しかし、学生たちは独自の判断で、LED電球から白熱球に変更したようです。白熱球はLED電球よりも周囲が高温になりやすいことがよく知られています。

当初はLED電球を使用することが決まっており、現場の判断で学生が白熱球を使用したとすれば、この熱によって、おがくずを照らせば出火するおそれがあります。おがくずから出火すれば、ジャングルジムは、可燃性の高いおがくずが絡みつくように飾られていたことから、火が容易に燃え広がり、その火がジャングルジムの内外にいる人々らの生命・身体・財産などに被害を生じさせる結果となることは十分に予見可能であったし、容易に回避できたはずです。

したがって、学生たちには注意義務違反が認められるといえます。

そして、学生たちの注意義務違反と被害との間に、相当因果関係が認められれば、学生たちは、民事上は損害賠償責任(民法709条、同710条)を、刑事上は業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)を問われえます」

●大学側と主催者の責任は?

「大学側は、学生がLED電球ではなく白熱球を使用していたことを認識していなかったなどとコメントしているようですが、仮にそうであったとしても、大学としては学生たちの行動について指揮監督すべき関係はあったはずです。したがって、管理監督責任を負う場合がありえます。

その場合、大学は、民事上は使用者責任としての損害賠償責任(民法715条1項)を問われえます。他方、刑事上は業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)を問われえますが、刑事上の管理監督過失は民事上のそれよりハードルは高いです。

主催者側も、観客の安全を確保すべき義務があると認められる場合もあるでしょう。この場合、民事上は主催者自身の責任としての損害賠償責任(民法709条、同710条)、または大学ないし学生たちに対する指揮監督関係が認められば、使用者責任(民法715条1項)を問われえることとなるでしょう。

ただし、刑事責任としては難しい点が多いです(明石市花火大会歩道橋事故事件参照)。

なお、刑事責任にはありませんが、民事責任においては、損害の公平な分担の見地から、過失相殺が認められています(民法722条2項)。被害者は5歳ということですので、ご本人に事理弁識能力はありませんが、ご両親などの被害者側の過失を考慮することはできます。

もし、主催者側で『事故等の一切の責任は一切負いません』などと告知していた場合でも、一般的には、合意の内容があいまいで、実際に発生した事故については免責の合意なしと認定される場合が多いと思います。場合によっては、公序良俗違反として無効とされることもあるでしょう」

投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.09.10更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 昨日平成28年9月9日,強姦致傷の被疑事実で逮捕・勾留されていた若手俳優・TYさん(以下「加害者とされた男性」といいます。)が不起訴処分(公訴を提起しないという終局処分です。)となり,群馬県警察前橋警察署から釈放されました。この件に関し,担当した弁護人弁護士が報道各社にFAXで事件についての声明を発表いたしました。
 当職もFAXの内容を拝見したのですが,何となく違和感を覚えました。また,FAXの内容のなかには,一般の方には馴染みにくい話も出ていましたので,今回は,当職の違和感と内容の解説を行ってみます。


●そもそもの違和感

 本件のような性的犯罪については,弁護士は加害者側も被害者側も代理人や弁護人として活動します。また,被害者にはセカンドレイプ等に遭わないような配慮をするのが通常です。担当弁護人は,加害者とされた男性が名誉回復し,できるだけ早期に社会復帰できる環境を整える意図があったのかもしれませんが,少なくとも当職は,被害者とされた女性のことを思うと,コメントはしないという選択をいたします(異論はあると思いますが)。

 加害者とされた男性が不起訴処分及び釈放とされた最大のポイントは,被害者とされた女性との間に示談が成立したことです。ただ,示談が成立したということは,被疑事実を認めた(自白した)ことを前提とするのが通常なのですが(少なくともこれまでのニュース報道では自白していたはずです。),その後で,「仮に,起訴されて裁判になっていれば,無罪主張をしたと思われた事件であります。」と主張するのはあまりありません。
 そもそも,捜査段階において,捜査機関には事実認定権はありません。担当弁護人も「私どもは(加害者とされた男性)の話は繰り返し聞いていますが,他の関係者の話を聞くことはできませんでしたので,事実関係を解明することはできておりません」と述べていますが,事実認定はあくまでも起訴後裁判所が行うものなのです。
 とくに問題であると思うのは,本件のような事案であれば,事案の性質上,被害者とされた側からの反論可能性はなく,加害者とされた男性側からの一方的な発表となってしまうという点です。といいますのは,不起訴処分にした検察側から事実関係が語られることはまずあり得ませんし(おそらく「察してくれ」という程度でしょう。),被害者とされた女性も沈黙することが明らかである(セカンドレイプの問題もあります。)からです。そもそも,被害者とされた女性がコメントを発表することに対し承諾していたのか,知っていたのかも分かりません。もし,被害者とされた側からの反論可能性がないことを踏まえたうえで,FAXによる説明を行ったとすれば,担当弁護人は相当な戦略家といえます(担当弁護人は「無罪請負人」で知られる著名な弁護士事務所の所属弁護士でありますから,十分考えられます。)。


