弁護士ブログ

2017.02.09更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

私事ですが,昨日(平成29年2月8日)放送されたテレビ朝日の番組『マツコ&有吉の怒り新党』に弁護士としてのコメントがオンエアされました。視聴していた方々からはご連絡をいただきました。

さて,当職らの事務を担当している事務職員が「●月▲日,有給を取りたいのですがよろしいでしょうか」とお願いしてきました。当職は「もちろん大丈夫よ」と回答しました。理由もとくに聴きません。
ところが,企業の中には,労働者が年次有給休暇を取ろうとする際,理由を述べさせるような企業もあるように聞きます。
そこで,今回は「年次有給休暇」について解説していきます。


●そもそも「年次有給休暇」って何?

 

使用者は,6か月以上継続して勤務し,全労働日の8割以上出勤した労働者には,少なくとも10日間の有給休暇を与えなければなりません。年次有給休暇を取る権利は,法律上当然に生じるもので,労働者の請求や使用者の承諾によって生じるものではありません(林野庁白石営林署事件・最判昭和48年3月2日民集27巻2号191頁)。
年次有給休暇を付与しなければならない日数は,勤務年数に応じて,最高20日まで加算されます。労働基準法は,あくまでも最低の基準を定めたものですから,これを上回る日数の年次有給休暇を与えることは,もちろん構いません。
また,年次有給休暇を取得しても,その間の賃金は支払われます(有給休暇といわれる所以です。)。


●「年次有給休暇」は労働者の自由!


年次有給休暇をいつ取るか,また,それをどのように利用するかは,労働者の自由です。会社は,休暇の理由によって,休暇を与えたり与えなかったりすることはできません(前掲林野庁白石営林署事件)。
ただし,例えば,一度に多数の労働者が同じ時期に休暇を取るなどすれば,事業の正常な運営が妨げられることも考えられます。そこで,事業に支障が出るときに限り,使用者は,年次有給休暇を他の日に振り替えることができます(これを「時季変更権」といいます。)。
ただ,そうは言っても,使用者が休暇取得日を一方的に指定できるということではありません。単にボールが労働者に投げ返されただけのことで,労働者があらためて休暇取得日を指定することになります。
事業に支障が出るときというのは,客観的にみて,そのときに休まれたら企業が正常に運営できないという具体的な事情があるときで,裁判例では,会社の規模,年次有給休暇を請求した人の職場での配置,その人の担当する作業の内容・性質,作業の繁閑,代わりの者を配置することの難易,同じ時季に休む人の人数等の様々な事情を総合的に考慮して,合理的に決定すべきであるとされています(東亜紡績事件・大阪地判昭和33年4月10日判時149号23頁,判タ80号91頁)。
また,最高裁判例によれば,労働者が指定した時季に休暇が取れるように状況に応じた配慮をする義務が使用者にはあるとされています(弘前電報電話局事件・最判昭和62年7月10日民集41巻5号1229頁ほか)。
したがって,ただ忙しいからというだけで,年次有給休暇の取得を拒否することはできません。


●使用者と労働者の対応如何?


年次有給休暇は,労働基準法により労働者の権利として守られています。使用者には,前述のとおり,時季変更権が認められてはいますが,「できるだけ労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすること」を使用者は求められており(前掲弘前電報電話局事件),実際には,変更権を行使できるケースは限定されています。この点を踏まえた上で,使用者とよく話し合い,理解を求めましょう。


●不利益取扱いの禁止


使用者が,年次有給休暇の取得を理由に,労働者に対して不利益な取扱いをすることは,労働基準法によって禁止されています。
ここでいう「不利益な取扱い」には,精皆勤手当や賞与の減額,欠勤扱いとすることによる不利な人事考課などのほか,年休の取得を抑制するようなすべての不利益な取扱いが含まれます(沼津交通事件・最二小判平成5年6月25日民集47巻6号4585頁など参照)。
なお,この事件では,タクシー運転手につき,年休取得日を皆勤手当の算定基礎である出勤日から除外する措置が問題となったのですが,月給に占める皆勤手当の割合が最大でも1.85%にとどまることなどから,年休取得を事実上抑止する力は大きなものではないとして,望ましくはないが,無効とまではいえないと判示されています。)。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2017.01.18更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

先日とあるテレビ局の取材を受ける機会がありました。当職も毎週視聴している人気番組ですので,名前がクレジットされるといいなと思っています。取材を受けた内容に関連する事項について今回は解説してみたいと思います。

インターネットを利用している場合,ツイッターやフェイスブック,YouTubeなどでいろいろな写真や動画を投稿したり,他人の投稿内容を見たりして楽しむことが多くなっています。
しかし,このようなSNSサイトや動画サイトでは,自分やそのご家族のお顔が写った写真や動画が勝手に投稿されてしまうことがあり得ます。
インターネット上で自分の画像が勝手に利用された場合,肖像権の侵害が問題になり得ますが,そもそも肖像権とは具体的にどのような権利で,その侵害はどのような場合に認められるのでしょうか?肖像権侵害を受けた場合の対処方法も知っておく必要があります。
そこで今回は,インターネット上の画像投稿で問題になりがちな肖像権の問題について解説してみます。


●肖像権とは?

