弁護士ブログ

2015.08.26更新

 こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 連日報道されている大阪府寝屋川市の中学1年生の男女生徒が遺体で見つかった事件において,死体遺棄の被疑事実で逮捕・勾留された45歳の被疑者男性が「黙秘」を続けているそうです。

 

 街頭インタビューやネット上では,被疑者男性が黙秘していることについて,批判する声が出ているようです。しかし,罪を犯したとされる被疑者に「黙秘権」が認められていること自体は,一般的に知られている事柄です。

 

 そこで,今回は,ある憲法学者の親と高校生の子との対話を通じて,「黙秘権」について考えてみましょう。

 

 

 子:犯人なんだから反省してきちんと話すべきだよ。黙っているのはおかしいじゃないか。

 

 親:ちょっと待って。「犯人として知っていることをきちんと話せ」というのは,その前提に間違いがあるよ。被疑者は,たとえ現行犯人であったとしても,本当に罪を犯したかどうかを確認する必要があるから取調べ等を受けるし,被告人は,罪を犯したかどうかを裁判所に判断してもらうために刑事裁判を受けるんだよ。

 つまり,判決が下されるまでは,真犯人かどうか分からないというのが法の建前さ。

 

 子:ふーん。なるほどね。じゃあなぜ,黙秘権が保障されるの?

 

 親:まず,日本国憲法は38条1項で「黙秘権」を保障しているね。それは,そもそも人間の内面に,国家権力が入り込んで強制的に調べることが許されないからなんだよ。自分の知っていることを話すかどうかはその人自身が決めるべきことであり,強制されるべきことではないはず。個人の幸福追求権(日本国憲法13条後段)から自己決定権が解釈上導かれるけど,その延長線上に黙秘権が位置づけられるのさ。

 

 子:でも,自分に不利にならないことを話す義務くらい負わせてもよくない?

 

 親:しかし,もし不利な事柄しか黙っていることはできないとしてしまうと,黙っているのは自分に不利だからじゃないのか,つまり犯人だからではないかと邪推されてしまうおそれがある。

 そこで,不利なことも有利なことも,一切黙っていることができるとしたのさ。

 

 子:だけど,真犯人じゃないなら,きちんと弁解するべきじゃないの?

 

 親:それだと,うまく弁解できない人は有罪になってしまわないかな。それでは,「疑わしきは罰する」ということになってしまう。

 たしかに,「罪を犯したかもしれない人」をすべて「削除」することが認められれば,社会の治安は維持できるかもしれないが,それでは無実の人が処罰されることになってしまうよね。これは,社会の治安のために無実の個人が犠牲になるということにほかならない。

 

 子:まさに漫画『デスノート』の世界だね。それだと,日本国憲法が一番大切にしている個人の尊厳(日本国憲法13条前段)を損なってしまうね。

 

 親:そのとおり。憲法は,社会や国のために個人が犠牲になることを認めない。あくまでも個人のために国があるのであって,けっして国のために個人があるわけではない。

 そこで,犯人かどうか疑わしいときには,無罪とすることとなっている。これを「無罪の推定」という。

 日本国憲法31条は,適正手続を保障している。黙秘権を基本的人権として保障し,有罪の主張立証責任を検察官に負わせることによって,国家権力による誤判を最小限にくい止めようとしているのさ。

 

 子:先の大戦の戦前・戦中は言論や思想が弾圧され,拷問なども行われたりして,多くの方が犠牲になったんだよね。

 

 親:よく勉強しているじゃないか。そうした過去の苦い経験に基づいて,現在の日本国憲法は,被疑者・被告人の人権保障を充実させたし(日本国憲法31条~39条),無罪判決を受けた人には刑事補償も認めている(同40条)。

 一たび公権力が暴走すれば,取返しがつかないほどの人権侵害となり得るおそれがある。だからこそ,私たちは,公権力に対して,しっかりと監視の眼を光らせておかなければならない。

 

 子:まさに不断の努力を惜しまないことが重要なんだね。よく分かったよ。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2015.08.24更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 先週末,大阪府高槻・柏原(かしわら)両市で,同府寝屋川市の中学生2人の遺体が見つかった事件で急展開がありました。13歳の女子中学生に対する死体遺棄罪の被疑事実で,45歳の被疑者が逮捕されたのです。おそらく本日付けで勾留請求されているものと思います。