●事実関係に関するコメント
 

 担当弁護人は,不起訴処分及び釈放に至ったのは,示談成立が考慮されたのが事実としながら,「悪質性が低いとか,犯罪の成立が疑わしいなどの事情ない限り,起訴は免れません。お金を払えば勘弁してもらえるなどという簡単なものではありません」と述べています。本件のような性的犯罪に対しては,捜査機関もかなり厳しい対応をとるのが一般的なので,そのこと自体に異論はありません。ただ,FAXの文脈からは,本件は悪質性が低く,犯罪の成立も疑わしく,(示談で支払った)お金のせいでもないと主張しているのと同義ではないかとの疑念が出てきます。ニュース報道で知る情報でしかありませんが,加害者とされた男性は被疑事実を認めていたといいます。被害者とされた女性はこのFAXをどのような感情で読んだのでしょうか。心中察するに余りあります(声明を発表することも含めたうえでの示談かもしれませんが)。

 また,担当弁護人は,「知り得た事実関係に照らせば,加害者とされる男性の方では(姦淫行為に対し)合意があるものと思っていた可能性が高く,少なくとも,逮捕時報道にあるような,電話で『部屋に歯ブラシを持ってきて』と呼びつけていきなり引きずり込んだ,などという事実はなかったと考えております。つまり,先ほど述べたような,違法性の顕著な悪質な事件ではなかったし,仮に,起訴されて裁判になっていれば,無罪主張をしたと思われた事件であります。以上のこともあり,不起訴という結論に至ったと考えております。」と述べています。
 これはあくまでも加害者とされた男性側の主張にすぎません。実際の裁判においては,客観的証拠に加え,加害者とされた男性の「合意があると思っていた」認識と,被害者とされた女性の供述(証言)を突き合わせたうえで,「事実」を認定します。「裁判になっていれば無罪主張をしたと思われた」というのですが,捜査段階において,加害者とされた男性は犯罪事実に関する供述調書を一通も署名・指印していないのでしょうか。この箇所は少ししゃべりすぎの印象を受けます。

 一般の方が理解しにくい部分は,「一般論として,当初は,同意のもとに性行為が始まっても,強姦になる場合があります。すなわち,途中で,女性の方が拒否した場合に,その後の態様によっては強姦罪になる場合もあります。このような場合には,男性の方に,女性の拒否の意思が伝わったかどうかという問題があります。伝わっていなければ,故意がないので犯罪にはなりません。」とのコメントではないでしょうか。
 この箇所は,刑法を学習していないとなかなか腑に落ちないと思います。ここで,担当弁護人が言いたいのは,つぎのとおりです。

 まず,女性が拒否するということは姦淫行為に対して承諾を与えていないということです。そうすると,無理やり姦淫行為に及んだこととなり,客観的には強姦罪の構成要件に該当することとなります。ただ,男性の方は,女性は姦淫行為に対して承諾していると勘違い(錯誤に陥っているといいます。)しているため,そもそも悪いこと(強姦という犯罪行為)をしているという意思がないこととなります。すなわち,主観的に男性には強姦罪という犯罪を行う意思(故意)がないこととされます。よって,強姦罪の構成要件に該当せず犯罪が成立しないこととされるのです。担当弁護人はこのことを述べているのです(いわゆる「和姦」の主張です。)。
 まぁ一般論としての理屈はそうなのですが,実際の裁判において和姦の主張が通ることはめったにありません(当職もほとんど負けています。)。

 