 

インターネット上で自分が写っている画像や動画を勝手に投稿された場合,肖像権侵害が問題になり得ます。
「肖像権」とは,「みだりに自己の容ぼう等を撮影され,これを公表されない権利」(最大判昭和44年12月24刑集23巻12号1625頁参照)のことです。著作権などと異なり,法文による明文化はされておらず,最高裁判例によって確立されてきた権利です。
肖像権の根拠は日本国憲法第13条後段の幸福追求権にあるとされています。
肖像権というと,有名人にのみ認められるようなイメージもあるかもしれませんが,そのようなことはなく一般人にも認められます。このことは,最高裁の判例などでも明らかにされています(最判平成17年11月10日民集第59巻9号2428頁,これはいわゆる「和歌山毒入りカレー事件」の被告人について問題となった事件でした。)。
なお,有名人には,それとは別に財産的権利である「パブリシティ権」という権利も認められます。
一般人にも認められる肖像権には財産的な性質はなく,単純に「勝手に自分の写真を撮影されたり公表されたりしない」という人格的利益です。


●プライバシー権侵害と肖像権

 

肖像権は,プライバシー権侵害ととても似た性質をもっています。
プライバシー権とは,みだりに私生活に関する事実を公開されない権利であり,たとえば,生い立ちや家族構成,今の生活様式や場所,勤務先や交際相手などの情報がプライバシー権によって保護されます。
また,自分の容ぼうもプライバシー権の保護の対象となり得ます。そこで,自分の写真を勝手に公開された場合,肖像権だけではなくプライバシー権侵害も問題になり,この場合にはプライバシー権と肖像権は同じ内容となります。
ただ,プライバシー権の場合,情報が他人に知られる状況にならないと侵害にならないので,たとえば勝手に他人の写真に自分の姿が写り込んだだけのケースなどでは,プライバシー権侵害にならない可能性があります。
これに対し,肖像権が問題となるのは,写真を撮影されたり公開されたりした場合なので,勝手に撮影されて偶然自分の姿が写り込んでしまった場合などでも肖像権侵害になります。
また,肖像権は,自分の容ぼうを撮影された場合のみに問題となりますので,文書などによって個人的な情報や私生活を公表された場合などには肖像権による保護は及ばず,プライバシー権の適用を問題にする必要があります。
以上のとおり,プライバシー権と肖像権はとても似た権利であり,適用場面が重なることも多いのですが,細かく見ていくと適用場面が異なることもありますので,別個独立の権利として認める必要があります。

 


●肖像権侵害になる場合の基準

 


インターネット上で自分の写真が勝手に利用された場合など,肖像権侵害が成立するにはどのような基準で判断されるのかが問題となります。
肖像権侵害があるかどうかについては,基本的に,その撮影や公開が被写体の受忍限度を超えるかどうかによって判断されますが,受忍限度を超えるかどうかの判断に際しては,以下のような事情が考慮されます。
• 撮影対象の人物をはっきり特定できるかどうか
• 被写体がメインになっているかどうか
• 拡散可能性が高い場所に公開されたかどうか
• 撮影対象の人物をはっきり特定できるかどうか
写っている人がはっきり特定できる場合には,肖像権侵害が認められる可能性が高くなり得ます。反対に,ぼんやりしていて顔などがよく分からない場合には,肖像権侵害にはなりません。
• 被写体がメインになっているかどうか
写真の中で,人物がメインになっている場合には肖像権侵害が認められやすくなります。これに対し,風景などがメインになっている場合には肖像権侵害にはなりにくいです。
• 拡散可能性が高い場所に公開されたかどうか
たとえばネット上のSNSなどでは,拡散可能性が高いので肖像権侵害が認められやすいです。これに対し,公開せずに自分一人や限られた少人数で共有するにすぎない場合には,肖像権侵害が認められにくいです。
また,肖像権侵害が起こるのは,被写体の承諾がないからであり,権利者である被写体が撮影や公開について許可をしている場合には,肖像権侵害になりません。
かかる撮影と公開については別個の承諾が必要になるので,撮影の承諾をしていても,公開の承諾がない限り,勝手に公開したら肖像権侵害になることにも注意が必要です。


●SNSで肖像権侵害が行われるケース


それでは,SNSで肖像権侵害が行われる具体的なケースをご紹介します。
【ケース①】自分と子どもの写真が勝手にSNSに投稿された
たとえば,子どもと一緒にお出かけをしていたとき,外出先で写真を撮影していた人が勝手に自分たち親子の写真を撮って,SNSに公開することなどがあります。この場合,自分と子どもの両方の肖像権侵害となります。
【ケース②】友人が自分の顔写真をフェイスブックに投稿した
フェイスブックでも問題は起こります。友人が自分の顔写真を許可なくフェイスブックに投稿したケースでも,肖像権侵害となります。
肖像権は,勝手に撮影されない権利であるだけではなく,勝手に公表されない権利も含むので,友人に対して撮影の許可をしていても,公表の許可をしていない限りはSNSへの写真投稿が違法になるからです。
【ケース③】知り合いが秘密の画像を勝手に公開した
誰でも,人には見られたくない秘密の画像があるものです。昔の高校時代の写真や水着の写真,写りが悪い写真など,いろいろな事情があるでしょう。
このような画像を,ふとしたきっかけで他人が取得して勝手に公開してしまうことがあります。元恋人などが,嫌がらせで性的な写真を公開するケースもありますし,今の恋人が悪気なしに性的な写真を公開することもあるかもしれません。
このようなケースでは肖像権侵害と認められるので,相手に対して法的な手続きをとることができます。


●肖像権侵害を受けた場合の対処方法


肖像権侵害を受けたら,具体的にどのような対処が可能になるのでしょうか?

