弁護士ブログ

2017.06.30更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

ある衆議院議員が元秘書に対し,暴言を吐き・暴力を加えたとして,元秘書がその様子を秘密録音した媒体が,ある出版社に持ち込まれ公表されたため,当該議員の悪行が世間を賑わせるという現象が起きています。このような上司から受ける暴言や無視,陰口といった職場の上下関係を利用した嫌がらせ行為は「パワーハラスメント(通称:パワハラ)」と呼ばれ,社会問題となって久しいところです。

労働問題の相談を受けておりますと,実際にパワハラ・セクハラを受けている時の様子をボイスレコーダーで録音した媒体を持参される方も多くなってきました。

相談者は,その録音を「証拠」として用いたいと考えて録音したのですが,逆に上司から「違法録音だ」と言われないか心配される方もおられます。このような秘密録音する行為は「違法」なのでしょうか。また,秘密録音した音声は民事訴訟などで「証拠」として使えるのでしょうか。今回は秘密録音された証拠の証拠能力を解説します。

 

●パワハラ・セクハラの証拠集めは「犯罪」ではない

 

まず訴えたいのは,パワハラやセクハラの証拠として,加害者の声をボイスレコーダー等で秘密録音すること自体は,なんら犯罪行為に該当しないという点です。
また,秘密録音したことで,慰謝料等を支払わなければならない,ということもありません。
「プライバシーの侵害になるのではないか?」との懸念をされる方もおられるかもしれませんが,まず,録音場所は,自身の所属する職場です。また,録音した会話のうち,証拠として使うのは被害者のことを話している部分です。少なくとも,会話のその部分は,加害者のプライバシー権を侵害するとはいえません。

録音した音声データを,パワハラやセクハラを理由とする損害賠償請求訴訟において,証拠として用いることは問題ありません。ただし,もし採取された証拠が「著しく反社会的手段を用いて…人格権侵害を伴う方法によって採集されたもの」(東京高判昭和52年7月15日参照)であるとみなされれば,その証拠能力が否定され,事実認定に用いられない場合もあり得ます。

 

●セクハラ・パワハラの「秘密録音」は証拠となるか?

 

それでは証拠能力が否定される「著しく反社会的手段を用いて…人格権侵害を伴う方法」とは,いったいどのような方法でしょうか。

たとえば,録音ですと「秘密にしておくから」「録音はしていないから」と相手をだまして,秘密録音をしたような場合が当てはまりそうです。また,被害者ご自身以外の第三者と加害者とが会話している様子を秘密録音するような場合も当てはまる場合があると思います。
ただ,一概に証拠能力が否定されるということはいえず,ケースバイケースで問題となることは否めないのも事実です。

いずれにしても被害者ご自身がパワハラやセクハラの被害を受けている時,その証拠を集めるために,職場における会話を秘密録音する程度であれば,それを「著しく反社会的手段を用いて…人格権侵害を伴う方法」で採取したとはいえないと思います。

なかなか根絶できないパワハラ・セクハラですが,秘密録音等の方法によって,しっかりと証拠を集められれば,少なくとも「言った言わない」の話はなくなります。前述の元秘書のケースにおいて,「被害者が加害者を煽っている」「できすぎた証拠である」などと秘密録音を揶揄するような意見が一部にあるようですが,「いじめはいじめる方が100%悪い」わけですから,自信をもって堂々と振舞ってください。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2017.02.09更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

私事ですが,昨日(平成29年2月8日)放送されたテレビ朝日の番組『マツコ&有吉の怒り新党』に弁護士としてのコメントがオンエアされました。視聴していた方々からはご連絡をいただきました。

さて,当職らの事務を担当している事務職員が「●月▲日,有給を取りたいのですがよろしいでしょうか」とお願いしてきました。当職は「もちろん大丈夫よ」と回答しました。理由もとくに聴きません。
ところが,企業の中には,労働者が年次有給休暇を取ろうとする際,理由を述べさせるような企業もあるように聞きます。
そこで,今回は「年次有給休暇」について解説していきます。


●そもそも「年次有給休暇」って何?