●被害者とされた女性に関するコメント


 冒頭でも述べましたとおり,当職であれば,コメントは発しません。今後,報道が過熱すれば,被害者とされた女性は探られたくない腹を探られる思いになることは必至です。
 被害者とされた女性の側からすれば,とくにこれだけ注目され,報道されている事件に関して,長い裁判に付き合い,そして闘っていくことは,心身ともに疲弊することとなるでしょう。また時間も労力も多大な犠牲を要求されます。
 示談の経緯については,当職はコメントできる立場ではありませんが,たとえ加害者とされた男性を許していなかったとしても,示談を選択する事情は,心情として十分理解できますし,その選択もまた非難されるべきではないと思います。
 本件の事実関係は,一旦藪の中に消えました。今後明らかとなる機会がなくなったからです(もちろん,まったくなくなったわけではありません。)。ただ,被害者とされた女性には自分を責めることはしないでいただきたいと思います。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.06.02更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 千葉地方裁判所は本日(平成28年6月2日),覚せい剤取締法違反の罪に問われた女性の被告人(37)に対し,1日から始まった「刑の一部執行猶予制度」を適用しました。裁判所は,懲役2年の実刑とし,そのうち6か月については保護観察付き執行猶予2年とする判決(求刑3年)を言い渡しました。同制度の適用は全国初とみられます。

 上記判決主文によりますと,上記被告人は,1年半服役した時点で出所することとなり,その後2年間保護観察下で過ごすこととなります。この間に再び罪を犯さなければ刑務所収容されることはありません。

 ただ,上記被告人は,昨年3月にも,同罪で懲役2年6月・執行猶予4年の有罪判決を受けておりますので,今回の有罪判決により,前刑の執行猶予は取り消されます。上記被告人は本件で受けた上記1年半に加え2年半(合計4年)の間服役することとなります。

 上記被告人は少なくとも「前科2犯」ということとなりますが,実は「前科」という言葉は法律用語ではありません。また,「前科」は消えることがあります。そこで,今回は「前科」について解説いたします。

 

●「犯罪人名簿」と「刑の消滅」

 前述のとおり「前科」という言葉は法律用語ではなく,いろいろな意味で使われています。一般的には,とくに懲役刑を受けて刑務所に収容された者といった意味で使われることが多いようです。法律的には有罪判決を受けたという事実が,選挙資格や医師・弁護士などの職業制限,あるいは叙勲の対象者から除外するという意味で重要になってきます。

 そのため,(交通違反を除く)罰金刑以上の刑罰が確定した者について,その戸籍を管理する市区町村に「犯罪人名簿」が置かれており,検察庁からの通知にもとづいて,有罪判決や科刑の記録が「前科」として登録されています(これが一般の人の目に触れることはありません。)。

 ただ,刑罰を受けたという事実は,公私さまざまな場面で不利益な事実として影響します。不必要に社会復帰の妨げになることは避けるべきですし,本人の更生のチャンスをつぶさないことが,結果的に社会にとってプラスとなります。

 そこで,刑法には「刑の消滅」という規定があります(刑法34条の2)。具体的には,懲役や禁錮の刑で刑務所に行ったときはその後10年,罰金刑であれば5年の聞に再び罰金刑や懲役刑を科されなければ,法律上,刑を受けたことがないものとして取り扱われることとなっています。この場合,「犯罪人名簿」から削除されて,前科がリセットされるわけです(ただ,処罰によって失った資格は元に戻りません。)。

 また,いわゆる実刑ではなく,執行猶予付きの判決を受けた人は,執行猶予の期間が無事に過ぎれば,その時点で法律上は刑の言渡しを受けた者として取り扱われないことになっています(刑法27条)。これも,一度犯した過ちを許し,更生を促すための制度です。

 

●消えた前科は履歴書に書く必要はない

 履歴書には「賞罰」について書く欄が設けられていることがあります。この「罰」は,「確定した有罪判決」という意味ですが,上述したとおり,懲役刑や禁錮刑はその執行を終えたときから10年(罰金刑の場合は5年)が経過すると刑が言い渡された事実が消えますので,有罪判決を受けたという事実を自ら積極的に書く必要はありません。

 ちなみに,かつて「懲戒解雇」を受けたとしても,それは「確定した有罪判決」ではありませんから,これも書く必要はありません。

 

●ただし,前科は消えるが犯歴は残る

 以上のように,「犯罪人名簿」に一度掲載されても,時間の経過とともに抹消されるわけですが,この制度とは別に「犯歴票」というものがあります。これは明治時代から作成されているもので,検察庁が管理しています。明治15年以来の前科者一人ひとりについての有罪及び科刑の状況が逐一記録されています。これはもっぱら刑事裁判や検察事務の適正な運営のための資料として利用されるものであり,これが一般的な前科照会に使われることはありません。

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■初めて弁護士に相談される方へ

投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.05.18更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 本日,弁護士ドットコムニュースに当職が監修した記事が掲載されました。

 舛添知事の名前をかたって「本やCD」を勝手に送りつけ、犯罪ではないのか?