まずは,画像や動画の利用差止め請求ができます。肖像権侵害によって画像などが公開されている場合,放っておきますとどんどん拡散してしまうので,一刻も早く公開を止めさせる必要があります。そこで,肖像権にもとづく差止め請求をすることによって,画像や動画の削除を求めることが可能です。

つぎに,損害賠償請求も可能です。肖像権侵害によってこちらは精神的な苦痛を被ることになりますから,その賠償として慰謝料請求をすることができるのです。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.12.21更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

平成28年12月19日,次のようなニュースに接しました。


最高裁:預貯金は遺産分割の対象 判例変更し高裁差し戻し――毎日新聞
「亡くなった人の預貯金を親族がどう分けるか争った相続の審判を巡り,最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は19日の決定で,「預貯金は法定相続の割合で機械的に分配されず,話し合いなどで取り分を決められる『遺産分割』の対象となる」との判断を示した。」

これまで,最高裁は,後述する昭和29年や平成16年の判決において,預貯金など分けることのできる債権(可分債権)は「(法定)相続分に応じて分割される」と判断してきました。そのため,預貯金は,遺産の分け方を話し合う遺産分割の対象とはならず,法定相続分に基づいて自動的に分けられるとされてきたのです。もっとも,この理解を前提としながら,遺産分割手続の当事者の同意を得て預貯金債権を遺産分割の対象とする運用が実務上広く行われてきました。


そこで,今回は「遺産分割におけるこれまでの預貯金の取扱いと今回の判例変更の意義」について,解説をしたいと思います。


●これまでの最高裁判所の考え方
最高裁判所は,古くから,亡くなられた方(被相続人)が有していた預貯金債権については,死亡と同時に自動的に相続人に分割承継されるという考え方を採用していました。


最判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁
「相続人数人ある場合において,その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは,その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するを相当とするから,所論は採用できない。」


最判平成16年4月20日判時1859号61頁
「相続財産中に可分債権があるときは,その債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり,共有関係に立つものではないと解される(最判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁)。したがって,共同相続人の1人が,相続財産中の可分債権につき,法律上の権限なく自己の債権となった分以外の債権を行使した場合には,当該権利行使は,当該債権を取得した他の共同相続人の財産に対する侵害となるから,その侵害を受けた共同相続人は,その侵害をした共同相続人に対して不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができるものというべきである。」

 

●これまでの最高裁判所の考え方の根拠
最高裁判所が上記のような考え方を採用していた根拠は,民法898条,民法264条,民法427条です。

(共同相続の効力)
民法第898条
相続人が数人あるときは,相続財産は,その共有に属する。

(準共有)
民法第264条
この節の規定は,数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし,法令に特別の定めがあるときは,この限りでない。

(分割債権及び分割債務)
民法第427条
数人の債権者又は債務者がある場合において,別段の意思表示がないときは,各債権者又は各債務者は,それぞれ等しい割合で権利を有し,又は義務を負う。

複数の相続人がいる場合,遺産は,複数の相続人の「共有」に属することになります(民法898条)。 民法898条の「共有」は,基本的には民法249条以下に規定する「共有」と性質を異にするものでないと解されています(最判昭和30年5月31日民集9巻6号793頁参照)。

よって,遺産に含まれる預貯金についても,民法264条が適用されることになり,預貯金について相続人が複数いる場合は,民法264条によって,その複数の相続人が預貯金債権を取得することとなります。

複数の相続人が預貯金債権を取得するということは,すなわち,それぞれの相続人が金融機関に対して「払い戻せ」と請求できるということです。
これは,法律的には,「複数人の債権者がいる」ということになります。

そして,民法427条は「複数人の債権者がいる」場合に適用される規定です。

その結果,民法427条の効力によって,預貯金が相続人に等分に割り振られるということになります。すなわち,遺産分割を経るまでもなく,当然に分割承継されるということになりますから,可分債権は「遺産分割の対象となる遺産」を構成しないということとなるわけです。

 

●これまでの実務の運用
最高裁判所が上記のような考え方を採用していたため,現在の実務でも,この考え方が前提となっていました。もっとも,これまでの実務は,最高裁判所の考え方をそのまま適用しているきた訳ではありません。実務では,相続人間において,預金債権を遺産分割対象に含める旨の合意が成立すれば,合意に従い,預金債権を分割対象に含めて審理をする取扱いをしてきたのです。




●今回の大法廷決定
今回の大法廷決定は,これまでの最高裁判所の考え方をあらためました。
公開されている判決文によれば,「共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である」旨判示しています。

これは,遺産分割の仕組みが共同相続人間の実質的公平を図ることを旨として相続により生じた相続財産の共有状態の解消を図るものであり,被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましいことを前提に,預貯金が現金に極めて近く,遺産分割における調整に資する財産であることなどを踏まえて,本件で問題となっている各預貯金債権の内容及び性質に照らし,上記各債権が共同相続人の合意の有無にかかわらず遺産分割の対象となるとしたものであると理解することができます。

ちなみに,今回の大法廷決定には,補足意見が3つ,意見が1つ付されています。

これまでの実務の運用においても,遺産分割調停・審判において預貯金を取り扱ってきましたし(最判昭和50年11月7日民集29巻10号1525頁参照),金融機関の一部は,従来から亡くなった方の預貯金を遺族が引き出される場合,遺産分割協議書を求めてきていました。

そうしますと,今回の大法廷決定が遺産分割実務の「すべて」に対し決定的な影響を与える訳ではないと思われますが,実務上重要な判例変更であるといえるでしょう。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.12.13更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。