 

使用者は,6か月以上継続して勤務し,全労働日の8割以上出勤した労働者には,少なくとも10日間の有給休暇を与えなければなりません。年次有給休暇を取る権利は,法律上当然に生じるもので,労働者の請求や使用者の承諾によって生じるものではありません(林野庁白石営林署事件・最判昭和48年3月2日民集27巻2号191頁)。
年次有給休暇を付与しなければならない日数は,勤務年数に応じて,最高20日まで加算されます。労働基準法は,あくまでも最低の基準を定めたものですから,これを上回る日数の年次有給休暇を与えることは,もちろん構いません。
また,年次有給休暇を取得しても,その間の賃金は支払われます(有給休暇といわれる所以です。)。


●「年次有給休暇」は労働者の自由!


年次有給休暇をいつ取るか,また,それをどのように利用するかは,労働者の自由です。会社は,休暇の理由によって,休暇を与えたり与えなかったりすることはできません(前掲林野庁白石営林署事件)。
ただし,例えば,一度に多数の労働者が同じ時期に休暇を取るなどすれば,事業の正常な運営が妨げられることも考えられます。そこで,事業に支障が出るときに限り,使用者は,年次有給休暇を他の日に振り替えることができます(これを「時季変更権」といいます。)。
ただ,そうは言っても,使用者が休暇取得日を一方的に指定できるということではありません。単にボールが労働者に投げ返されただけのことで,労働者があらためて休暇取得日を指定することになります。
事業に支障が出るときというのは,客観的にみて,そのときに休まれたら企業が正常に運営できないという具体的な事情があるときで,裁判例では,会社の規模,年次有給休暇を請求した人の職場での配置,その人の担当する作業の内容・性質,作業の繁閑,代わりの者を配置することの難易,同じ時季に休む人の人数等の様々な事情を総合的に考慮して,合理的に決定すべきであるとされています(東亜紡績事件・大阪地判昭和33年4月10日判時149号23頁,判タ80号91頁)。
また,最高裁判例によれば,労働者が指定した時季に休暇が取れるように状況に応じた配慮をする義務が使用者にはあるとされています(弘前電報電話局事件・最判昭和62年7月10日民集41巻5号1229頁ほか)。
したがって,ただ忙しいからというだけで,年次有給休暇の取得を拒否することはできません。


●使用者と労働者の対応如何?


年次有給休暇は,労働基準法により労働者の権利として守られています。使用者には,前述のとおり,時季変更権が認められてはいますが,「できるだけ労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすること」を使用者は求められており(前掲弘前電報電話局事件),実際には,変更権を行使できるケースは限定されています。この点を踏まえた上で,使用者とよく話し合い,理解を求めましょう。


●不利益取扱いの禁止


使用者が,年次有給休暇の取得を理由に,労働者に対して不利益な取扱いをすることは,労働基準法によって禁止されています。
ここでいう「不利益な取扱い」には,精皆勤手当や賞与の減額,欠勤扱いとすることによる不利な人事考課などのほか,年休の取得を抑制するようなすべての不利益な取扱いが含まれます(沼津交通事件・最二小判平成5年6月25日民集47巻6号4585頁など参照)。
なお,この事件では,タクシー運転手につき,年休取得日を皆勤手当の算定基礎である出勤日から除外する措置が問題となったのですが,月給に占める皆勤手当の割合が最大でも1.85%にとどまることなどから,年休取得を事実上抑止する力は大きなものではないとして,望ましくはないが,無効とまではいえないと判示されています。)。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.10.20更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 広告代理店最大手・D社の新入女性社員(当時24歳)が過労のため自死した問題に関連し,平成25年(2013年)に当時30歳で病死した同社本社(東京都港区)の男性社員についても,三田労働基準監督署が長時間労働が原因の過労死と認め,労災認定していたことが分かりました。
 D社は「社員が亡くなったことは事実。遺族の意向により,詳細は回答いたしかねます」とコメントしているそうです。
 先日14日(金)には,労働基準法に基づきD社本社等に立ち入り調査が行われたとの報道もありました。出退勤記録等を調査し,是正勧告や刑事告発も視野に実態解明を進める方針ということでした。
 「過労死」という言葉が生まれて久しいですが(不名誉なことに,過労死は「karōshi」として輸出されています。),最近では「ブラック企業」などという言葉もあり,なかなかなくなりません。
 今回は,従業員が過労死した場合の会社側の法的責任について見ていきます。