 以下,記事を引用しておきます。

 

【以下,引用始め】

政治資金の私的流用疑惑に批判が集まる舛添要一東京都知事だが、その名前をかたって、ネット上でシューマイや書籍などを発注される被害にあっていた。

報道によれば、シューマイ店には980円の品物50点分が都知事の名前で注文され、店側の問い合わせで発覚した。また、都庁に舛添氏が発注とされる「本、CD、DVD」と書かれた箱が届いたが、箱ごと返還したそうだ。

こうした「勝手な送りつけ」は、どのような罪に問われるのだろうか。また、もし身に覚えがない商品を送りつけられた場合、どのような対応をすれば良いのだろうか。濵門俊也弁護士に聞いた。

●「偽計業務妨害罪」に問われ得る

ネット上では、「本当になりすましなのか」「また政治資金として処理するつもりではないのか」などと皮肉った意見もありました。しかし、ひねくれず素直に事案を検討してみましょう(「ひにくった」と「ひねくれた」をかけたダジャレです)。

まず、勝手に送りつける行為は、軽犯罪法第1条第31号の「業務妨害の罪」が考えられます。しかし、想定されるのは、それほど悪意のない一時的なたわむれや、いたずらで業務を妨害する行為です。

今回のように、都庁職員が対応に追われ業務執行が一時停止し、店側としても無用な配達を強いられ、代金ももらえないなどの被害がある場合は、一時的なたわむれとはいえないでしょう。

そこで、本件の行為は、「偽計業務妨害罪」(刑法第233条)に問われ得ることとなります(【参照条文】刑法第233条(信用毀損及び業務妨害)「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」)。

「偽計」とは、人をあざむき、誘惑し、あるいは他人の錯誤や不知を利用する違法な行為です。

今回の事件でいえば、被疑者がインターネットでウソの注文という「偽計」を用いて、シューマイや書籍などを配送させたことで、店側の通常の業務を妨害した罪ということになります。また、無用な事務の処理に追われた都庁職員らの業務(公務)まで妨害したこととなります。

嫌がらせにしろ、いたずらにしろ、ウソの注文などはしてはいけません。かりに、ほんの出来心や義憤に駆られたものであったとしても、その行為、犯罪になるかもしれません。お気を付けください。

●身に覚えがない商品を送りつけられたら?

嫌がらせをされた都知事側は、注文していないので、シューマイや書籍などを受け取る必要はありませんし、代金を支払う義務もありません。そもそも、「売買契約」が成立していないので、受け取っただけでは契約は成立しませんし、代金の支払義務もありません。

かりに、商品を受け取ってしまった場合、「返品は認めません」とか、「返品しない場合は代金をいただきます」というようなことが書いてあったとしても法的には無効です。

ただし、この時点では商品は自分のものではありません。商品の封を開けて使用したり、必要ないからといって処分してしまうと、購入する意思があったとみなされるおそれがあるので注意が必要です。

ちなみに、「特定商取引法」には、商品の送付があった日から数えて14日間を過ぎれば、送り付けた業者は商品の返還を請求することができなくなると定められています。よって14日間を過ぎれば、商品は使用しても処分しても自由、ということになるのです。

とにかく、まずは注文した覚えのない商品は受け取らない、代金は支払わないことが大切です。

(弁護士ドットコムニュース)

【以上,引用終わり】

 

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投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.05.02更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 昨日平成28年5月1日,嵐・松本潤さん(以下「松潤」といいます。)の主演ドラマTBS日曜劇場「99.9-刑事専門弁護士-」(以下「99.9」といいます。)の第3話が放送されました。当職は,当事務所が所在する日本橋人形町でロケを行っている時に松潤を見たことがあるのですが,なかなかのハンサムガイでした。お顔も小さく,スタイルも良かったですね。