ニュース報道によりますと,東京都千代田区の区立中学校において,東京電力福島原発事故のため福島県から自主避難している生徒が,同学年の3人に「おごってよ」などと言われ,お菓子など計約1万円分をおごっていたことが分かったそうです。本人と母親が学校に申告し,判明したといいます。
新聞社の取材に応じた生徒の話によりますと,昨年夏ごろから一部の生徒に「避難者」と呼ばれるようになり,「福島から来たからお金ないんだろ」「貧乏だからおごれないの?」「避難者とばらすよ」などと言われ,今年になってコンビニエンスストアでドーナツやジュースなどをおごらされるようになったといいます。出たゴミは「あげるよ」などとかばんに詰め込まれたそうです。教科書やノートがなくなり,教室の隅でページの一部がない状態で見つかったこともあったといいます。
生徒は「小学校のときから『菌』『福島さん』といじめられてきたので知られたくなかった。お金で口止めできるのならそれでいいと思った」と話しています。
先日も横浜市や新潟市で同様のいじめがあったことが報道されていましたが,報道に接し,胸が苦しくなります。悲しくなります。「いじめはいじめる方が100%悪い」との思想がまだまだ浸透していないことを痛感いたします。


去る12月10日は「世界人権デー」でした。昭和23年(1948年)12月10日,第3回国連総会で「世界人権宣言」が採択されたのが淵源です。翌年,わが国は12月4日から10日を「人権週間」と定め,毎年,各地で啓発活動に取り組んでいます。
その取り組みの一環として,つぎの言葉のポスターがSNS上で話題となりました。
「わたしの『ふつう』と,あなたの『ふつう』はちがう。それを,わたしたちの『ふつう』にしよう」。
これは,本年の「人権週間」を前に,愛知県が作成し,県内の鉄道駅などに掲示したものです。人権問題について,高齢者,女性,性的少数者,障害者などテーマごとに漫画で描かれており,「分かりやすい」「考えさせられた」と評判を呼んでいます。

法務省は本年,人権啓発のための17の強調項目を発表しました。女性,子ども,高齢者の人権を守り,少数者への偏見・差別などをなくそうと訴える内容です。裏を返せば,項目の多様さは,課題が山積していると見ることもできます。

人間は往々にして,“多数派”とは異なる「ちがう」人や,自分が思う「ふつう」から外れた「ちがう」人を,奇異に見たり,見下したりしがちなところがあります。しかし,それが「まちがい」です。「ちがい」を受け入れ,「まちがい」にしない不断の努力が人権を護ることとなるのです。

古代インドに出現し,仏教を創始したとされるゴータマ・ブッダの言葉に「人の心に見がたき一本の矢が刺さっているのを見た」とうものがあります。この矢とは「差異へのこだわり・執着」であるといえます。このような自分の内なる“差別意識”を克服することが重要となるはずです。

「世界人権宣言」の原題は,直訳すれば「人権の普遍的宣言」です。この普遍性とは,“すべての国や地域”“すべての人”を指すことはいうまでもありません。そこに「時間」という普遍性・永遠性を加えましょう。
毎年やってくる「12・10」を機に,あらためて,自分にできる行動が何であるかを考えます。「善きことはカタツムリの速度で動く」とは,インド独立建国の父であるマハトマ・ガンディの言葉です。ゆっくりと着実に,希望をもって前に進みましょう。

投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.11.24更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 何と,今日の東京には雪が舞いました。真冬並みの寒気の影響で,東京では平年より40日早く初雪を観測したのです。11月での初雪は1962年(昭和37年)以来,54年ぶりとのことです(当然ながら当職の生まれる前です。)。当職も熊本の田舎を出て以来東京での生活が長くなりましたが,びっくりしました。本日は,午前に電話会議が入っていましたので,遅刻しないよう早めに家を出ました。服装もコートにマフラーとまさに真冬の装いでした。
 幸いなことに少し時間調整で電車が遅れる程度で事務所に到着できましたが,現在もダイヤの乱れがあるようです。
 さらに,驚くべきことに,24日午前11時に東京で積雪が観測されたとの報道に接しました。11月に東京で積雪が観測されるのは史上,初めてとのことです。

 

 「『ありえない』なんて事は ありえない」とは,荒川弘さんの漫画『鋼の錬金術師』に登場する強欲のホムンクルス・グリードの言葉ですが(『鋼の錬金術師』第7巻「ダブリスの獣たち」より),本当に何があるか予想だにしません。
 思えば今年は60年ぶりの丙申(ひのえさる)の年。出来事を数え上げればキリがないほど,今年はこれまで日の目を見なかったことが形となって様々現れてきた年でありました。まずは今夜しっかり無事故で帰宅したいと思います。

 

■筆者について知りたい方はこちら(弁護士濵門俊也)

■初めて弁護士に相談される方へ

投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.11.10更新

東京の明治神宮外苑で開かれたイベント「東京デザインウィーク」で11月6日、展示物が燃える火災があり、5歳の男児が死亡、父親ら2人がケガをした。報道によると、展示物は、木製のジャングルジムで、おがくずが絡みつくように装飾されており、電球でおがくずを照らしていたという。

このジャングルジムは、日本工業大学の建築学科の学生らが所属する「新建築デザイン建築会」が出展した。警視庁の調べに対して、制作に関わった大学生は「(ジャングルジムの)内部を照らすために白熱電球を点灯させていた」と話したという。

出火原因は今のところ明らかになっていないが、警視庁は11月7日、白熱電球の熱でおがくずが燃えた可能性があるとみて、業務上過失致死傷容疑で現場検証をおこなった。大学側とイベント主催側は謝罪をおこなったが、法的な責任の所在はどこにあるのだろうか。濵門俊也弁護士に聞いた。

●刑事責任だけでなく民事責任も問題になりえる

「まずは、被害に遭われました方々、とくにわずか5歳の尊き生命を奪われたご遺族の方々に対し、心よりお悔み申し上げます。

報道によりますと、今回の事件は、業務上過失致死傷の被疑事実で現場検証されているようです。刑事責任の側面だけではなく、損害賠償請求という民事責任の側面も問題となりえます。

民事責任も刑事責任も、(1)法的責任を負う主体が負うべき注意義務の内容がどのようなものであるかを明らかにすることが前提となります。

そのうえで、注意義務違反があるというためには、(2)危険な結果の予見可能性があり、かつ危険な結果につき結果回避の可能性があったことが必要となります。

さらに、(3)義務違反と結果との間に相当因果関係があったことが必要となります。

以上を前提に、法的責任を負う主体について、検討してみます。なお、今回の事件の具体的事情がかならずしも明らかでありませんので、あくまでも可能性の話ということを断らせていただきます」

●学生たちの責任は?