● 労働基準法の責任


① 労働時間規制

 労働基準法(以下「労基法」といいます。)によりますと,従業員を週40時間を超えて労働させるためには労働組合と労使協定でその旨を定め,労働局に届け出る必要があります(いわゆる「36協定」です。労基法32条,同36条)。もっとも,「36協定」を締結すれば無制限に時間外労働をさせることができるわけではなく,月45時間が限度となります。そして,決算期,納期の逼迫といった場合に時間延長できる特別条項を締結していた場合には例外的に限度時間を超過することができます。
 このような「36協定」の締結を行っていなかった場合,協定によって定めた限度時間を超過して労働させた場合は労基法32条乃至同36条違反となり,6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が課されることがあります(労基法119条)。


② 刑事責任

 労働基準監督署は,臨検や帳簿等の書類の提出を求めたり,尋問を行うことによって労基法違反の有無を調査することができ(労基法101条),違反が発見された場合には是正勧告を行います。もっとも,この是正勧告は一種の行政処分であり強制力はありません。
 しかし,これに従わなかった場合や,形だけの改善を行い是正報告する等,悪質で改善の傾向がみられない場合には,検察庁へ送致(書類送検)となり,刑事手続が執られることとなります。
 どのような場合に送検となるかの明確な基準はありませんが,東京労働局の発表によりますと,以下のような事例で送検されております。
 ① 貨物運送業において,「36協定」未届けのうえ,時間外労働が月127時間を超えていたもの
 ②「36協定」では月45時間を上限とし,特別条項として年6回,上限80時間の延長としていたところ,年6回の回数制限を超えて時間外労働をさせていたいもの
が挙げられております。①「36協定」を締結していないか,②締結されていても形骸化しており守られていないといった場合に送検される可能性があるといえるでしょう。


● 民事上の責任


 上記のように労基法上は「36協定」を締結し,特別条項を定めておけば,現行制度上では時間外労働の上限はありません。しかし,従業員が過労死した場合,会社は民事上の責任を負う場合があります。
 厚生労働省はどのような場合に過労死となるかの基準として,いわゆる「過労死ライン」を公表しております。それによりますと,
 ① うつ病発症前1~6ヶ月の期間にわたって時間外労働が45時間を超える場合は,その時間が長くなるほど業務との関連性が強まる
 ② 発症前1ヶ月の時間外労働が100時間,又は発症前2~6ヶ月の期間にわたって時間外労働が80時間を超える場合は関連性が強いと評価する
となっております。つまり時間外労働月100時間で過労死と認定されることになります。
 そして,判例上,企業は,従業員の労務管理を適切に行う安全配慮義務を負っているとされており(最判平成12年3月24日民集第54巻3号1155頁参照),民法上の損害賠償責任を負うこととなります。ちなみに,安全配慮義務は,雇用契約に付随する義務と解されています。


● コメント


 D社は,「36協定」により月の時間外労働時間の上限を70時間と定めておりました。しかし,実際には上限を超えた長時間労働が常態化していたのではないかとみられています。また,従業員には,時間外労働時間を過少申告するように指導しており,「36協定」が守られていないだけではなく,違反の隠蔽を指導していたともいわれており,より悪質な労基法違反と判断される可能性が高いといえます。
 そして,一つ強調しておきたいのは,上記労務管理に関する安全配慮義務違反による損害賠償責任を認めた平成12年最高裁判決の事例は,同じくD社における過労死による損害賠償請求の事案であったという点です。
当然のことですが,D社側は,当時再発防止に努めるとしていました。そうであったにも関わらず,今回の事件が起きてしまいました。これは,改善どころか,むしろ,より巧妙な隠蔽を行っていた悪質な事案ではないかと判断され,送検される可能性は高いと思います。当職の個人的な意見としては,「一罰百戒」の姿勢で臨んでもおかしくないと考えています。
 さらに,民事でも安全配慮義務違反として損害賠償責任を負う可能性が高いです。
 このように従業員が過労により自死してしまった場合,労働基準監督署からの行政処分だけでなく,刑事責任や民事責任も同時に生じる可能性があります(労基法は,単に労使間の関係を規律した法律ではなく,刑事罰も規定している結構恐ろしい法律です。)。
 事業主の皆さんにおかれましては,「36協定」を締結して労働局に届け出ているか,時間外労働の上限を定めているか,定めていたとして過労死ラインを超えていないか等を,今一度見直してみてはいかがでしょうか。