 連日の報道によりますと,被害者となった中学生2人の姿は,防犯カメラに写っています。とくに,8月13日(木)午前1時から5時ころ,京阪本線寝屋川市駅近くの商店街を,2人とみられる男女が行ったり来たりする様子を見ますと,どうしてこの時大人が声をかけられなかったかなと悔やんでしまいます。

 

 今回の事件に限らず,年端もない「少年」(法律家なので,あえて「少年」といいます。当然ながら少女も含みます。)が深夜に出歩くことには大きな危険が伴うはずです。

 法令でも,少年の深夜徘徊を防ごうとしています。

 

 

●青少年保護育成条例における規制

 

 まず,各都道府県で定められている青少年健全育成条例では,18歳未満の青少年の深夜外出の制限について,ほぼ同内容の規定を設けています。

 

 具体的には,次のような内容です。

 ① 保護者は,正当な理由がある場合を除いて,深夜(午後11時から翌日午前4時まで)に青少年を外出させないように努める。

 

 ② 第三者は,保護者から頼まれたり,同意を得た場合,その他正当な理由がある場合を除いて,深夜に青少年を連れ出したり,同伴したりしてはならない。

 

 ③ 第三者は,深夜に外出している青少年に対し,その保護及び善導に努める。

 

 ④ カラオケボックスやマンガ喫茶などの事業者に対しても,青少年を深夜に入店せないようにする義務なども課しています。

 

 ①や③は努力義務ですから罰則はありませんが,②や④は30万円以下の罰金に処せられます。今回事件のあった大阪府も同様です。さらに,16歳未満の場合は,対象となる時間帯を「午後8時から翌日午前4時まで」とするなど,より厳しくしています。

 

 

●法律による規制

 

 風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)では,青少年のたまり場になりやすいゲームセンターなどについては,18歳未満の少年少女たちが午後10時以降に入店してはならない旨を店舗入口に表示する義務を課しています。

 また,実際に入店させた場合には,より厳しい罰則を設けるなどしています。

 

 

●「加害者が100%悪い」との思想の啓蒙を!

 

 角度を変えますが,少年が被害者となる事件を防ぐために,大人ができることはあります。その中には,「加害者が100%悪い」との思想を啓蒙することが重要であると思います。

 

 防犯教育は大切ですが,被害に遭ってしまった時には,子どもを責めないでください。

 子どもは被害者であり,子どもに非がないからです。加害者が100%悪いのです。

 

 親御さんの中には,お子さんに対し,「どうしてついて行ったの!」,「なぜ,そんな危ない道を通ったの!」といった叱り方をされている方もおられるのではないでしょうか。

 もちろん,親御さんに悪意はなく,むしろ子どもが心配だからこそ,ついその言葉が出るのでしょうが,子どもは逃げ場を失ってしまいます。

 また,インターネット等が普及している現代では,心ない世間の声で,「なぜ逃げなかったのか」などと責め立てられることもあるようにみえます。

 

 親は絶対に子どもらの味方になりましょう。地域や学校は,子どもらと家族を守ろうではありませんか。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2015.08.21更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 東京電力福島第一原発の事故をめぐり,検察審査会の議決で東電元幹部3人が「強制起訴」されることとなったことを受け,東京地裁は本日(8月21日),検察官役を務める「指定弁護士」として,石田省三郎,神山啓史,山内久光の3弁護士を指定したと発表しました。

 石田弁護士は,ロッキード事件,リクルート事件で弁護人を務められたほか,東電女性社員殺害事件で,再審無罪となった元被告の弁護も担当されました。大阪地検特捜部の証拠改ざん事件を受けた法相の諮問機関「検察の在り方検討会議」では委員を務められました。

 神山弁護士も東電女性社員殺害事件を担当されています。山内弁護士は,原発事故をめぐって起訴議決をした2度目の審査で審査補助員を務められました。いずれの先生も当職の大先輩です。

 上記「強制起訴」という言葉は,実は法令上の概念ではなく,マスコミの造語です。法令上は,検察審査会の起訴議決制度ともいうべきものです。

 そこで,今回は,検察審査会の起訴議決制度及び刑事事件に関するマスコミ用語について,解説します。

 

1 起訴議決制度とは?