 「99.9」はフィクションとして,毎回楽しみに視聴しています。ただ,昨日の回では,1点見逃せないシーンがありました。それは,劇中では公判結審後1週間後に判決が下されていましたが,どうして判決までの間,保釈請求をしなかったのかという点です。被告人は余命いくばくもない母親に会いたがっておりましたし(そのために自白しようともしました。),弾劾証拠のおかげで無罪判決の可能性が高かったはずですから,保釈請求すれば,裁判所は保釈を認めてくれた可能性が高かったように思います(保釈保証金は十分用意できる設定だったはずです。)。母子が再会できるかどうかが「神のみぞ知る」では不十分な弁護活動であったと思います。

 

 ただ,今回のブログの本題はそこではありません。当職は,第3話のあるシーンに注目しました。

 それは,松潤演じる弁護士・深山大翔が居候している小料理屋「いとこんち」のシーンです。

 第3話の店のカウンターには「熊本大分応援募金箱」と書かれた募金箱が設置されていました。それ以外にも「いきなり団子」(熊本名物の郷土菓子です。)等熊本の名産品も多数置かれておりました。

 「99.9」のスタッフからの熊本地震で被災された熊本・大分のみんなに対するのエールであると思いました。粋な演出であったと思います。当職の生まれ育った熊本のために,細やかな気配りねぎらいをいただき,心より感謝し御礼申し上げます。

 

 地震発生当初は当職の身内に被災した者はいなかったのですが,時が過ぎるにつれ,少しずつ被害が拡大し,当職の身内にも被災した者が出てきたそうです。当職の実家にも一時避難してきたと親から聴きました。世間はGWの真っ只中ですが,心が休まる暇もないと思います。熊本人に越せない坂はありません。「田原坂」(「たばるざか」と読みます。西南戦争の激戦地です。)の魂です。一刻も早い復旧をご祈念申し上げます。

 

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投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.03.22更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 先日平成28年3月18日,当職が取材協力をさせていただいた記事が掲載されました。

 アンゴラ反政府勢力の指導者の遺族がゲーム会社を提訴 法的な問題は?

 

【以下,記事引用始め】

 アンゴラ反政府勢力「アンゴラ全面独立民族同盟 (UNITA)」の指導者、故ジョナス・サヴィンビ氏の遺族が、サヴィンビを「野蛮な人物として描いた」として、海外の人気ゲームソフト「コールオブデューティブラックオプス 2(COD:BO2)」の発売元であるフランスの会社を名誉毀損などで訴えました。こうした死者を描く際、法的に問題となるのでしょうか? 日本の法律に当てはめて考えてみましょう。

問題のゲームはどんな内容?

 COD:BO2は、冷戦時代(1980年代)と近未来(2025年)の二つの時代を舞台に、レアアースをめぐる各国の対立やサイバーテロに関するストーリーが展開される戦闘シミュレーションゲームです。主人公は架空の人物ですが、登場人物の一部には実在した人物も描かれています。その一人が今回取り上げるジョナス・サヴィンビです。彼は30年以上続いたアンゴラ内戦の当事者で、反政府組織の指導者として活動し、2002年に戦闘中に亡くなっています。

 報道によると、ゲーム上でサヴィンビは、武器を振り回して反乱軍を率い、「 (敵対する) アンゴラ解放人民運動に死を!!」と叫ぶ姿が描かれているそうです。遺族側の弁護士は、「UNITA の指導者は喜んで殺戮をする大マヌケな野蛮人として描かれている」として批判し、慰謝料を求めて提訴しました。

日本の法律に当てはめると?

 まず考えられるのが、今回の訴えにもありました名誉毀損罪です。刑法第230条第2項では「死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない」と定められています。つまり、死者にも名誉毀損罪は適用されるのです。名誉毀損とは、その人の社会的評価を低下させる事実を示す行為を指します。例えば「あの人は殺人者だ」というような噂を流し、これによって社会的評価が低下すると認められる場合は名誉を毀損することになります。

 では、なぜこのように「社会的評価の低下」を名誉毀損とするのでしょうか。東京新生法律事務所の浜門俊也弁護士は、保護法益の観点からだと指摘します。「死者の名誉毀損罪について、法律上何を保護するのかというと、『遺族の名誉』や『死者に対する遺族の敬愛の情』を保護するという見解もあります。しかし、通説は『死者個人の名誉』を保護すると解しています」と話し、死者のイメージ低下を防ぐことが目的だとしました。

 続けて、「死者の社会的評価の低下ですが、そのおそれ、つまり危険性があれば適用されます。一般的な感覚として低下に値するかどうかがポイントとなります(浜門弁護士)」と説明し、実際に社会的評価が下がったという事実まで求められていないことも付け加えました。

どんな場合に名誉毀損になる?