 

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投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.07.22更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 本日、ついに日本でも配信が始まったスマホゲーム「ポケモンGO(ゴー)」。先ほど裁判所から事務所に帰ったのですが、「ポケモンGO」をプレイしている人には会いませんでした。

 日本人の感覚としては、仕事中にゲームをするのはあまりほめられたことではありませんが、移動中などにプレーできる「ポケモンGO」で遊んでしまう人も少なからずでてくるかもしれません。こうした人たちは、もし会社にバレるとどうなるのでしょうか。クビにされても仕方ないのでしょうか。若干の解説をしてみます。

●懲戒処分の対象になる可能性

 仕事中にやっていることがバレたら、どんな処分を受ける可能性があるのでしょうか。

 企業が労働者に対して、「懲戒処分」を課すことができるのは、就業規則に懲戒事由を規定している場合に限ります。およそどんな企業の就業規則にも、「勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと」といった職務専念義務の規定があるでしょう。

 また、それとあわせて、職務専念義務に違反した場合、その程度に応じ、(1)けん責、(2)戒告、(3)減給、(4)停職、(5)免職などの処分を可能とする懲戒事由を定めているはずです。ちなみに、公務員の場合は、職務専念義務や懲戒事由が法律によって規定されています。

 仕事中に「ポケモンGO」をプレイしていた場合、その労働者の職務怠慢等の懲戒事由に該当する理由があることは明らかでしょう。ただし、企業としてうっかり重すぎる処分をしてしまうと、訴訟で問題とされた場合、処分が無効となることがあります。

 民間企業の懲戒処分は、「行為の性質及び態様その他の事情に照らして客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、法律上無効となってしまうのです。

 いわゆる「クビ」は、懲戒解雇処分のことですが、この処分は、いわば企業からの死刑判決といえます。行為の重大性や、企業秩序に対する深刻な悪影響を及ぼすなど、かなりの程度の「悪いこと」をした労働者に対してでないと、裁判で争われた場合,処分が無効となるおそれがあります。

 そういう観点でみますと、仕事中「ポケモンGO」にどれほど没頭していたかということで判断せざるを得ないです。職務遂行に「重大な支障が出た」といえ、懲戒解雇するに足りる「社会通念上の相当性」が認められるかが問題となります。そうすると、せいぜい、減給処分程度の処分になることが多いのではないでしょうか。

●移動中や休憩中でもダメか?

 それでは、移動中にプレイするのもダメなのでしょうか。

 通常の移動中であれば、事実上、業務は遂行できません。その時間を利用して、ゲームに興じたことが原因で特段、移動時間やトイレの時間が長くなったといえないような場合、職務専念義務に反したとまではいえないでしょう。

 他方、ゲームやりたさのあまり、必要がないにもかかわらず、あえて移動するとかした場合、本末転倒といえますから、職務専念義務に違反したといえます。

 ただ、その場合でも実際に、懲戒処分を下すまでに至る場合というのは、そうした頻度が高く、明らかに業務に支障をきたしていることが明白である場合や、一度注意しても改めようとしなかったような場合に限られると思われます」

 さすがに休憩中となれば問題ないのでしょうか。

 休憩中であれば、「休憩の自由利用」(労働基準法第34条第3項)という大原則があります。

 休憩中に「ポケモンGO」をプレイしてはならないとするのであれば、この「自由」という概念と競合することとなりますので、ここをクリアしなければいけません。結論としては、企業として無制限に禁止できないだろうと思います。

 なぜならば、この自由利用を制限できるのは企業に「合理的理由」があるときに限られるからです。裁判例上、休憩時間中に禁止できることとして、「ビラ配布」「政治活動」「飲酒」「会議室等の無断での使用」といったものがあります。