「報道から得られる情報が、やや錯綜していますが、今回の作品には白熱球が使用されていたようです。

まず、そもそも学生たちには、可燃性の高いおがくずが電球の発する熱によって出火しないよう注意すべき義務があったといえます。しかし、学生たちは独自の判断で、LED電球から白熱球に変更したようです。白熱球はLED電球よりも周囲が高温になりやすいことがよく知られています。

当初はLED電球を使用することが決まっており、現場の判断で学生が白熱球を使用したとすれば、この熱によって、おがくずを照らせば出火するおそれがあります。おがくずから出火すれば、ジャングルジムは、可燃性の高いおがくずが絡みつくように飾られていたことから、火が容易に燃え広がり、その火がジャングルジムの内外にいる人々らの生命・身体・財産などに被害を生じさせる結果となることは十分に予見可能であったし、容易に回避できたはずです。

したがって、学生たちには注意義務違反が認められるといえます。

そして、学生たちの注意義務違反と被害との間に、相当因果関係が認められれば、学生たちは、民事上は損害賠償責任(民法709条、同710条)を、刑事上は業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)を問われえます」

●大学側と主催者の責任は?

「大学側は、学生がLED電球ではなく白熱球を使用していたことを認識していなかったなどとコメントしているようですが、仮にそうであったとしても、大学としては学生たちの行動について指揮監督すべき関係はあったはずです。したがって、管理監督責任を負う場合がありえます。

その場合、大学は、民事上は使用者責任としての損害賠償責任(民法715条1項)を問われえます。他方、刑事上は業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)を問われえますが、刑事上の管理監督過失は民事上のそれよりハードルは高いです。

主催者側も、観客の安全を確保すべき義務があると認められる場合もあるでしょう。この場合、民事上は主催者自身の責任としての損害賠償責任(民法709条、同710条)、または大学ないし学生たちに対する指揮監督関係が認められば、使用者責任(民法715条1項)を問われえることとなるでしょう。

ただし、刑事責任としては難しい点が多いです(明石市花火大会歩道橋事故事件参照)。

なお、刑事責任にはありませんが、民事責任においては、損害の公平な分担の見地から、過失相殺が認められています(民法722条2項)。被害者は5歳ということですので、ご本人に事理弁識能力はありませんが、ご両親などの被害者側の過失を考慮することはできます。

もし、主催者側で『事故等の一切の責任は一切負いません』などと告知していた場合でも、一般的には、合意の内容があいまいで、実際に発生した事故については免責の合意なしと認定される場合が多いと思います。場合によっては、公序良俗違反として無効とされることもあるでしょう」

投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.11.04更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 

 昨日は,「文化の日」でしたが,日本国憲法公布70年の佳節でもありました。そして,日本国憲法公布70年の今秋,一冊の本が復刻出版されました。
 タイトルは,『復刻新装版 憲法と君たち』(時事通信社刊)。著者は,著名な憲法学者である佐藤功先生(1915-2006)です。気鋭の憲法学者である木村草太首都大学東京教授(木村先生はようやく教授になられたのですね。この本で知りました。)の詳しい解説が付いています。


 佐藤功先生は,新たな憲法をつくる「憲法問題調査委員会」の補助員や内閣法制局参事官として日本国憲法の制定にかかわった「憲法の生みの親」の1人ともいえる先生です。発刊は60年以上前ですが,「君たちひとりびとりにお話をするつもりでこの本を書きました」とあるように,この本の中で,佐藤功先生は子どもたちに憲法の原理と精神をやさしく,語りかけるように解説しています。

 前半は歴史の読み物のようでもあります。マグナ・カルタ,アメリカの独立宣言,フランス革命,リンカーン…。平和主義,民主主義,人権尊重といった近代憲法の三つの理想が闘いの中で勝ち取られたことを説明しています。
 そして,「生みの親」は日本国憲法の成り立ちについて説いていきます。

 「この今の憲法が…日本が新しい国として生まれかわるために,新しい理想をはっきり定めようとしてつくられたものだということはわすれてはならない」

 「もしもマッカーサー元帥が,こういう憲法をつくれということを命じなかったとしても,二どと戦争をくり返さず,国民の考えに反した政治がおこなわれず,また国民の自由がおさえつけられない,そういう新しい国として生まれかわるというために,今の憲法のような憲法がどうしてもつくられなければならなかったのだ」

 基本的人権,民主主義についてはこれまで日本が世界から後れていて,日本国憲法で追い付いたと説明した後,佐藤功先生の言葉には力がこもります。「だけど,平和だけはちがう。戦争放棄の点だけはちがう。それはほかの国ぐにはまだしていないことなのだ。それを日本がやろうというわけだ」

 佐藤功先生は,終戦直後の停電の中,短い,そして暗いろうそくの下でペーパーを書いたそうです。「それにもかかわらず当時の私は,新しい憲法の精神や原則によって鼓舞され,そして非常にやりがいを感じた…」と後に記しておられます。