 

 検察官が検察審査会により起訴を相当とする議決を受けた事件について,再度の不起訴処分をした場合に,検察審査会が起訴を相当と認めるときは,起訴議決をする制度のこと(起訴独占主義の例外)であり,平成21年5月21日に施行された刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成16年法律第62号)により導入されました。

 

 起訴議決は次のような過程を経て行われます。

 

 ① 検察審査会が起訴を相当とする議決を下す。

 ② 検察官による再捜査が行われ,起訴するかどうかを決める。ここで起訴した場合は通常の「起訴」となる。

 ③ 検察官による再捜査でも起訴相当と判断されなかった場合,検察審査会は,審査補助員を委託して法律に関する専門的な知見をも踏まえつつ,その再度の不起訴処分の審査を行う(検察審査会法第41条の2,第41条の4)。

 ④ あらかじめ,検察官に対し,検察審査会議に出席して意見を述べる機会を与えたうえで,起訴を相当と認めるときは,起訴議決をする(同法41の6第1項,第2項)。

 ⑤ 起訴議決がされた場合には,裁判所が起訴議決に係る事件について公訴提起及びその維持に当たる者を弁護士の中から指定し(同法41条の9第1項),指定弁護士が速やかに起訴議決に係る事件について公訴を提起しなければならない(同法41条の10)。

 

 マスコミは,⑤の「公訴を提起しなければならない」という点をとらえて「強制起訴」という用語を造ったのでしょう。

 

2 マスコミ用語の解説

 

 「強制起訴」に代表されるように,マスコミは読者や視聴者に分かりやすく伝えるために,いろいろな用語を作っています。以下,それらのうち,刑事事件に関する用語を解説します。

 

 ① 容疑者

 法律用語では「被疑者」です。最近の刑事ドラマ等には,「被疑者」との表現が用いられていますので,馴染みがあるかもしれません。ある見解によりますと,「被疑者(ひぎしゃ)」という音の響きが,「被害者(ひがいしゃ)」と聞き間違えやすいため,「容疑者(ようぎしゃ)」と呼んでいるそうです。

 

 ② 被告

 法律用語では「被告人」です(民事では「被告」といいます。)。かつては,何らの呼称もなかったところ(単に呼び捨てていました。),人権意識の高まりもあり,刑事被告人の呼称として「被告」と呼ぶようになりました。

 

 ③ 軽症,重症,重体

 法律用語にはありませんが,「軽症」=全治1か月未満,「重症」=全治1か月以上,「重体」=生命に関わる状態として使い分けをしているようです。

 

 ④ 「わいせつな行為」と「みだらな行為」(淫行)

 代表的な法文は次のとおりです。

 わいせつな行為:刑法176条前段「13歳以上の男女に対し,暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は,6月以上10年以下の懲役に処する。」

 みだらな行為:東京都青少年育成条例18条の6「何人も,青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行ってはならない。」

 淫行:児童福祉法34条1項6号「何人も次に掲げる行為(児童に淫行をさせる行為)をしてはならない。」

 

 「わいせつ」とは,最高裁判例では「徒に性欲を興奮又は刺激せしめ,且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反すること」と定義されています(ほとんど意味不明かもしれません。)他方,「みだらな行為」とは,具体的には性交を指します。

 よって,ニュース報道に接する際,「わいせつな行為」=性交なし,「みだらな行為」=性交あり,と判断していただければより分かりやすいでしょう。

 

 ⑤ 「下腹部」,「下半身」

 これまた法律用語ではありません。身体の部位を表しています。

 「下腹部」=陰部,「下半身」=お尻やふともも,をそれぞれ指すと考えておけばよろしいかと思います。 

投稿者: 弁護士濵門俊也

2015.08.19更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 先日も本ブログに書きましたが,東京都豊島区のJR池袋駅東口で8月16日,普通乗用自動車が歩道に突っ込み,歩行者5人が死傷した事故が発生しました。当初,自動車運転処罰法違反(過失運転致傷罪)の被疑事実で現行犯逮捕された53歳の医師が,「てんかん」の持病で定期的に通院していたことが判明しました。

 警視庁池袋警察署は,正常な運転に支障があるおそれを認識しながら運転した疑いがあるとして,昨日18日,被疑事実を自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷罪)に切り替えて東京地方検察庁へ送致しました。

 