 いずれも企業秩序の維持に支障をきたすということがその理由です。

 実際には、たとえば、「無断で会議室などを占拠してゲームしている」というような場合、施設管理の観点から禁止することもできるかもしれません。

 しかし、「ポケモンGO」のように、主に社外でゲームをプレイする場合には、理由もなくなると考えられるので、禁止は難しいといえます。この場合、風紀が乱れるという主張をする企業経営者の方もおられるかもしれませんが、「どう風紀に影響したのかの根拠や証拠」が必要となるでしょう。ですから、あまり現実的ではないかもしれません。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2015.10.19更新

(前編からのつづき)

 

●最低賃金の適用される労働者の範囲

 地域別最低賃金は,産業や職種にかかわりなく,都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用されます(パートタイマー,アルバイト,臨時,嘱託などの雇用形態や呼称の如何を問わず,すべての労働者に適用されます。)。

 特定最低賃金は,特定地域内の特定の産業の基幹的労働者とその使用者に適用されます(18歳未満又は65歳以上の方,雇入れ後一定期間未満で技能習得中の方,その他当該産業に特有の軽易な業務に従事する方などには適用されません。)。

 なお,一般の労働者より著しく労働能力が低いなどの場合に,最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれなどがあるため,次の労働者については,使用者が都道府県労働局長の許可を受けることを条件として個別に最低賃金の減額の特例が認められています。

 ①精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い方

 ②試の使用期間中の方

 ③基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている方のうち厚生労働省令で定める方

 ④軽易な業務に従事する方

 ⑤断続的労働に従事する方

 なお,最低賃金の減額の特例許可を受けようとする使用者は,最低賃金の減額の特例許可申請書(所定様式)2通を作成し,所轄の労働基準監督署長を経由して都道府県労働局長に提出してください。

 

●派遣労働者への適用

 派遣労働者には,派遣先の最低賃金が適用されますので,派遣労働者又は派遣元の使用者は,派遣先の事業場に適用される最低賃金を把握しておく必要があります。

 

●最低賃金の対象となる賃金

 最低賃金の対象となる賃金は,毎月支払われる基本的な賃金です。

 具体的には,実際に支払われる賃金から次の賃金を除外したものが最低賃金の対象となります。

 ①臨時に支払われる賃金(結婚手当など)

 ②1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)

 ③所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)

 ④所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)

 ⑤午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち,通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)

 ⑥精皆勤手当,通勤手当及び家族手当

 

●最低賃金額以上かどうかを確認する方法

 支払われる賃金が最低賃金額以上となっているかどうかを調べるには,最低賃金の対象となる賃金額と適用される最低賃金額を以下の方法で比較します。

 ①時間給制の場合

 時間給≧最低賃金額(時間額)

 ②日給制の場合

 日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)

 ただし,日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合には,

 日給≧最低賃金額(日額)

 ③月給制の場合

 月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)

 ④出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合

 出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を,当該賃金計算期間に出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除して時間当たりの金額に換算し,最低賃金額(時間額)と比較します。

 ⑤上記①,②,③,④の組合せの場合

 例えば,基本給が日給制で,各手当(職務手当など)が月給制などの場合は,それぞれ上記②,③の式により時間額に換算し,それを合計したものと最低賃金額(時間額)を比較します。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2015.10.19更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士・濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 今年も最低賃金が改定される時期となりました。ちなみに,東京都の地域別最低賃金は,「時間額907円」となり,効力発生日は平成27年10月1日となっております。

 今回は,「最低賃金制度」について解説したいと思います。

 

●最低賃金制度とは?