●『憲法と君たち』の予見と現在との符合


 佐藤功先生が,『憲法と君たち』を書かれた昭和30年(1955年)は,自由民主党が結成された年です。
 日本国憲法公布から4年後の昭和25年(1950年),朝鮮戦争が勃発。わが国も再軍備の是非が論じられ,結果,警察予備隊が発足しました。昭和27年(1952年)には,日本国憲法施行の年に発行された文部省中等科教材「あたらしい憲法のはなし」の発行が停止になったのです。
 東西冷戦が朝鮮半島で「熱い戦争」となり,冷戦の陣営の対立は厳しさを増し,わが国では改憲を求める声が強まっていました。当時は連合国軍総司令部(GHQ)の「押し付け」でなく自主憲法を制定すべきだとの改憲派と護憲派の緊張関係が高まっていたのです。「自主憲法制定」を党是とする自由民主党もそのような背景のなか結党されました。
 佐藤功先生が,日本国憲法が空洞化してしまうのではないかとの強い危機感をもっておられたことが推測されます。
 上記の状況は,決して過去のものではありません。東西冷戦構造こそなくなりましたが,わが国を取り巻く環境は極めて抜き差しならないものとなっています。戦争のかたちも「テロとの戦い」にシフトし,本来「ランドパワー」の大国が「シーパワー」まで手に入れんとする状況もあります。

 第4章「憲法を守るということ」の記述は,未来を予見しているともいえるものですが,何か現在の状況と不思議な符合がみられるように思います。

 「多数決というやり方も,絶対に正しいやり方だとはいえなくなる」。少数の意見の方が正しいこともある。多数党が,少数党の意見を聴かずに数で押し切るのは,形の上では議会政治だが昔の専制政治と同じだ,として「決をとるまでの議論」の大切さを説きます。
 「憲法を守らなければならないはずの国会や内閣が,かえって憲法をやぶろうとすることがある。事情がかわったということで,憲法がやぶられようとする場あいがある。また,へりくつをつけて,憲法がつくられたときとは別のように憲法が解釈され,むりやりにねじまげて憲法が動かされるということがあるわけだ」
 では誰が憲法を守らせるのか。佐藤功先生は巻末で60年前の子どもたちに「よかったら君たちも声をあげて読んでくれたまえ」と前置きして一つの言葉を残しています。


 「憲法が君たちを守る。君たちが憲法を守る」

 

投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.10.27更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

「ねぇ濵門君。『17条決定』って知ってる?」
本日午後,裁判所の期日から戻ってきた先輩弁護士にそう聴かれました。「17条決定」にいう「17条」が民事調停法上のものであることは知っていましたが,先輩弁護士の取り扱っている事件は地方裁判所管轄の事案です。
そこで,今回は「17条決定」について解説します。


●「17条決定」とは?


民事調停は,原則的に,当事者の話合いによって紛争解決に向けた合意の成立を目指す,という制度です。
ただ,一風変わった制度として,裁判所が解決内容を決定する,というものもあります(民事調停法17条)。これが,「調停に代わる決定」とか「17条決定」と呼ばれる制度です。条文上は職権で行われることと規定されています。

紛争の状況によっては,ある程度まとまりそうになっているのに,お互いに意地になって調停が成立しない,あるいは,会社の稟議,地方公共団体の議会対策など,裁判所の「お墨付き」が欲しい場合もあります。
裁判所の決定であれば,「面子がたもてる」「稟議もとおりやすい」「後から責任追及されない」ということです。
このような場合,裁判所は職権で「調停にかわる決定」,通称「17条決定」をすることがあるのです。

実際の民事調停の場面では,案件内容の専門家が調停委員,専門委員として関与している場合に,調停に変わる決定が活用されることが多いようです。
例えば,建築瑕疵について,建築の専門家が瑕疵の有無,損害の内容・金額を評価,判断する,という形で積極的に関与するという状況です。


●17条決定に対しては異議申立てができる!


調停に代わる決定がなされた場合,何もしませんと,その内容は調停成立と同様に,強制執行可能な状態となります(民事調停法18条5項)。
他方,内容に納得できない場合は,告知後2週間内に異議申立をすることができます(民事調停法18条1項)。
異議申立てがなされますと,「裁判所の決定」は効力を失います(民事調停法18条4項)。
そして,異議申立てに際しては,とくに不服の理由は必要とされていません。
逆に言いいますと,まずは裁判所(調停委員や専門委員)の案をみてからそれを承服するか否かを考えるという様子見的に利用することもできるわけです。
ただし,この決定内容が,その後の訴訟などで資料(証拠)として利用されることはあり得ます。とくに,案件内容の専門家の判断であれば,訴訟などの別の手続でも重視されることが多いです。


●訴訟から調停に手続が移行される場合もある:付調停


民事訴訟において,専門的な調停委員に和解案を出してもらいたい,という場合に「付調停」が有用となる場面があります。「付調停」とは,一般の民事訴訟において,手続を訴訟から調停に変更するという制度のことです。条文上,調停に付すると規定されているので付調停と呼ばれています(民事調停法20条)。
条文上は「職権」とされていますが,実務上は,当事者からの要請により,裁判所が判断する,ということが多そうです。

たとえば,過払金返還請求事件などですが,経営が苦しく,まともな言い分のない消費者金融などについて,弁論期日を2,3回続行し,弁論を終結して判決を「淡々」とする裁判官が多いのですが,ある程度,双方の「本音」を聞き,ある程度歩み寄った17条決定をする裁判官も増えているようです。


付調停の後,「17条決定」の文例としてはつぎのようになります。


当事者の表示  原 告
        被 告
  (注)従前は申立人(原告)とかの表示例もあったようですが,付調停の場合,申立てがありませんので,そのまま「原告」と表記するようです。