 ニュース報道を見ながら,事故発生直後の目撃者証言を訝しく思っていた点もあり,被疑者が「てんかん」の持病をもっていたとの報道には合点がいきました。送検されましたが,おそらく検察官は本日付けで勾留請求するものと思われます(本件において,勾留請求が却下されることはないでしょう。)。

 今回は,危険運転致死傷罪について,説明をしてまいります。

 

1 危険運転致死傷罪の適用条件の困難さ等の問題点

 

 危険運転致死傷罪の構成要件は,運転行為のうち,とくに危険性の高いものに限定されているため,居眠り運転や単なる速度超過(20~30km/hオーバーで走る行為)などでは適用対象とはならなかったり,かりに起訴されたとしても,適用如何が裁判で争われることがありました。

 

 危険運転致死傷罪の構成要件が限定されている趣旨は,自動車を運転する大多数の国民が,誰もが犯しかねないわずかな不注意で,危険運転致死傷罪のような重大な処罰の対象となりかねないこととするのは適当ではないことに配慮した点にあります。

 たとえば,過労運転や持病を有する状態の運転は,事案によっては強い非難には値しなかったり,様々な要因の複合作用があることなどから,危険運転の要件から外されていました。また,無免許運転なども,実質的に危険なのは「運転技能を有していないこと」であり,「無免許であること自体」が危険なのではないことから,本罪の要件とはなっていなかったのです(なお,自動車運転処罰法施行により対象となりました。)。

 

 しかし,無免許運転や速度超過を行う悪質な運転者が,危険運転致死傷罪の適用を受けないなどの事案が相次ぎ,とくに被害者感情との軋轢を生む例が少なくありませんでした。立法当時から,無免許運転等が本罪の構成要件に当たらないことに対しては,一部の交通事故遺族から批判の声があったことも事実です。

 

 

2 自動車運転処罰法の制定

 

 そこで,上記のような適用条件の難しさを受け,法務省は,自動車運転過失致死傷罪と危険運転致死傷罪の中間罪を創設する法案を公表しました。

 これを受けて,平成25年11月20日,「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転処罰法)」が成立しました。

 自動車運転処罰法では,危険運転致死傷罪の適用対象が拡大されるとともに,「過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪」(最高刑は懲役12年です。)を新設し,逃げ得を防ぐ対策が行われています。さらに,無免許の場合は,罪を重くする規定も追加されています。

 自動車運転処罰法は,平成26年4月18日の政府決定により,同年5月20日より施行されました。また,同法の適用対象となる病気については,「統合失調症」,「低血糖症」,「躁鬱病」,「再発性失神」,「重度の睡眠障害」,「意識や運動の障害を伴うてんかん」の6種とすることが定められました。

 ちなみに,平成26年6月に施行された改正道路交通法では,,運転中に意識を失うおそれがある持病を隠して免許を取得・更新した場合は,「1年以下の懲役又は30万円以下の罰金」とする罰則が新設されました(本件においても,被疑者がこの罪に問われる可能性があります。)。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2015.08.17更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 昨日(8月16日)午後9時35分ころ,東京都豊島区東池袋のJR池袋駅近くで,暴走した乗用車が歩道に乗り上げ,店舗に突っ込み,歩行中の25~71歳の男女5人がはねられたとの衝撃的なニュースが報道されました。このうち板橋区成増在住の薬剤師の41歳の女性が頭を強く打ち,搬送先の病院で17日未明に死亡が確認されたとのことでした。また,4人が骨盤骨折などの重軽傷を負ったそうです。

 警視庁池袋警察署は,車を運転していた53歳の医師を自動車運転処罰法違反(過失運転致傷)の被疑事実で現行犯逮捕しました。今後は,過失運転致死傷被疑事件に切り替えて調べを進めるそうです。

 

 昔から刑法をご存じの方からすると,「過失運転致死傷罪って何?」,「業務上過失致死傷罪が成立するのではないのか?」などといった声が聞こえてきそうです。

 そこで,今回は,過失運転致死傷罪について,解説します。

 

1 従来の人身事故の取扱い

 

 自動車を運転中に注意を怠って,人を死傷させるという類型は,当初は刑法の業務上過失致死傷罪で処理されていました。その後,平成19年に刑法が改正され,過失犯の特別類型として,自動車運転過失致死傷罪が設けられました。

 

 

2 業務上過失致死傷罪と自動車運転過失致死傷罪の違いとは?