 最低賃金制度とは,最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め,使用者は,その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。

 かりに,最低賃金額より低い賃金を労働者・使用者双方の合意の上で定めても,それは法律によって無効とされ,最低賃金額と同額の定めをしたものとされます。

 したがって,最低賃金未満の賃金しか支払わなかった場合には,最低賃金額との差額を支払わなくてはなりません。また,地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には,最低賃金法に罰則(50万円以下の罰金)が定められ,特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には,労働基準法に罰則(30万円以下の罰金)が定められています。

 【参考条文】

 最低賃金法第4条第1項

 使用者は,最低賃金の適用を受ける労働者に対し,その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。

 同法同条第2項

 最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金に達しない賃金を定めるものは,その部分については無効とする。この場合において,無効となった部分は,最低賃金と同様の定をしたものとみなす。

 

 労働基準法第24条第1項

 賃金は,通貨で,直接労働者に,その全額を支払わなければならない。ただし,法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては,通貨以外のもので支払い,また,法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合,労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては,賃金の一部を控除して支払うことができる。

 

●最低賃金の種類

 最低賃金には,地域別最低賃金と特定最低賃金の2種類があります。

 ① 地域別最低賃金

 地域別最低賃金は,産業や職種にかかわりなく,都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金として,各都道府県に1つずつ,全部で47件の最低賃金が定められています。

 なお,地域別最低賃金は,[ア] 労働者の生計費,[イ] 労働者の賃金,[ウ] 通常の事業の賃金支払能力を総合的に勘案して定めるものとされており,労働者の生計費を考慮するに当たっては,労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう,生活保護に係る施策との整合性に配慮することとされています。

 ②特定最低賃金

 特定最低賃金は,特定の産業について設定されている最低賃金です。関係労使の申出に基づき最低賃金審議会の調査審議を経て,同審議会が地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認めた産業について設定されています。全国で242件(平成25年4月12日現在)の最低賃金が定められています。この242件のうち,241件は各都道府県内の特定の産業について決定されており,1件は全国単位で決められています(全国非金属鉱業最低賃金)。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2015.06.22更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

仕事中のケガや病気で3年を超える療養を続ける労働者について,使用者が一定の補償金を支払えば解雇できる解雇制限の例外をめぐる訴訟の判決において,最高裁第2小法廷(鬼丸かおる裁判長)は平成27年6月8日,「国から労災保険の支給を受けている労働者も対象となる」という初めての判断を示しました。

今回の訴訟は,国から労災保険の支給を受けて休業中だった男性が,勤めていた私立大学から解雇されたのは不当であると訴えたものです。上記最高裁判決は,今後の労働実務にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

 

 

 

労働基準法(以下「労基法」といいます。)第19条第1項本文には,「使用者は,労働者が業務上負傷し,又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間・・・は,解雇してはならない」と規定されています。

 

ただし,使用者が,第81条の規定の規定によって打切補償を支払う場合は,この限りではありません(労基法第19条第1項ただし書)。ここに打切補償とは,労基法第75条の規定によって補償を受けている労働者が,療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合において,使用者が,平均賃金の1200日分の補償を支払えば,その後は同法に規定による補償を行わなくてよいというものです。

 

上記「労基法第75条の規定によって補償を受けている労働者」には,労災保険法に基づいて療養補償給付及び休業補償給付を受けている労働者は含まれないと解されていました。したがって,このような労働者については「打切補償」を支払っても解雇することはできないと解されていました(東京高判平成25年7月10日労判1076号93頁)。

 

 

 

しかし,今回の最高裁の判決によって,「労基法第75条の規定によって補償を受けている労働者」に,労災保険法に基づいて療養補償給付及び休業補償給付を受けている労働者が含まれると解されてしまいますと,今後,使用者が「打切補償」を行って,労働者を解雇できる事案が増えるおそれがあります。

 

その意味においては,上記最高裁判決は,労働者にとっては不利となるおそれのある判決であったといえそうです。

 

 

 

ただし,「打切補償」によって制限が解かれるのは,あくまで,解雇禁止期間制限の例外にすぎません。当然ながら,解雇権濫用(労働契約法16条)の適用は受けます。

 

たとえば,使用者が,労働者の復職する可能性などを無視して解雇するなど,使用者が解雇権の濫用をしたと評価できる場合は,その解雇は無効とされます。

 

したがって,「打切補償」があったからといって,安易に解雇を認めるのではなくて,復職可能性がないのかどうかなど,きちんと判断されることが求められます。

 

今回の最高裁判決でも,解雇権の濫用があったのか否かなどついて,さらに審理が必要であるとして,高裁に差し戻されています。

投稿者: 弁護士濵門俊也

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