 上記当事者間の平成28年(ノ)第○○号○○請求調停事件について,当裁判所は,次のとおり決定する。

6 原告及び被告は,原告と被告との間には,本件に関し,主文掲記の条項に定めるもののほかに何ら債権債務がないことを相互に確認する。
7 訴訟(○○地方裁判所平成26年(ワ)第○○号)費用は,各自の負担とする。

                    事実及び理由
1 請求の表示
 ⑴ 請求の趣旨

 ⑵ 請求の原因
   別紙記載のとおり

2 本決定をした理由
  当事者双方から聴取した事情を考慮した結果。本件は主文どおりの条項で解決するのが相当であると認め,民事調停法第17条に基づき主文どおり決定する。


●先輩弁護士への回答


冒頭の先輩弁護士への回答としては,「受訴裁判所である地裁が,本件を調停に付したうえで,自庁処理をしようとしているのではないか。処理としては『17条決定』をする予定なのであろう。」ということとなります。


参照条文
[民事訴訟法]
(裁判所等が定める和解条項)
第265条  裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官は,当事者の共同の申立てがあるときは,事件の解決のために適当な和解条項を定めることができる。
2  前項の申立ては,書面でしなければならない。この場合においては,その書面に同項の和解条項に服する旨を記載しなければならない。
3  第一項の規定による和解条項の定めは,口頭弁論等の期日における告知その他相当と認める方法による告知によってする。
4  当事者は,前項の告知前に限り,第一項の申立てを取り下げることができる。この場合においては,相手方の同意を得ることを要しない。
5  第三項の告知が当事者双方にされたときは,当事者間に和解が調ったものとみなす。

[民事調停法]
(調停に代わる決定)
第17条  裁判所は,調停委員会の調停が成立する見込みがない場合において相当であると認めるときは,当該調停委員会を組織する民事調停委員の意見を聴き,当事者双方のために衡平に考慮し,一切の事情を見て,職権で,当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で,事件の解決のために必要な決定をすることができる。この決定においては,金銭の支払,物の引渡しその他の財産上の給付を命ずることができる。

(異議の申立て)
第18条  前条の決定に対しては,当事者又は利害関係人は,異議の申立てをすることができる。その期間は,当事者が決定の告知を受けた日から二週間とする。
2〜4(略)
5  第一項の期間内に異議の申立てがないときは,前条の決定は,裁判上の和解と同一の効力を有する。

(付調停)
第20条  受訴裁判所は,適当であると認めるときは,職権で,事件を調停に付した上,管轄裁判所に処理させ又は自ら処理することができる。ただし,事件について争点及び証拠の整理が完了した後において,当事者の合意がない場合には,この限りでない。
2〜4(略)

投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.10.20更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。

 広告代理店最大手・D社の新入女性社員(当時24歳)が過労のため自死した問題に関連し,平成25年(2013年)に当時30歳で病死した同社本社(東京都港区)の男性社員についても,三田労働基準監督署が長時間労働が原因の過労死と認め,労災認定していたことが分かりました。
 D社は「社員が亡くなったことは事実。遺族の意向により,詳細は回答いたしかねます」とコメントしているそうです。
 先日14日(金)には,労働基準法に基づきD社本社等に立ち入り調査が行われたとの報道もありました。出退勤記録等を調査し,是正勧告や刑事告発も視野に実態解明を進める方針ということでした。
 「過労死」という言葉が生まれて久しいですが(不名誉なことに,過労死は「karōshi」として輸出されています。),最近では「ブラック企業」などという言葉もあり,なかなかなくなりません。
 今回は,従業員が過労死した場合の会社側の法的責任について見ていきます。


● 労働基準法の責任


① 労働時間規制

 労働基準法(以下「労基法」といいます。)によりますと,従業員を週40時間を超えて労働させるためには労働組合と労使協定でその旨を定め,労働局に届け出る必要があります(いわゆる「36協定」です。労基法32条,同36条)。もっとも,「36協定」を締結すれば無制限に時間外労働をさせることができるわけではなく,月45時間が限度となります。そして,決算期,納期の逼迫といった場合に時間延長できる特別条項を締結していた場合には例外的に限度時間を超過することができます。
 このような「36協定」の締結を行っていなかった場合,協定によって定めた限度時間を超過して労働させた場合は労基法32条乃至同36条違反となり,6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が課されることがあります(労基法119条)。


② 刑事責任

 労働基準監督署は,臨検や帳簿等の書類の提出を求めたり,尋問を行うことによって労基法違反の有無を調査することができ(労基法101条),違反が発見された場合には是正勧告を行います。もっとも,この是正勧告は一種の行政処分であり強制力はありません。
 しかし,これに従わなかった場合や,形だけの改善を行い是正報告する等,悪質で改善の傾向がみられない場合には,検察庁へ送致(書類送検)となり,刑事手続が執られることとなります。
 どのような場合に送検となるかの明確な基準はありませんが,東京労働局の発表によりますと,以下のような事例で送検されております。
 ① 貨物運送業において,「36協定」未届けのうえ,時間外労働が月127時間を超えていたもの
 ②「36協定」では月45時間を上限とし,特別条項として年6回,上限80時間の延長としていたところ,年6回の回数制限を超えて時間外労働をさせていたいもの
が挙げられております。①「36協定」を締結していないか,②締結されていても形骸化しており守られていないといった場合に送検される可能性があるといえるでしょう。