 

 業務上過失致死傷罪と自動車運転過失致死傷罪との違いは,法定刑の重さでした。

 すなわち,業務上過失致死傷罪の法定刑は,5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金であるのに対し,自動車運転過失致死傷罪は7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金とされており,自動車運転過失致死傷罪の方がより重い法定刑とされていたのです。

 

 

3 自動車運転処罰法とは?

 

 平成26年に「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」,通称自動車運転処罰法という法律が施行されました。この法律により,自動車を運転して人を死傷させた行為について,独立の罰条が定められました。それに伴い,刑法からは,自動車運転過失致死傷罪の条文が削除されました。

 そのため,現在では,自動車を運転する上で必要な注意を怠って,人を死傷させる行為は,刑法ではなく,自動車運転処罰法によって処理されることとなったのです。

 この法律の下における過失運転致死傷罪の法定刑は,平成19年の刑法改正と同じく,7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金とされています。

 

 

4 過失運転致死傷罪を犯した場合の逮捕・勾留の可能性

 

 上記事件では,被疑者が現行犯逮捕されました。今後,被疑者に逃亡や証拠隠滅のおそれがあり,なおかつ勾留の必要性がある場合には,勾留されることはあり得ます。

 ただ,被疑者が医師であること,薬物やアルコールによる影響ではないということですから,勾留されずに在宅で捜査されることもあります。その時は,捜査機関から呼び出されるのに応じて出頭することとなります。過失運転致死罪になったとしても,当職が受任した事案は,在宅の被疑者の方が多いです。

 そして,捜査が終結した時は,検察官により起訴するかどうかの判断がなされることとなります。本件は一人が亡くなられているばかりか,被害者も複数なため,公判請求は免れないかもしれません。起訴されるときは,在宅のまま起訴されるでしょう。

 

 

5 過失運転致死傷罪の処分

 

 過失運転致死傷罪で起訴されても,略式起訴により罰金を命じる略式命令(略式裁判)が下され,その罰金を納めるだけで済むことがあります。その場合は,法廷で裁判を受ける必要はありません。

 過失運転致死傷罪の罰金の相場があるのかという疑問があるかもしれませんが,過去の事案をみますと,示談の成否や生じた怪我の程度,また自動車の種類などが,罰金額の目安となっています。具体的には,生じた怪我が数週間程度であり,また示談もできていれば,罰金額は30万円~40万円前後となっています。他方,怪我が1か月を超えていたり,大型ないし貨物自動車での事故であったりしますと,罰金額は50万円以上となる傾向があります。

 ちなみに,過失運転致死傷罪には反則金の制度はありません。そのため,道路交通法違反事件と異なり,反則金を払って起訴を免れるということができないのです。

 

 それでは,公判請求された場合,過失運転致死傷罪の量刑相場はどのようなものとなるのでしょうか。

 

 ① 過失運転致死傷罪のみで起訴された場合

 過去の事案によれば,飲酒運転やスピード違反などの道路交通法違反がなく,過失運転致傷死罪のみで起訴されている場合は,懲役刑ではなく,禁錮刑が選択される場合が多いです。初犯であれば執行猶予付きの判決となることが多いです。

 

 ② 道路交通法違反の罪も加わる場合

 過失運転致傷だけでなく,飲酒運転やスピード違反などの道路交通法違反も併せて起訴されている場合には,禁錮刑ではなく懲役刑が科されています。初犯であれば執行猶予付きの判決となることが多いです。

 

 

6 過失運転致死傷罪の被害者対応

 

 過失運転致死傷罪を犯した場合,被害者への対応はどのようにすべきでしょうかとのご質問をいただくことがあります。 

 まず,被害者のお見舞いに行くべきかという点ですが,一般論としては,被害者側に拒まれない限り(上記事件のように亡くなられたケースでは,なかなか謝罪を拒まれる場合も多いです。その場合は無理をしなくてもよいと思います。),お見舞いを重ねるのがよいとされます。そして,然るべきタイミングを見計らって損害賠償や示談金の支払を申し出ることが多いです。

 被害者に支払う損害賠償金ですが,加害者側である被疑者か被害者かのどちらかが保険に加入されている場合には,損害賠償金は保険金から支払われます。ただし,保険会社から損害賠償が支払われている場合でも,慰謝料の意味を込めてお見舞金という形で示談金を支払うこともあります。

投稿者: 弁護士濵門俊也

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