 このことから、死者への名誉毀損罪が成立するのは次のような場合になります。死者に対する嘘(虚偽)の情報(事実)を不特定多数に流布し、その死者のイメージ(社会的評価)を損なった場合、もしくは損なう危険性があった場合が、その嘘の情報を流した人を処罰することができるのです。また、「ある程度、その死者の社会的評価が定まってしまうと、その後に多少の新事実が分かっても評価は変わらない可能性が高い(浜門弁護士)」ので、社会的評価が固まっていない、亡くなって間もない方の虚偽の事実を流すことで、名誉毀損罪になることが多いようです。

歴史上の人物の場合はどうなる?

 これが歴史上の人物の場合だとどうなるのでしょうか?例えば、織田信長の子孫が、「ここまでひどい残虐性はなかった」などと、名誉毀損罪で訴えられるのでしょうか。浜門弁護士は、「いわゆる教科書に載っているような歴史上の人物であれば、本当にそういう性格だったのか、またはそのような行為をしていたかは今となっては分かりません。さらに、歴史上の人物であれば、既に社会的評価が定まっており、評価が下がることは考えにくいです」と名誉毀損罪に問うことは難しいとしました。

名誉毀損のほかにあり得るのは?

 名誉毀損罪以外では、何か法的責任に問われるのでしょうか?浜門弁護士は、民事上の責任として肖像権やパブリシティ権の侵害の可能性を挙げます。肖像権とは、自己の姿などをみだりに写真や絵画、彫刻などにされない権利です。また、パブリシティ権は、その人に備わっている、顧客吸引力を中核とする経済的な価値を保護する権利です。「広く人格権と言われているものです。それを侵害するような形での扱い方は駄目ですよね。亡くなったからと言って、直ちに権利がなくなるわけではありません。遺族が訴訟等の申し立てをすることはあり得ます(浜門弁護士)」と述べ、死者を勝手に描くことの危険性を指摘します。

 死者となれば人権はなくなりますが、だからといって、どのように死者を描いてもいいというわけではないようです。ゲームや小説などで実在の人物を描く場合は、いろいろと注意する点が多いようです。

(ライター・重野真)

【以下,引用終わり】

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投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.02.10更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 神奈川県川崎市の多摩川河川敷で昨年平成27年2月,当時中学1年生であった被害者の男子生徒(当時13歳)を仲間2人と共謀して殺害したとして,殺人罪などに問われたリーダー格の無職少年(19)=事件当時18歳=の裁判員裁判の判決で,横浜地方裁判所(近藤宏子裁判長)は10日午後3時30分,懲役9年以上13年以下を言い渡したとのニュース報道がありました。

 

 被告人の少年に対し,検察側は平成26年(2014年)の少年法改正で不定期刑の上限となった懲役10年以上15年以下を求刑していました(検察側は無期懲役を求刑しなかったのです。)。他方,弁護側は改正前の上限と同じ懲役5年以上10年以下を求めていました。結論としては,現行法のほぼ上限の不定期刑が下されましたので,本件の刑事責任の重さがうかがい知れます。

 不定期刑という言葉は,あまり聞きなれないかもしれません。少年法に規定されている不定期刑は,「相対的不定期刑」といわれるものです。「相対的不定期刑」とは,自由刑のうち,刑期の最短・最長を定めて刑を宣告するものです。実際の刑期は個々の事案に基づいて判断され,判決の時点では明確な期間は定められていません。不定期刑の一種で,対語に「絶対的不定期刑」がありますが,これは罪刑法定主義に反するとされています。

 相対的不定期刑は,日本では,「少年に科す刑罰」のひとつです。

 

 かくいう当職も先週から裁判員裁判を担当しており,今週金曜日午後に予定されている判決期日を残すのみとなっています。当職が裁判員裁判を担当するのは,今回が10件目であり,実に2年ぶりにやったのですが,やはりハードでした。連日法廷も準備もかなり神経を使いました。

 当職個人としては,弁護士しか弁護人を務めることができない刑事事件は好きなほうですが,弁護人としてのスキルがまだまだ足りないなと反省する日々です。

 

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投稿者: 弁護士濵門俊也

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