● 民事上の責任


 上記のように労基法上は「36協定」を締結し,特別条項を定めておけば,現行制度上では時間外労働の上限はありません。しかし,従業員が過労死した場合,会社は民事上の責任を負う場合があります。
 厚生労働省はどのような場合に過労死となるかの基準として,いわゆる「過労死ライン」を公表しております。それによりますと,
 ① うつ病発症前1~6ヶ月の期間にわたって時間外労働が45時間を超える場合は,その時間が長くなるほど業務との関連性が強まる
 ② 発症前1ヶ月の時間外労働が100時間,又は発症前2~6ヶ月の期間にわたって時間外労働が80時間を超える場合は関連性が強いと評価する
となっております。つまり時間外労働月100時間で過労死と認定されることになります。
 そして,判例上,企業は,従業員の労務管理を適切に行う安全配慮義務を負っているとされており(最判平成12年3月24日民集第54巻3号1155頁参照),民法上の損害賠償責任を負うこととなります。ちなみに,安全配慮義務は,雇用契約に付随する義務と解されています。


● コメント


 D社は,「36協定」により月の時間外労働時間の上限を70時間と定めておりました。しかし,実際には上限を超えた長時間労働が常態化していたのではないかとみられています。また,従業員には,時間外労働時間を過少申告するように指導しており,「36協定」が守られていないだけではなく,違反の隠蔽を指導していたともいわれており,より悪質な労基法違反と判断される可能性が高いといえます。
 そして,一つ強調しておきたいのは,上記労務管理に関する安全配慮義務違反による損害賠償責任を認めた平成12年最高裁判決の事例は,同じくD社における過労死による損害賠償請求の事案であったという点です。
当然のことですが,D社側は,当時再発防止に努めるとしていました。そうであったにも関わらず,今回の事件が起きてしまいました。これは,改善どころか,むしろ,より巧妙な隠蔽を行っていた悪質な事案ではないかと判断され,送検される可能性は高いと思います。当職の個人的な意見としては,「一罰百戒」の姿勢で臨んでもおかしくないと考えています。
 さらに,民事でも安全配慮義務違反として損害賠償責任を負う可能性が高いです。
 このように従業員が過労により自死してしまった場合,労働基準監督署からの行政処分だけでなく,刑事責任や民事責任も同時に生じる可能性があります(労基法は,単に労使間の関係を規律した法律ではなく,刑事罰も規定している結構恐ろしい法律です。)。
 事業主の皆さんにおかれましては,「36協定」を締結して労働局に届け出ているか,時間外労働の上限を定めているか,定めていたとして過労死ラインを超えていないか等を,今一度見直してみてはいかがでしょうか。

 

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投稿者: 弁護士濵門俊也

2016.10.14更新

こんにちは。日本橋人形町の弁護士濵門俊也(はまかど・としや)です。


 今日10月14日は「鉄道の日」ですが,昨日13日に当職がとくに注目したニュース報道が2件ありました。
 まず一つ目は,スウェーデン・アカデミーが,ノーベル文学賞を米国の歌手ボブ・ディランさん(75)に授与すると発表したというニュースです。歌手(ボブ・ディランさんはシンガーソングライターです。)が同賞を受賞するのは初めてのことです。
 スウェーデン・アカデミーは,ボブ・ディランさんを「偉大なアメリカ歌謡の伝統の中で新たな詩的表現を創造した」と評価しました。どうでもいい話ですが,ボブ・ディランと聞きますと,ガロの『学生街の喫茶店』の歌詞を思い出します。


 つぎに二つ目は,タイの国王であるプミポン国王(88)が崩御なされたというニュースです。わが国では「プミポン国王」の名称で知られていますが,これは通称であり,ラーマ9世(チャクリー王朝第9代のタイ国王)が正式です。在位期間は,1946年6月9日から2016年10月13日までという70年にも及びました。世界で最も長く君臨していた国家元首であり,何世代にもわたってタイの社会を支えた存在だったといえるでしょう。
 ちなみに,通称であるプーミポンアドゥンラヤデートは,「大地の力・並ぶ事なき権威」の意味だそうで,本来はタイ語においては(称号なども含めて)後ろのアドゥンラヤデートと不可分一体であり,プーミポンだけで呼ばれることはほとんどないそうです。


 ニュース報道等をみますと,タイの国全体が喪に服している状態です。
 嘆き悲しむ国民たちは,国王の肖像画を掲げ,タイの首都バンコクの街角で祈りをささげていました。国王が治療を受けていたシリラート病院の外に集まった群衆の多くは,王に幸運が訪れることを願ってピンク色の服を着ていました。プミポン国王がタイで敬愛されていることの証左といえます。
 タイ王国は立憲主義の国ですが,政府に問題が起こったときには国王が仲裁役として大きな役割を担ってきた歴史があることは皆さんご存じのとおりです。70年間に及ぶ在任中,クーデターや政治的な対立が起きたとき,国王は常に政治的な権力を行使してきました。2014年5月にもクーデターが発生しましたが,現在は国王の承認を得たのち,軍政の支配下にある状況です。
 懸念されるのは,プミポン国王の崩御により,タイが今後政治的に不安定な時期に入るのではないかという点です。マハ・ワチロンコン王太子(わが国のマスメディアは「皇太子」と表記・呼称するのですが,皇帝や天皇の継承者ではないのですから,誤用であると思います。)が王位を継承するのはよいとして,圧倒的に力量やカリスマ性が先王に劣ることは紛れもない事実だからです。新国王が先王ほど国民や政治に対して強い影響力を持たないおそれがあるとすると,王位を実質的な意味で簒奪しようとする輩が現れる可能性は否定できません。
 タイ国民は「まことの時」に遭遇しています。悲しみを乗り越えて,国難を乗り切っていただきたいと切に願っています。

 

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投稿者: 弁護士濵門俊也

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